表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おるたんらいふ!  作者: 2991+


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

166/303

ここで会ったが百年目。



 酷く頭が痛い。

 ズキズキでもガンガンでも言い表せないほどの苦痛。


 なんか吐き気までしてきた…。

 ごろりと寝返りを打つ。どっち向きに寝ても駄目だわ。


 ふと、私の顔の前に小瓶が差し出された。




 …え。私、誰の前で、悠長に寝てた…?




 一気に警戒が私の意識を叩き起こす。

 距離を取ろうと慌てて後退ったが、あろうことかベッドの端から反対側へと転落した。


「わぁ、ちょっと、大丈夫か? ごめんな、ビックリさせたか?」


 聞き覚えのある声。

 反射的に上げた目に、なぜか相手もビックリしていた。


「か…可愛い…」


 あ、はい。存じております。


「どこから来たの? 目的地は?」


 動揺した私は唇を引き結ぶ。


「あれ、内緒? それともまだビックリしてる? ねぇってば」


 相手は一向に気にした様子もなく、いっそ容赦ないほどに会話を求められた。

 まぁ、ビックリはしてるかな。

 とりあえず僅かに顎を引き、頷きっぽいものを取り繕った。


「わぁ、可愛い可愛い! 無視されないってことは仲良くなれるってことだよな! ねぇ、名前は何、名前!」


 何を言うとるんじゃ、コイツ。


 今からでも無視していいですかね。

 私は額に手を当てて頭痛を堪えつつ、ジト目で相手を見上げた。


「頭大丈夫かい、テヴェル。君も、魔物に頭を強打されちゃったんじゃないの。…で、ここはどこさ?」


 テヴェルは目を丸くして、じっと私を見る。

 段々、その首が傾いでゆく。


 私も相手の対応をいぶかしみながら、つられて首を傾げ…って、ああっ!

 ささっと手を頭上に滑らせたが、案の定、フードがない!


 なんか視界がクリアだと思った!

 あっ、鎧もない、完全に体型バレもしてる!


 パニックに陥った私は、手近にあった毛布を被った。


 完全なやらかしである。

 いっそ別人を演じれば良かったのに!


「え…何それ、まさか…」


 ほーらね! わざわざ類似点なんか出したから、テヴェルは気が付いてしまった。

 もはや、隠し通すことはできない。

 諦めて、私は低めの声を作った。


「どうも、フランです。久し振り」


「フラン!!」


 絶句された。

 そりゃそうだ。なんでバレちゃうかな。

 私の間抜けっぷりよ…出てくるのは今じゃないほうが良かったよ、発揮するのは天使の前とかがベストだったのだよ、フォローミー。(フォローを切実に求めるという意味で)


 この絶望的状況に、一瞬は吹き飛んでいたはずの頭痛さんまで、そろそろと遠慮がちに戻ってきた。

 たんこぶできてるわ、これ。

 あの蔓ヤロウめ、身体強化様の防御を抜くとは。


 常人なら死んでたかもわからんわね。

 無意識に小さく呻いて、痛みを堪える。


「あ、大丈夫か? ほら!」


 またしても顔の前に差し出されたのは先程も見た小瓶だ。

 近いっちゅーねん。鼻に差す気か!


 どうにも正体不明のそれを受け取る気にはなれず、お断りの言葉を探す。

 うわ、手が無意識にジャパニーズチョップスタイルになりかけてた。

 これ以上の情報漏洩はいけない。


 目測を誤っただけよ。これはジェスチャーではなく、遮らんとする意図のある行動なのだ。

 そんな思いを込めてそっと小瓶に手を添え、相手側へと押し返す。


「すごく頭が痛くて。今は、何か口にすると吐いてしまいそうだから…」


 口許を隠しながらそう言ってみれば、相手は簡単に瓶を引っ込めた。

 普通にいやだよね、吐かれるのは。


 毛布の下から周囲を窺うが、如月さんはいないようだ。少しだけホッとする。

 それにしても、ここはどこだろう。

 見た目、普通に民家の一室のようなんだけど…。


 私は植物に殴られて昏倒した、あのションボリな記憶を思い出す。場所は森の奥だ。集落なんて側にはなかったはず。

 あったとしても、少し前に魔物に襲われて廃村となったはずの場所だ。弱っちいテヴェルが、こんなにのんびりと休憩してはいられないだろう。

 脳内に溢れた私の疑問には、速やかな答えが返された。


「大丈夫か? フランが来るって先にわかってたら、こんな乱暴にしないように命令したんだけどな」


「…え?」


「やっぱ植物なんか何の役にも立たないよ。もっと使えるチート寄越せっての。無双できないじゃん」


 頭の中が真っ白だ。


 テヴェルはチートを持っている。それは農業に関わるものである。

 …この世界には存在しないピーマンを作ったり…農業とは、植物に関わるもので。


 え。セディエ君のアレとか、コイツの仕業なの?

 頭痛が酷くなってきた。

 テヴェルがクズだということは知っていたけど…他人の身体に寄せ植えしちゃう系の人なの? 完全にイカレてない?


