パーティで行動…できない!
リスターは快適に静養しているようだ。
…と言うのもアレだ。
使用人を侍らせるのがお嫌いらしくって、商会のお客人扱いがお気に召さず。
2日くらいで自分だけ宿に移るとか駄々こね出したんですよね。
リスターにはリスターの矜持があるらしい。魔法使いの一人でできるもん…か。
まあ、奴隷に生ませた後継ぎとかいう微妙な出生の人だ。実家で何やかんやあって使用人が嫌いなのかもわからない。そもそも療養させたいのに、心理的に我慢を強いるというのも良くない。
結果として、私達は商会長アグストさんの所有物件から一軒家を借りた。
…なぬ? と私は首を傾げたが、どうやらこの国はダンジョンを観光資源にしているだけあって、長期滞在の冒険者がパーティ単位で家を借りることもよくあるらしい。
冒険者向け集合住宅もあるにはあるがソロ向け。パーティ単位の入居だと騒音トラブルになりやすいので防音処理された戸建が一般的なのだとか。
基本前払いで、家賃が一度でも滞ると追い出されるどころか、家にある私物を全て差し押さえられるらしいけど。
ダンジョン内で死んで帰ってこないこともあるから、仕方ないのかもしれないね。
しかし銀の杖商会は不動産業にも手を出しているのか。手広いな。
痒いところに手が届きすぎて逆に若干不安になる…。
銀の杖商会に絵と指定の魔物素材を納品することを条件に、やたら綺麗な家具付き庭付き一戸建て住まいとなった私達。
これ、その日暮しの冒険者に貸すタイプの家じゃないわ。
正しい意味での月極大邸宅である。
ちなみに滞納による私物没収はない。
庭だって時折商会の人が見に来て、必要なら日程相談のうえ手入れもしてくれるという。未入居でも維持管理はするから庭管理を頼んでもタダ、希望すれば家の掃除にもタダで人を寄越してくれるらしい。
庭も家もタダで管理してくれるとか普通なら有り得ない。後払いだし差し押さえもなく、追い出されたりしない。
そう、本来なら、客間でお世話したかった相手だからだ。
実質ポンとおうちがもらえるとは一体どんな恩を売ったのかとも思うが…多分これは天使への癒し料だな。さすがアンディ…ルァッシュ!(未だパトさんに慣れず)
そんな長期に渡って住むわけじゃないだろう。庭は今後考えるとしても、家の掃除は埃だのをアイテムボックスに収納して廃棄すればいいので、特に頼む予定はない。
あれ、私って掃除屋としても優秀なのでは? いざとなった時に就けるジョブは、結構ありそうな気がしてきた。
冒険絵師フランの絵も然る事ながら、指定の高ランクの魔物素材には冒険者ラッシュさんの腕が見込まれている。
つまり身内価格ではあるものの、そこまでおかしな賃料ではないらしい。
異様に破格だと困ると、ラッシュさんが必死に家賃の値上げ交渉をした結果である。
タダみたいな大放出をしたがる商会長と、やめてほしがる一介の冒険者の図。
アグストさんは大企業の社長なので、出したがるとはいえ自分のポケットマネーでどうにかなる範囲でしかやってないと思うから、大丈夫だと思うんだけどね。
私なら得したなって甘える気がするが、そうしない真面目なところが我が幼馴染み殿の良いところであり、アグストさんがますます気に入っちゃう要因なのだろう。
私達は買い出しやら何やらと拠点を整えるために数日を費やした。
同居にありがちなお揃いのコップ☆とか言いたいところだが、市販品は大体同じ作りなんで、見た目は代わり映えしないという意味で一緒だよ。実用一辺倒。
そんな諸々が落ち着いて。
ようやく、銀の杖商会への支払い用素材をゲットするためにダンジョンに行こうということになった。
「寝過ぎると却ってダルイ」
そんなことを言う魔法使いも、怪我のリハビリがてらダンジョンに潜るという。
お医者様の診断によると、特に日常生活に支障はないだろうと。結構流血したし、まだ貧血なんじゃないかと思うんだけども、本人は元気だから行くとの一点張りだ。
ちなみに呪いかどうかはお医者様ではわからないらしい。
解呪薬を作れる薬師なら、これが本当に呪いかどうかもわかるだろうというのだが…いないんでしょうが?
