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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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188/303

それでも、今はまだ平和だった。


 謎の王族登場。


「陛下! 不用意に近付かれませんよう!」


 いや、普通に王様でしたか。

 大臣と小舅君を引き連れて、ちょっと早足での到着だ。


 こんなとこまで来るなんて、王様、暇なの?

 それとも、コレ…やっぱりそういう重要案件なの?

 ハハッ、悩むまでもなく後者だよねぇ…。


「本当に開けるとは…。なぜ、お前達はそちらにいる?」


 扉の内と外で向かい合う我々を見て、まずは不思議そうな問いがかけられた。


「こちらの方が安全だからですかね」


 衛兵、なんか私を警戒してるもの。

 チラッと目で訴えると、謎の王様は衛兵を少し下げた。相手側からの圧迫感が減ったので、幼馴染も警戒度を少しだけ下げたように見せた。

 衛兵の牽制用にしていた傍目にも今すぐ剣を抜けそうな臨戦体勢を、ただ目立たぬ警護姿勢に変更しただけだ。位置取りも変わらないし、実際に剣を抜くスピードも変わらないであろう。

 簡単には解除しないところに、守るよ!っていう安定のアンディラート感を感じる。

 私、結構お強いし、そもそもクズだし、守り甲斐がないと思うんだけどね。こんな生き物すらも背に庇おうとするとか、マジ天使。


 謎の王…いや、もう王様だとわかったのだから、別に謎じゃないか。王様が廊下にポツンと置かれた燭台に目を遣る。


「ここは宝物庫で正しいのだな」


 感心したようなその言葉。妙な言い方に、こちらも首を傾げかける。

 でも、そうか。

 彼らだって入れないのだから、そう名前が付いていても誰も確かめられなかったのか。

 そう考えると、王様自らが野次馬しに来ても不思議じゃないかもね。


「そうですね。中身をみんなここへ出せと言われても、私とラッシュさんだけでは運べませんが。間違いないと思います」


 持ってきたのが燭台なので、これは宝物ですと胸を張っていいのかは悩むところだ。綺麗だからって勝手に銀器認定していたものの、もしステンレスだったとしても、私にはわかんなさそう。

 宝物っぽいもの…部屋の中には色々あったし、机なんかにも無駄に装飾が付いていたのだから、きっと大丈夫よね。貴金属や宝石で飾られたものがしまわれた部屋は倉庫ではなく宝物庫!


 さて、ここからが交渉だ。


 私は相手の開けられない部屋を開け、役に立つことを示した。

 出会って数日は互いに様子見で、恐らくこちらが本当に国を乗っ取りに来たのではないのか、相手方も警戒していたはず。


 それがパクッと咥えて持ってきた獲物を、きちんと王様の前で離したのだから、持ち逃げしない人間だという理解は得られただろう。


 こちらとしては、まぁ、後ろから殴ってこないでくれればそれ以上を求めてはいない。

 共闘というほど、ぽっと出の他人を信用とか…きっと、お互い、そう簡単にはね。


 人間不信の私本体が相手を信じるにはそれなりの手間と時間が必要だし、それをカバーするための人当たりの良い上っ面のロールはといえば…先日、下地から吹っ飛んだばかり。相手に警戒を解かせる他の手段はない。誠心誠意なんて、既に疑心暗鬼な私の領域じゃないので。


