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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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スキマライフ!~ちょっとした心境の変化。【リスター視点】



 ごろりとベッドの中で寝返りを打つ。


 手足に違和感はなかった。

 フェクス曰く、呪いによる後遺症の類いは、まるでないとのこと。


 多分、チビが回復魔法を使ったんだろう。

 俺が聞いたことのある呪いというものは、そう簡単に治るようなものじゃなかった。


 長期間呪われていた場合は、解呪薬を使っても元通りには戻らない。

 解呪薬は病気治療のように回数を分けて飲むもんじゃないからな。即効だ。一瞬だ。


 つまり呪われた人間の身体には、呪いと薬の攻防で一気に負荷がかかる。


 呪われたらどんな腕利きでも冒険者は廃業。

 俺が聞いたのは、諦めず長きに渡り呪いを解く旅をした剣士の話。呪いが解けた途端、身体が砂になったという逸話だ。


 呪われていた期間が短ければいいんだろう。

 きっと解呪薬が作られた時代には、呪いも薬も身近だった。


 だが、今の時代にそれを手に入れることは、ほぼ不可能。

 そういう話だ。どのくらいの期間なら無事なのかなんざ、誰にもわからねぇ。


 なのに…解呪薬作るとか馬鹿かよ。


 呪われたなら、無理に解くことは考えないほうがいい。どうせ腕や足を失えば廃業なんだ。それと何も変わらない。

 ダンジョンでなくとも、墓っぽそうな遺跡の調査依頼なんかでは耳にする話だ。


「…あぁ、クソ。チビがいないと退屈だ」


 呪いとは、魔物が人間をいたぶる為の、遠回しな死の宣告だ。

 だから正直、もう前のように動くことはないと思っていたが…後悔もなかった。


 好きに生きれば、選択の結果として死ぬこともある。それが自由ってもんだ。

 母にはなかったが、俺は違う。誰にも邪魔されたりはしない。


 俺のせいでチビが追っ払われたというなら、そうした奴をブチ殺すのも俺の自由だ。

 今は、いまいちダルイ。魔力が足りてない。それさえ治れば…。


「…全部俺の好きにする。他人なんざどうでもいい。グレンシアなんか二度と来ねぇ」


「何を仕出かすつもりだ」


 呟いた途端に他者の声が聞こえて、咄嗟に魔法を放つ。

 戸口に立っていたのはトランサーグだ。

 家の中で気配を消すとか馬鹿な真似すんのは、戦闘大好きな冒険者くらいだろ。


「…弱っていて良かったと言わざるを得ないな。フランも厄介な人間を手懐ける」


 何だよ、魔法が効いてない。

 耐性の魔道具か。じゃあ、勝てねぇな。


 つーか魔力足りてねぇってのに、無駄に使わせんな。余計ダルイわ。

 トランサーグは不機嫌そうにこちらを見た。うぜぇ。俺だって不機嫌だ。


「俺だけ家に残ってんのに文句でも? 明日にゃ出てくから心配すんな」


「追い出す気はない。ここはお前達が借りた家だろう。出て行くにしてもきちんと商会に話を通すことだ」


 なんで俺がそんなことを。

 …面倒くさい。

 借りたのはガキだったな。

 ガキはチビについてったらしい。まぁ、良かったか。

 仕方ない。そんなら家の解約手続きくらいはしてやるか。


「だが、もう少し待った方がいいと思うぞ。フランから手紙が届いている」


「はぁ?」


 手紙とか普通に届くのかよ。

 そんなら、チビへの警戒は解除されてるのか…いや、こいつがうまく受け取っただけの可能性もある。まだわからねぇ。


 情報が足りない。

 …今日明日で魔力が回復するかはわからねぇし、もう少しここにいてもいいか。


 手紙を受け取ろうと手を出すが、トランサーグは肩を竦めただけだ。


「あ? 早く寄越せ」


「ベッドの中の病人に渡しても身体に障るだけだ。明日起きられるようなら渡そう」


「ざっけんな。俺のものだろうが」


「強制的に寝かし付けられる前に、おとなしくしてもらいたい。…安心しろ。少なくとも、フランの敵に回る気はないんでな」


 魔法が効かない相手は相性が悪いが、言いなりはごめんだ。そう思いかけたところに、最後の台詞。

 …敵じゃない、か。

 だが、そんなのはわからねぇ。この世に絶対の味方なんてものはない。


「…そう警戒するな。俺はフランの身元を知っているからな。あれの親を敵に回すと故郷の地を踏めなくなる」


 身元…トリティニアの有力貴族、か。

 別にチビとガキが何者でも構わないが。


 チビは俺同様に貴族らしくはないが、幼馴染みだというガキのほうは時折育ちの良さが出る。いまいち危なっかしい。

 トリティニアには行ったことがない。正直、ダンジョンのない南方の田舎国になんて興味がなかったしな。


「寝る」


 吐き捨てて布団を被った。

 トランサーグが居ようが居まいがどうでもいい。気配を断って部屋に入り込まれりゃわからないんだ。出て行くときも同じだろ。


 呪いが解けたんなら、これ以上足手まといでもいられない。休むのは正しい。

 チビの手紙は、明日でもいい。

 あいつが俺を置いて国に帰る気になったんでもなけりゃあ、手紙には合流方法の示唆でもあるだろう。


 …チビの前で倒れたのは失敗だった。

 そう思う反面、チビの回復魔法が遅れれば更に事態は悪化した気もする。


 俺がどう抵抗したところで、俺に何かあったらチビが泣くのは理解してしまった。

 ガキも、この世の終わりみたいな顔をするんだろうな。

 クソ。何なんだ、あいつら。


 もう、無駄な心配はかけられない。



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