ホントもー、呪いって何なのよー。教会でも医者でもわからないのに、なんで薬屋さんならわかるの。納得できぬ。
アグスト商会長は引き続き薬師や薬を探してくれるというので、最敬礼にて切によろしくお願いしておいた。
さて、そんなわけで本調子ではないリスターの戦闘参加だ。
正直不安なのだが、動きづらい程度は冒険者としての経験でカバーできると言い張るので、止めらんないのです。この私が全力でサポートするっきゃない。
しかし…向かった冒険者ギルドでパーティ登録をする段になって、同行を止められたのは私であった。
「…えっ。で、でも私強いんですよ?」
「そう仰られましても…リスターさんは実績がございます。ラッシュさんは銀の杖商会の護衛をされたということで紹介状持ちですし、少ないながらも魔獣討伐をメインに受けていた記録もございます。しかしフランさんはほぼ採集と絵の販売の記録しかないので、こちらのダンジョンはお勧めできません」
なんという…。
ガックリと肩を落とす私に、リスターは小馬鹿にした笑いを、ラッシュさんは気の毒そうながらもホッとしたような表情を浮かべている。
俺達が守るんで連れて行きます、などとは言ってくれないようだ。まぁ、言ったところでギルドはパーティ申請を許可しない。
荷物持ちに弱っちいのを連れ歩いて、囮に使った事例が過去にあったのだそうだ。
ゲームと違って、経験値を一定量貯めたらレベルがパパーンと上がって強くなる…というわけじゃないので、パワーレベリングはギルド非推奨。
地道な納品で実力をギルドに見せるか、こんな強さがあるから大丈夫ですよという第三者の紹介状を持ってきやがれと言うことだ。さすがに親しくも腕を見せてもない私の分の紹介状まで、商会長には頼めない。
今日のところはリスター&ラッシュというペアでお出かけいただくことになった。
とても悔しい。私の癒しをリスターに持っていかれた…でもラッシュさんが全力サポートしてくれるなら、リスターも無事に帰ってくるのでしょう。何にせよ、私の不要感が…悔しい。
見えなくなるまで彼らの背中に手を振ると、私は気合いを入れ直した。
目立たぬように生きた結果、2人と共に行動できない事態に陥るとは。無念。
今日は全力で討伐依頼を受けることにした。冒険絵師フラン、元は剣士であったことを見せつけてやりますよ。
ギリギリ攻めて怒られないレベルの討伐依頼をかき集め、私はギルドを飛び出した。
冒険者は実力社会だ。すぐに期待の新人として名を馳せてやるぜ。
それにしても、他の国とは違って早朝でも冒険者が結構いるところが凄いな。
そのうち観光にも時間を取りたいものだ。
朝から美味しい匂いを充満させる屋台通りに胸焼けを起こしながら、私は新人向けの西門へと向かった。
西門方面すら駄目だった場合、まだ城都は早いということで、南に数日戻ってもっと難易度の低い魔獣を相手にすることになる。
というわけで、多分テヴェルは南に戻ったものと思われる。どのくらいで力をつけてくるかはわからないが…あのへっぴりっぷりだと当分会うことはないだろう。
農業チートでは難しかろう。如何に如月さんがパワーレベリングを試みようとも、この世界はレベル制ではないからな。
素早さを上げたければ反復横飛びでもして瞬発力なりを鍛えるしかないし、持って生まれた運の値は一生変わらないのだ。
テヴェルは確実に明日から本気出すタイプで、明日とは常に未来日のこと。彼が私より強くなる日などやってこないであろう。
しばらく臨時パーティもしてたからわかるけど、ヤツを鍛えるの、多分大変だよ。集中力と根気どころか、強くなりたい様子もない。魔獣が出たらリスターが倒してくれるんでしょって、剣を抜く気配を見せなかったもの。
私は採集と絵があったから別としても、冒険者って普通は戦いたがるような気がするんだけどね…。
そんなことを考えながら午前中で新人向けダンジョンを踏破し、そこで強い部類の魔物をハント。意気揚々と街へとって返した。
しかしギルドカウンターにて、再びの理不尽を突き付けられることとなる。
「こんなに早く踏破して来られるわけがありません。討伐証明部位だけ誰かから購入したのではないですか?」
…えっ…と…?