 理解の及ばないクズの所業に鳥肌が立つ。

 絶対コイツには深い考えも、綿密で非道な計画も、悲愴な覚悟なんかもない。ただ、何となく、他人を害したに違いなかった。


 …どうしたものだろう。

 そんなことを思いかけたが、選択肢などない。


 テヴェルだけしかいないのならば、むしろ今がチャンス。

 彼は弱い。殺すのは簡単だ。


 好意的な目を向けて懐いてくる相手を害するなんて…相手もクズとはいえ、それを上回るクズの所業であろう。

 無意識にクズの高みへ昇らんとする自分に悲しくなりながらも、殺すしかない。


 か弱い相手をチートで叩き潰し、人殺しとして生きていくのだよ。辛い人生だな。でも、できるさ。やらねば家に帰れない。


 意を決して毛布の中で短剣をサポート生成した瞬間、ぎぃ、と扉が開いた。


 如月さんか。

 オルタンシアを完璧にしまい込んで、フランを広げ…ギクリとした。


 扉は開いた。人影はない。

 目を落とした床には。

 ずるりと這う緑色。


「あ、何だよもー。いきなり勝手に開け…って、うわっ!」


 テヴェルの悲鳴。

 ビュンと音を立ててこちらへ飛んで来た蔓を、咄嗟に躱す。


 ぐらんと視界が揺れ、ギャギャンと警告のような頭痛が走った。

 赤や黄色や緑の明滅を、ちかちかと幻視する。


「…くぅ…っ…」


 この私に悲鳴を漏らさせるとは。さてはこの頭痛も、常人なら意識を失うレベル。


「フラン! だ、大丈夫か?」


 差し伸べたつもりなのか、うろうろと宙を泳ぐテヴェルの右手。

 しかし蔓に怯えているのかサッパリ近付いてはこないので、その距離で手を取れるヤツはいませんわ。軽々しく寄られても困るけど。


 うぅ、急に動くと頭痛が…吐き気が…しかし動かねば死ぬ。吐いても死なぬ。そして死ぬわけにはいかぬ。

 くっそぅ。最悪、ゲロッパー攻撃も手段に加えてやるからな。

 生命の危機という大事を前に、女子力は犠牲になったのだ。


 ヤケクソという言葉が燦然と輝く私の胸の内。

 そんなことなど欠片も知らぬテヴェルは、多分サポート短剣に気付いてドアを開けたのだろう植物を怒鳴りつけた。


「なに勝手に攻撃してやがるんだ、誰がやれって言った!」


 蔓はゆらゆらとその場で揺れる。


 叱りは命令ではないから、待機状態なのかもしれない。

 余計にテヴェルは苛々したようだ。


「行け! ここは勝手に開けるな!」


 しゅるりと蔓がベッドの上からいなくなる。

 ずるずると廊下の向こうへと引っ込んだ。

 しかし、扉は閉めて行かない。フルオープンだ。


「っかー。開けたら閉めろよな、もう!」


 ぷんすこするテヴェルを見つめながら、私は冷静さを取り戻す。

 頭痛に苛まれるなか、もう、私には理解できていた。


 テヴェルは、自分に与えられたチートをうまく使いこなせていない。


 命令以上をこなす私のサポートに対し、命令すら上手に聞けない彼の植物チート。圧倒的な性能の差異。その理由。

 テヴェルには想像力が不足しているのだ。


 他人を何の感慨もなく害することでも、その片鱗は見えていた。

 テヴェルは面倒なのか、思いつかないだけなのかはわからないが、最低限の命令しか出していない。


 恐らくまだ「私を襲ってはいけない」という命令は出していないのだろう。だから植物は『魔力を奪う』という自分の特性に沿って、私を襲った。


 先程も「勝手にドアを開けるな」という命令をしていた。

 多分、テヴェルは意にそまぬ行動をした都度、命令を加えているのだ。

 効率悪くないかね?


 私のシャドウファミリー達は、ドアの開け閉めなんて考えるまでもなく普通にやる。

 でなけりゃ、室内特訓の様子が誰かに見られるかもしれないじゃない。


 まぁ、逆に言うと、テヴェルは見られても困らない環境で練習をしてきたのだろう。

 例えば、如月さんと2人きり 、とか。


 一生懸命考えを巡らせるけれど、もう全然駄目だ、頭痛が酷すぎて考えた端から思考が霧散する。


「…ごめん、頭が痛くて、もう起きてるの無理みたい…動くと吐きそう」


 ギブアップ宣言と共にベッドへ沈む。


「わっ、マジ顔色が悪いや。ごめんな」


 とりあえず寝て、と言い残してテヴェルは出ていった。

 多分心底リバース映像にぶち当たりたくなかっただけだと思われる。

 だが、助かった。


 うーんうーんと唸りながら何度か寝返りを打ち、はたと気付く。


「…『マザータッチ』」


 数秒の後、スッキリ全快致しました。


 えぇ…ちょっと治癒に時間かかってたんですけど…私の脳とか頭蓋骨とか、大丈夫だったのだろうか。そりゃ吐き気もするわ。

 若干時間がかかったけど、回復魔法の存在を思い出して良かった。

 それでも失った体力を養うため、私は再び眠ることにする。


 そっとファントムさんに部屋の鍵を掛けさせた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