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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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スキマライフ!~祖父の従姉の行方不明になった次女の孫、か?

なかなかに興味深い人物であったことは確かだ。

執務室で机に頬杖を付く私の隣で、側仕えが怒っている。


「あの小娘、平民にしても、不敬にも程がある。王に対するあのような態度を見過ごすなど…申し開きのしようがございません」


「相手方を見極めるため、どのような態度で何をしでかしても喋るなと厳命したのは私だ。しかし、あの目には驚いたな」


実際は肩に届くか否かの長さの髪にも驚いたし、他国とはいえ王族相手に「死ね」等と暴言を吐く粗雑さにも驚いた。


あれの国にも貴族がいないわけではあるまいに。よくあの年まで打ち首にならず生き延びたものだ。


付いていた男は従者であろうか。

あちらは躾が出来ているのか、あの場での発言はなかったが…苦労が忍ばれるな。


「黙っていれば容姿はまだマシでしたが、あのような性悪では害はあっても何の役にも立ちますまい。即刻処罰したいほどです」


この側仕えがここまで怒る様も珍しい。

しかしながら、玉座を追われて市井に潜伏し、こちらへの恨み事を吹き込まれながら育てば、特にあの態度が不思議とも思えぬ。

正当血筋の女王候補からすれば、こちらは仇でしかないわけだからな。


「さて、各所の封じられた部屋を開けてさえくれればそれ以上の使い道もない。女王にも妃にもなりたくないというのなら、こちらとしては助かる話だ」


「…それとて本音かどうか」


側仕えはそう言うが、恐らく真実なのであろう。

王族に取り入ろうとする人間は数多あれど、ああも直接的な嫌悪を向けられたのは初めてだ。


そしてそれは、何に食いつくものかと思いながら妃という提案を出した直後だった。


もちろん妃になどするつもりはなかったが、血筋のためにひっそりと囲うこと自体は考えていた。

あの目を見たなら尚更だ。


国の頂点に有りながら、城に開けられない扉を持つ我ら。何十年にも渡り見せつけられるそれは、どうやっても覆い隠すことの出来ぬ、簒奪という負い目。


誰もが口にしなくとも、腹の底ではわかっていた。ここは未だ借り物の城だ。城は我々を主と認めていない。

女王は死して尚こちらを睥睨している。その、屈辱。


それを払拭できる、正当な血を取り込む、恐らく二度とはない機会だ。


我ら一族にとて女児が生まれないわけではなかった。

だが、直系でなければいけないのか…扉は決して開かない。

居城を移せば、この国は女王のものだと、認めることになる。何代も指をくわえて眺めた取り出せぬ宝物も、諦めることになる。


全く、忌々しいものだ。奪った国の金庫が開かないなど、笑い話にもならない。

我々は簒奪の汚名をすすぐために、周辺国に頭を下げてでも、民を苦しめぬ善政を余儀なくされた。


暴虐の女王から政を取り上げた以上は、そうでなくばならなかった。


「どうなさいますか、陛下」


「暁の目を持つあの娘の力、扉を開けられるのかを見極めねばならぬ。当分はご機嫌取りだな。見目よく飾り立てて夕食に招待でもするよりないが…マナーが心配だな」


「すぐに教育係を手配します」


父である前王も、借金ばかりの国営にすっかり疲れ果て死んだ。

権力を望んだ側は金策に追い立てられ、国を追い出された直系は玉座など要らぬと言う。滑稽なものだ。


あの小娘が手放すつもりのない自由とは、確かに魅力的なものだ。私が王である以上は、誰に言うこともできやしないが。


あんな山猿でも、暁の目だ。

必要なのは女王の血のみ。

気は進まなくとも、何とか取り込むことが出来ればいいのだが。

あの気性では褥で寝首をかかれかねないな。



数日は、顔を見る機会もなかった。

滞在が最高機密とも言える、暁の目の持ち主。とはいえ、国王自らが長時間対応できるわけでもない。


会うのが少し億劫でもあった。不自由はさせぬし、歓待もしようと決めていたが、今のところ相手から何か求められたという声はない。