この人、何か私に恨みでもあるのかな…。
フードの下で顔を引きつらせ、ちょっとイラッとした私に、受付嬢は胡散臭いものを見るような目を寄越して告げた。
「正直、あんまり強そうに見えないですし。有望な冒険者に無理に付き纏っているようですと、ギルド側としても対処を考えないといけなくなりますよ」
はっはぁ。つまり、アレですか。
リスターとラッシュは有望だけど、私、それに寄生しようとしている奴だと思われているわけですよね。
…えー…結構頑張って討伐してきたのに、なんかイエローカード出されたっぽい…。
「彼ら、せっかく格好いいコンビの冒険者なのですし。無理に追いかけるのはやめてはいかがですか。新人なら身の丈にあった仲間を探すのが良いと思います」
あってるよ。メッチャ身の丈にあってるよ。ジャストフィットなんですけど。
なんでここまで言われてるの私。
困ったな。近くに癒しの天使がおりませんので、お腹立ちが収まらぬ。
ささくれた心を何とか宥めようとするが、いやー、無理だね。一度離れて再会することで、あの癒し力を存分に思い知った今、彼がいない間どうやって自分を抑えていたのかわからなくなったよ。
癒されたい。
もう、別にギルドの許可とか要らんし。目を付けられるとしても、強制力があるわけじゃないし。無視していい気がしてきた。
当初は納得していたはずなのに…なんか一緒に行動できなかったことすら、受付嬢のせいな気がしてきちゃう。
この人、パーティ引き裂き魔かな。
しかし何のために私達を引き裂くのだ。
トリオの冒険者に何か嫌な思い出でもあるとか? えー。想像つかないな…例えば…例えば…センターを巡る確執…?
受付嬢達は一推しのメンズをセンターにしようと画策し、CDには握手権が…。彼女の推しメンは戦いに敗れ、ついにパーティ離脱。もう坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、みたいな…え、坊主と袈裟が残ったの?
じゃあ抜けた推しは何だ、数珠?
いやいや。ペア冒険者を作り出そうとしているのだから前提が違うな。とすると…君は坊主、僕は袈裟。離れられない2人のカルマ…みたいな。
あれ、何の話だっけ?
そうそう、受付嬢の理不尽な対応だ。
「ギルド側で試験なり出来ないものですか。正直、貴女を納得させなければいけない理由なんてないわけですし。無能な対応ばかりしているようだと、ギルド長にでも直談判しないといけなくなりますよ」
「まぁっ」
そりゃあ、言い返すよね。納得できないもん。カウンターにてトラブル発生です。
いや、私だって大ごとにする気なんてなかったんだよ、ついさっきまでは。
パーティ組めなかったのは、私があんまり討伐以来を受けなかったのが原因だから、仕方ないかもしれないって思ったからね。
だけどさ。その後のは、ただの私情だったよね。
なんだ、彼らは格好いいから私を入れたくないって。どうでもいいじゃんよ、全く腕っぷしに関係ないじゃん。そこにこの私を入れて素敵なトリオにしようよ!(怪しいフードを被りながら)
一触即発、キャットファイト。
にゃにゃー!
「何をしている」
睨み合い続く状況に、ギルド員の誰かが責任者でも呼んだのか。カウンター奥からかかった野太い声。受付嬢は驚いた猫のようにビョンと椅子から飛び上がった。
「ひぇっ、ギルド長!」
ギルド長だと。
最高責任者のお出ましに、私のテンションは急上昇。
すかさず「実績がないというから手早く魔物を仕留めてきたところ、不正を疑われたんですけど」と片手を上げて発言。
身内の言い訳に流される前に、ちゃんと状況見極めてもらおうじゃないのさ。
しかし積み上げた討伐証明部位の量に、ギルド長は眉を寄せた。
「…これを? 朝、受注して今?」
「そうです」
「西門だろう。あっちでは、そんなぽんぽん魔獣に遭わんぞ。素材だけ買ったのか?」
…どういうことなの。
ギルド長にも不正を疑われた。