 折り悪く不便な状態なのよね。

 いつまでもロールが不完全なままでは、誰とはなく相手に不審を持たれてしまうので、早いとこ調整しなくては。


 …こんな私を許してくれるのは、天使くらいなのでな…。

 親にはほら、まだ直接見せてないんで。きっと大丈夫と思っても、メイビーが取りきれない。


「もう少し調べれば、この仕組みを解除する方法も見つかるかもしれません。これは二度と作動しなくても構わないのでしょう?」


 問えば相手方は驚いたようだ。

 他の誰かが発言する前に、周囲を黙らせるように片手を軽く払い、王様は一歩前に出た。


「出来るか」


「調査不充分な現状で、確とは言いきれませんが…手はあるのではないかと思います」


 宝物怪盗は別として。

 そもそもの魔道具みたいなものか、魔法のかかった部分がどこかにあるはずだ。


 いつかのオタ者の研究材料を思い出す。具体的には、石壁や御神体。魔法は場所や空間ではなく、物にかけていたことについて。

 効果範囲の中にいるから、悪さが出来ない。

 きっと御守りと同じように「悪者が近付けませんよう~!」と、かしこみかしこみしたのだろう。


 個人的には、出入り口を管理する以上その周辺の壁か、ドア自体に細工があると見ている。もしもそこに外敵排除の御守り模様があるというのなら、是非とも観察したい。スケッチせねば。

 空間に作用する魔法があるかないかは知らないけれど…城の中でこっそり毎日何十年も結界張り続けてる魔法使いとかは、さすがにいないと思うのよね。


 ダメなら、そもそも「宇宙船の壁すら切断する謎ビーム」として具現化したウクスツヌブレードでセコミュを物理的に斬るか、取り外しの考えられてないはずの壁部分をアイテムボックスに片付けて、別の入り口を開通させたらどうよ。


 …あ、でもそれで耐久の落ちた城が突如崩落したらコントじゃ済まない。どこかに耐震強度を測る技師とかいらっしゃいませんか。

 そんな内心の不安を綺麗に隠して、私は笑顔で交渉を始める。


 協力しようぜ、信用ではなく利害によって。

 そうそう欲張らなければ、お互いに得るものがあるはずさ。


「ある程度、そちらの居住の利便性は上がるはずですわね。その代わりに、と言っては何ですが。女王派について、そちらが持っている情報を出して下さいませんか」


「何…?」


「早く潰して故郷に帰りたいので。アジトがわかれば一番助かります」


 もろりと本音がはみ出た。

 どうせこの人達も、何をどれだけ協力してやろうが、私のことを信用できる日は来ないはずだ。せいぜい使い潰すことしか考えまい。


 だって、国の中枢の人達よ? 情で簡単に動くことはないよね。

 ましてや玉座を狙える他国の人間というだけで、仮想敵でしかないでしょう。


 でも、担ぎ上げる派閥さえいなくなれば、伝手のない私は玉座を狙えなくなる。

 無害なオルタンシアちゃんを、あえて害そうとは思わないであろう。

 もし思うようなら…取りあえず助走付けて殴っておきますかね。場合によっては身体強化も乗せます。類人猿系令嬢の本気。


「貴方に開けられない扉がなくなり、ついでに抵抗する勢力もいなくなるのなら、私とは対立する理由もないのではなくて?」


 それとも、どうしても対立したい?

 道はよく考えて選んで下さいね。現実の選択肢はリセットボタンがありませんゆえ!(豪快なブーメラン)


 だが、わかる。一度認定した「コイツ、敵」マークはなかなか取れないものだ。

 ゆっくりと、相手方の一人一人を見て笑いかける。


 私がクズでなくば、仲良くする道はあったのだろうか?

 うーん。

 女王派はお母様を閉じ込めたから完全に私の敵だが、この人達は別に…ただの先祖の仇?

 知ってる人に無体を働いた訳じゃないから、どうでもいいな。


 そして、どうでもいい人と…仲良くする労力を絞り出せない私がいます…。

 うん、憎まれない程度の相互利用で大丈夫です。

 忘れられた姫君を忘れてくれるのなら、むしろ多少サービスしても良い。


「今後とも、是非とも我々と友好的にしたい、ということかな?」


 顔に笑顔を残したままで、内心では真顔になる私。

 何を聞いとったのかね、王様よ。


「…まぁ。そう聞こえまして? ご安心下さいな。目的を果たせば、可及的速やかに立ち去ります、と申し上げましたのよ」


 初対面の私の失敗を思い出してくれたまえよ。

 ボロクソにヒドイ感じだったでしょ。本音はあっちなんだからね。


 見つめ合う私と王様。


 …ん? やつれてるけど、この人、実は思ったより若い…かも?


