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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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見知らぬお客



 そろそろ、如月さんが帰ってきてもいい頃合いらしい。


 やらかさぬ。絶対にだ。

 そんな強い決意を秘めて、異世界風・紫パセリまみれのマッシュポテトを作る。


 テヴェルマンによる、サラダが食べたいとの意向を受けたためだ。

 マッシュポテトがサラダ?と疑問に思われることは理解している。


 そこには常人には予想もつかない悲しい理由があった。

 テヴェルが育てていた生野菜は、片手間に魔物植物に構っている間にうっかり魔物化したらしい。

 ヘドバンよろしく畑でワサワサと頭を振り続けるサニーレタスは異様であった。

 私には…むしって食べる勇気はない…。


 ところで、この田舎の村跡にはドレッシングなどない。一般家庭に酢は常備などされておらず、油といえば獣より採られたものを差す。

 だからどう頑張っても、ここでは彼の望むサラダは食べられないと思う。


 貴族のお屋敷ならドレッシングも普通に出てくるだろう。

 だが、山村となると味付けは、大体が潔く塩だ。


 街では金さえ積めば手に入る調味料も、村では輸送の関係上あまり手には入らない。

 ソルト・オア・味ナッシング。


「うっ…赤紫色…」


 まみれ芋にテヴェルが引いてる。

 何よ、紫芋だと思えば何てことないのに。

 赤紫、なかなか鮮やかじゃないですか。これがフォトジェニックとかいうヤツですわよ、多分。


「そりゃあパセリだから、赤紫にもなるよ」


「違ぁう! パセリは、パセリはこんな紫じゃない!」


 頑なに認めないテヴェル。

 だが、異世界パセリはそんな色なのだ。

 エグ味少ないから、そのままパクッとやっても前世のよりは食べやすいよ。私は好きじゃないけど。


 じゃあなんで作ったかって?

 自爆技の嫌がらせだよ!


 というのは半分冗談で、これにおろしニンニクとバターと塩胡椒を足したら急に美味いのです。

 材料は私のアイテムボックスには、ございます。


 え、テヴェルの分?

 ただのパセリ混ざった潰し芋だけど、何か?

 塩は入れたよ。あとは、そうだなぁ。


「胡椒もお好みでどうぞ」


 私にはこれが精一杯である。

 人前で、あんまり異世界仕様じゃないことはできませんもの。


「イギリス式かよ! うーん…ポテサラならマヨネーズが欲しいぃ…。そうだ、フラン! マヨ作ってよ」


 私が前世持ちだと知らないくせに、軽々と自分の常識をぶちこんでくるから困る。

 うっかり反応してしまったらどうしてくれるのだ。


「え、何か言った?」


「マヨだよ、マヨネーズ」


 わぁ。難聴してみたのに、全く構わず畳み掛けてきたぜ。


 …でもこれ、私もやってたのよね。

 アンディラートが聞き取れなくても、私が喋りたいからって喋ってた。


 クズとはなぜこうも自分本意な生き物なのか。

 早く人間になりたい。

 クズ脱却を目指す私は、素直に己の所業を猛省した。


 しっかし、思い返すほどにアンディラートにとっては宇宙人みたいな幼馴染みだったろうに…よく仲良くしてくれたよなぁ。さすが天使だよ。


「えー、聞いたことないなぁ、まゆれーずぅ?」


 異世界人には聞いたことがない名称なので、フランもそんなすぐ正しくは発音できないよね。

 とりあえず名前もよく聞き取れていなかったふりで、無情に話題を流す。


 油断してツルッと喋っただけなのだとしたら、ここが話題転換ポイント。立て直し時ですよ。

 だが、テヴェルは前世ネタを誤魔化しもせずに会話を続けようとする豪の者であった。

 本気で、赤の他人に前世の話題を振ってきている。


「マヨネーズだってば。やっぱないの? 困っちゃうなぁ、ホントこっちって文化レベル低い」


 マヨが文化の全てだと思っているのだろうか。

 私にはあんまりマヨを求める心がないので承服しかねるな。

 多分、前世でもタコ焼きとお好み焼きにしか使ってなかった気がするし。


 それともテヴェルは変人扱いを恐れないほどにマヨが好きなのだろうか。

 それならもう自分でお作りよ。電動ミキサーはないがな。


「うんとねぇ、サラダに使うんだし…酢と、卵かな? なんかそんなんでできた、野菜にかけたりするやつ。作ってみてよ、きっと気に入るよ。だって、好きな人はマイマヨ持って歩くらしいよ」


 えっ、マヨって要冷蔵じゃないの?