だが、どう過ごしているものか。

報告だけは上げさせるつもりであったが、呼びつけた側仕えは、真っ青な顔で現れた。


「…何があった」


驚いて問えば、言いにくそうに口を開きかけた側仕えは悩み、またつぐむ。

そんなにも伝えにくいことが起きたのだろうか。


「何か対応が必要か?」


「…いえ、その…」


埒が明かぬ。ソファに座らせ、女官に飲み物を用意された。その間も、側仕えは頻りと首を横に振り、報告するための言葉に迷っているようだった。


机にはまだ仕事が残っているのだが、急ぎではない。明日に回してしまうか。


「フラン・ダースについての報告であろう? 支度金が不足したか?」


山猿を、見られるように飾り立てようというのだ。それなりの出費は覚悟している。


当然、個人資産から捻出している。

全く、どこもかしこも金がかかるな。


しかし、側仕えは「いいえ」と答えた。

予算をオーバーしていないのならば、問題などなさそうなものだが。


「恐ろしい…恐ろしい娘です。先日はあんなに粗暴で無礼であったのに…」


話がよく見えず、眉を寄せる。

そういえば、マナーの教育を施す予定であったか。


「それなりに見られるようになったか?」


「…用意した教育係を紹介しようとしたところ、必要ないと言い出しまして。ほんの数分部屋に籠ったかと思えば、物の見事に化けました。嘘のような淑女ぶりでしたよ…」


青ざめるようなことだろうか。

手間が減ったのなら喜ばしく思うが。


どのように変わったものか、興味が湧いた。

処刑やむなし、怒り心頭といった様子であった側仕えが、こうも頭を抱えるなど。


「身綺麗にせよと言い付けたところ、仕立て屋すらも不要だと。どこに隠していたものか、自前のドレスで過ごしております」


「ドレスか。だが、あの頭では…」


「そこです。かつらか何かなのでしょうが、着替えて出てきたと思ったら髪まで長くなっていて!」


「…やはり、状況がよくわからんな」


どう化けたのだ。見てみたい。


「声をかけるに遅すぎる時間と言うこともあるまい。あれは食事を済ませたのか?」


「いえ、部屋での食事を希望しておりましたので、先程手配したところで」


「ならば私も、共に取ることにしよう」


「はっ!?」


「用意せよ」


「はっ!」


慌ただしく出ていく側仕えは、すっかりと切り替えたようだ。顔色も良くなっている。何かと忙しいのが好きな奴だからな。


机の上の書類を片し、何とはなしに室内を見渡す。

この城の全てを、私はまだ把握していない。先代も先々代も、明らかにすることはできなかった。


宝物庫は開かず、隠し通路は見つからず。しかし書物には残されている装置や施設がある。玉座を継ぐものは、代々自分の不正当を思い知らされる。


…何も知らない幼い頃は、この城の謎を解き明かすことを夢見たものだ。


「この年になっては、はしゃぐ様など見せられんが」


誰が継いでも、何も変わらない。

いつも、そういう諦めがどこかにあった。


どこかの馬の骨に操られ、権力を欲しがった末の弟を粛清した時にも、下らぬと思っただけだ。

追従の陰で、誰かが妻子のない私の後釜を虎視眈々と狙っていても、あまり興味が持てぬ。


私を廃したとしても、最終的には開かぬ扉と金に頭を悩ませるだけだ。


いつか来る正当な後継者を警戒しながら。どうせ自分達は、それが訪れるまでの繋ぎなのではないかという諦観と共に。


だが、転機は訪れた。


「誰でもない、この私の前に現れたのだ」


女王派はいつも気配ばかりながら、確実に厄介事の陰に存在し、だが尻尾を掴ませない。

そこに相手方最大の切札が飛び込んできたのだ。期待のひとつも、しようというもの。


口ばかりは達者であったな。

だが女の細腕で何が出来よう。冒険者などと言ってはいたが、あの従者が、大体のことは代わってこなしているのであろうよ。


従者の方がこちらに付けば、あの娘を囲い込むことも出来るのではないか。




…そんな風に思えたのはしかし、すっかりと「化けた」娘を見るまでであった。


なんだ、あれ。




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