 そりゃあ私よりはずっと年上だろう。

 だけど、もしかしたらお父様よりは若そうかも…でも、お父様は謎年齢だな。参考にならない。

 ならばお友達のヴィスダード様は、えーと…従士隊当時で正騎士先生が三十代だったよね。それより年下だった気がしたから、むしろ今頃さんじゅう…いくつ…? 駄目だ、わからん。


 じゃあ、比較対象を変えてトリティニアの王様はきっとお父様より年上だと思…どうかな、なんせヒゲだったくらいしか覚えてないな。むしろあのヒゲで勝手に年齢上げて考えちゃってたもかな。


 え、ええい、とにかくうちの王様よりも、下手をするとお父様よりも、若いかもしれないということに気付いたのだよ。だから小舅君が王様を守ろうと、私に虚勢を張ってキャンキャンしているのかもね。


 エゲレス女王が高齢、天皇陛下も最近まで生前譲位出来なかったイメージのためか、若い王様ってなんかちょっと不安になる。

 背景に何があって代替わりしたのか。

 この国はこの国で、何か問題を抱えているのかもしれないな。特に手伝う義理はないけど。


「ほう、まだこの国に根を下ろすつもりはないのか。先日から急に態度を改めたから、少しは気が変わったのではないかと思っていたのだがな」


 はっはっは。


 王様め。わざと蒸し返してるね。

 私が被ったこの頑丈な猫を、剥がそうとしているのかな?

 さては、暴言女子フランちゃんが突然上手いこと貴族っぽく装ったことに納得いかなくて、どれくらいでガチギレするのか試してるんでしょ。

 残念、実は本当に令嬢だったのだよ。下地はあったのだ。


 …まぁ、初対面の態度がアレすぎたのは確かだもの。反省した。

 王様だって、立場上あんな態度を取られたことなんてなかっただろうし、ちょっとくらい言いたくなるのは仕方ないよね。


「わたくしは自分が貴族に向いていないことを理解しております。それが、ましてや王宮でなど…とてもとても」


 ウフフと笑って見せます。

 この程度では、失敗したりしないよ。


 …あれ、つい最近失敗したのに。

 今日は妙に心に余裕があるじゃない?


 どういうことだ。…うーん。

 もしかして、素でいるよりも、こまめに何かを演じてた方が早く勘が取り戻せるのかもしれない。それに、何だか演じたもの達が足りていないと、自分の行動にものっそい自信がなくて、余計に情緒不安定になるのかもな。


 そうよね、鎧を着込んでいないと戦えないものね。

 よし。そうとわかれば、アンディラートと2人のときも、少し練習に付き合ってもらうか。


「そうか? 今はそれほど悪くも見えぬ。猫を被るのは上手いものではないか」


 王様の態度は、いっそ心から感心しているように見える。

 普通なら、猫のひとつくらいでしたら町娘にも被れますものね。初対面の私は失敗しましたけどね。

 うわーん、後悔先に立たず!


「…ご存じの通り、未だ伸び代だけは余っておりますもので」


 二度とお母様の教えを破らぬ。

 その一心でフワフワと微笑んで見せる私。


 しかしまぁ、駄目だわ。こやつとの会話、荒む。

 私は王族とは相性が悪いに違いない。


「ふふ、困ったこと。ねぇ、ラッシュさん。成長期なことだけが救いですわね」


 ギブミー、クリーンエアー。

 慰めを求めて幼馴染を振り向くのもやむなし。


 天使は小さく首を傾げた。


「先日の件は寛大にもお許し頂けたのだから、もう済んだ事。そしてこの国に関わるのは今だけだ。俺には、どんなフランであっても問題ない」


「君には落ち着き次第好きなだけクッキーを焼いてあげます」


 ラッシュさんは、珍しく拳を突き上げて無言の喜びを表した。

 そして今まで常識的で大人しかった彼の突然のその行動に、王様チームはものすごくビクッとなっていた。一糸乱れぬ動きで一歩退いたの、ちょっと面白かった。




 

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