 若干慄いたが踏み留まった。


 見知らぬマヨとやらについて、テヴェルが話した通りに受けとるのならば、この世界の人にとってはゲテモノでしかない。

 まず生卵、食べないもの。

 卵に火を通していない時点で嫌がられるわ。


「卵に酢なんて入れるの? そしてその火も通さない生卵酢を、野菜にかける、と? …悪いけど、とてもじゃないが美味しそうには思えないな」


 作らないほうがいいですよ。マヨチートはできませんからね。

 ジャガ村八分の二の舞になるのではと冷や冷やしてしまう。


「えぇー。でも生卵酢って言われちゃうと確かになんか不味そう。他に何か入れるんだったのかなぁ…わかんないな…塩?」


 油が足りてませんぞー、全然乳化してないぞー。

 あぁ、「何でやねーん」てしてしまいたい!

 しかし、それも前世バレしてしまうからできない。


 真顔を保つ表情筋。

 アンガーマネジメントだよ、6秒間耐えよ私!

 …くぅ、何とか突っ込まずに耐えきった。


 危なかったぞ、テヴェルめ。

 お前のマヨが分離していようが、私の知ったことではないのよ! 


 よし、ヤツが考え込むことにより会話も上手いこと途切れた。

 怪我の功名よ。ポジティブシンキング!


 ニンニク臭が不自然じゃないように選んだメイン、鳥のガーリックソテーをいただきます。

 ちなみに私のニンニク臭はアイテムボックスにインされます。

 大丈夫、美少女はいつでもフローラル。


 テヴェルの皿にもニンニクまみれの鳥肉をごろんと乗せてあげているよ。自分でご自由に切り分けやがれ。そして存分に臭え。


「あ、肉と一緒に食べると意外と美味いね、この芋」


 前向きなコメントをいただいた。

 私のよりパサつくけど、まぁ、ニンニクと鳥の脂が入るからね。


 テヴェルの鳥はニンニクマシマシ。

 如何にニンニク臭くなろううとも、ブレスをケアする丸薬などは売っていない。

 如月さんにそっと顔を背けられるがいい。


 しかし結局、如月さんはその日のうちには戻らず。

 日がすっかりと落ちてから玄関扉をノックしたのは、見も知らぬ2人組の男性であった。


 とっさに警戒する私と、なぜか私の後ろに隠れたテヴェル。

 じょ、女子と知って尚、私を盾にするとは…もう好感度最低値すぎて、これ以上下がりようないんだけど。


「どちら様ですか」


 フードを被った怪しい私に誰何されたせいで、むしろ訝しげになる相手方。

 主人と従僕…いや、護衛か。

 疑わしきは罰する派閥の気配を出すのは、守りを任されているからだろう。


 護衛らしき剣士が前に出かけるのを止め、主っぽい方が私とテヴェルを観察している。

 私も負けずに観察返し中だ。

 覗かれた深淵さんもまた、元気に覗き返すものであります。(ガン)ッ!


 守られてるっぽい男は、お父様より少し年上だろうか。

 困惑しながらも、敵対する気はないようだ。

 オルタンアイ(何のチート能力でもない。強いて言えば両目共視力1.5)にて解析したところ、2人とも、森に紛れ込んだ冒険者というには随分身なりがいい。ちょっと厄介な予感がしますね。

 男は一足遅く観察を終え、こちらに窺うような言葉を寄越してきた。


「貴殿がキサラギの言っていたテヴェルか?」


 あ、関係者ですか。ですよね。

 無関係の人が、このホラー植物園の洗礼をかいくぐってまで、ピンポイントでこの家を目指し、かつ辿り着けるとは思えない。


「…俺が、そうだけど。お前何なの?」


 私の後ろからひょっこりしたテヴェルは、相変わらず初対面相手にも無礼全開。警戒露に睨みつけていた。

 いやぁ、地味げな色で作ってるけど、この人の外套、結構お高そうな布地よ?

 護衛らしき人が付いていることから、それなりに地位か権力があるのじゃないかしら。

 村人その1が突っ掛かったら瞬殺される相手…即ち、貴族と推察します。


「仕事上の協力者だ。途中まではキサラギとともに来たのだが、ついてきた追手をまくというので、私達は先にこちらへ来ることになった」


 テヴェルにじろじろと見つめられた男は、証拠を掲げるようにポケットから何かを取り出して見せる。

 …腕輪?


「これを付けていれば、ここらの魔物には襲われにくくなると聞いた」


 何それ、新事実。

 それがあれば、村ごと乗っ取られた人達も安全…。

 腕輪に見覚えがあったらしく、テヴェルは私の陰から出てきた。


「如月のだ。それとネックレスを襲うなって目印にしたんだ」


 あ、これ、アジトの鍵的な奴だ。

 ダメだな、森を安全に歩ける不思議なアイテムとかじゃなかった。

 もし彼らがこれを売る商売に手を出していたら、とんだマッチポンプだと言えよう。


「じゃあキサラギさんはそれがないと襲われるんじゃないの?」


 なんで本人を襲うなって命令しないのか。

 私の疑問に気付いたのだろうテヴェルは振り向いて笑った。


「最近はあまり人は来ないけど、見つけたら気絶させて連れて来いって言ってあるから、襲われても死にはしないよ。それにまだネックレスがあるから大丈夫」


「…物でしか襲わないように指示できないの?」


 自分の仲間なのに。

 なんで襲われる前提なのか。


「植物って馬鹿だから、人の顔の見分けが付かないみたいなんだよね」


 …うわぁ。

 私はそれ以上の追及をやめた。


 代わりに、お茶でも入れるからと奥へお通しすることを提案。

 いつまでも玄関先で立ち話してても仕方ないからね。

 といっても1人で歩き回ると植物に襲われるので、テヴェルが先導する。


 私はキッチンでお湯を沸かし、人数分のカップにお茶を入れて戻った。

 そのたった数分の間に、お客チームとテヴェルは険悪になっていた。

 …え…なんぞ?


 ぴりぴりくる空気の中で、そっとカップを配る私。

 おいおい、テヴェル。私がいない一瞬の隙に何をしたんだ。


「貴殿は何者だ? 私はキサラギから、テヴェルという者の話しか聞いておらんのだが」


「あ、はい。私は彼らの仲間ではなくて…」


「えぇっ!? 寂しいこと言うなよ、フラン!」


 思わずというように声を上げたテヴェルに、護衛の目が険しくなっている。

 …察した。

 何か無礼な発言をしたのですね。そして護衛に目の敵にされたのだね。

 私、関係ないんだけどなぁ。


「私は以前に護衛依頼を受けたことがあるだけの顔見知りです。森の魔物に襲われたところ、気付いたらここに連れて来られておりまして」


「俺、家事得意じゃないんだよ。フランがいてくれなきゃまともなご飯が食べられないよ」


「…と言われて、怪我が治るまで数日滞在していたところです」


 怪我は目が覚めてすぐに治したんですけどね。

 回復魔法についてはバラしていないので、平均的な回復日数まではおとなしくしていたほうがいい。


「ふむ。なぜ室内でもフードを取らない?」


「個人的な都合ですね」


 フードを取る気はない、とアピールする。

 相手方は「そうか」と返しながらも、諦めていない目をしていた。


 こちらとて本来ならば仲間でもない冒険者の仕事に首を突っ込むなんてマナー違反はしたくない。

 だが、如月さんの関係者が、わざわざ合流してきたのだ。

 とてもとても、気になる。


 微かな探り合いの、居心地悪い空気の中。

 テヴェルだけが暇そうな顔で、ソファから足をぶらぶらさせていた。

 …なんで余裕こいてるのかわからないけど、この人達は君のお客さんなんじゃよ?


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