サポートアイズ
しっかりと大地を踏みしめて。
「よぅし、来い、シャドウ君!」
気合を入れてサポート発動!
邪悪な感じで湧き出る黒い靄。
素早く輪郭を少年の形を整えて、彼は私に一礼した。
「…まぁ、私がさせてるんだけどね」
シャドウに愛着を持ってみたところでお人形と一緒である。
あの靄の塊が、自らの意志で動くことはない。
しかしながら今日は更に意識を集中。
意味もなく目を閉じてじっとし、しばらくしてからカッと見開く。
「小鳥召喚!」
言ってみただけである。
イメージ通りのエロイムエッサイム。
ぶわりと噴き出した黒い靄が六芒星を描き、びかりと光ってから消える。
そして煙の晴れた地面にはグリューベルの姿が!
はい、意味はないです。
サポートって優秀だな。無機物どころか光や煙も生み出せるではないか。
何がどこまで出来るのか、訓練を怠ってはならない能力だと思う。
「…そして消えちゃってるシャドウ君」
変だな。この間は2種類くらい出しておいても大丈夫だったはずだけど。
厳密にはこっそり入れ替えたサポートフォークとサポートナイフを食事中維持できたのだ。
今のは偶然? もしくは今日は調子が悪いとか?
…同じ種類なら負担にならずに出しておけるのかな。
疑問を持ったらすぐ実験だ。
余計な演出をせずに、グリューベルをもう1匹作ってみる。
…問題なく作れた。
追加。更に追加…30匹のグリューベルがピヨピヨしている。
「うーん? じゃあ、さっきのは集中力が足りなかっただけ?」
一旦サポートを解除。もう一度、グリューベルを作成。
1匹の鳥がちょんちょんと地面をつついている。
そこに、そっと追加されるシャドウ君。
…問題なさそうに存在している。
やはり集中が不足しただけなのだろうか。
消そうと思わないのに消えることって今までなかったから驚いたんだけど。
そのまま黙々とグリューベルを増やし続けてみるも、問題なく増えていく。
MP的なものはどうなっているんだ。
と、思った途端に10匹くらいのグリューベルが纏めて靄となった。
「おおっ?」
消そうと思って消したものではない。
きちんとカウントしてはいなかったが、20匹くらいは作ったよな…。
もう一度試してみる。シャドウを佇ませ、横に広げた腕に、グリューベルを止まらせていった。
右腕10匹、頭に2匹、左腕に9匹…とやったところで左腕のグリューベルとシャドウが消失。
足場を失った12匹のグリューベルが慌てたようにパタパタと地面に舞い降りた。
20匹のグリューベルと1体のシャドウくらいが私の限界値なのか。
…そして消える際には、なぜか周りを巻き込む、と。
古いほうの鳥が残されたことから、強制消去されるのは発生時間の長い個体からではなく、発生失敗した個体とその距離が近いものからだと判断する。
全ての鳥達を靄に変えた直後、素早く文鎮を我が手に召喚。
重い。シャドウを呼び出してその手に文鎮を渡す。
「サポート、よくわからん…」
顎に手を当てて考え込む。
一度に呼び出す限界値を超えると消えてしまう。
だというのに、直後にサポートを使っても何の問題もない。
そしてサポート発動の際に余計な演出を加えたりすると、シャドウを維持できない程度…グリューベル10匹分くらいのMP的な何かを使うということよね。
あとは、持続時間か。どれくらいで消えてしまうのか。
強制消去されたらすぐわかるようにしたいけど。
…ペンダントでも作って服の中に…いや、そんな程度で消えたときに気付けるか?
もっと、なくなったらすぐさま違和感があるようなもの…。
「パンツ…?」
いやいや。消えたら多分すごい違和感だろうけれども。
ダメだろう。うっかりノーパンで転んだりしたら、痴女の道へまっしぐらだ。
「…消えるところが万一誰かに見られても、目立たないもの。なくなった瞬間が、私に気付けるようなもの」
髪に手をやる。
サポートで作ったリボンを結んでおいたら、消えたら髪がパサッと落ちて気付けるかも。
だけど使用人の目があった場合、リボンが切れたみたい、という言い訳はおかしいかしら…。
真剣に考えてみたけれどイマイチ思いつかなかったので、持続時間の計測は夜にやることにした。
まずは朝起きたときに残っているかどうかを見て、一晩もつものか、私が眠っても維持されるのかを確認しよう。
今度街で鈴か何かを探して、サポートで糸を通して身につけ、消えたら落ちて鈴が鳴るというのもいいかもね。
ふと地面に目を落とすとアリが列を作っていた。
アリか…作れるようになって、何かの役に立つかしら。
しゃがみ込んで、じっと観察。
少し離れた位置にサポートでアリを作る。さすがに虫を手に乗せたりとかはあまりしたくない。
じっと見ていると、仲間だと思われたのか、1匹のアリが近づいてきてチョコチョコと何かしてくる。
アリの生態には詳しくないため何の反応も返せずいるうちに、相手はヒョイとサポートアリを銜えた。
ええぇ!?
すわ共食いかと動揺しつつも観察する。サポートアリは野生のアリに運ばれている。
なんでアリなんて作ってしまったのだろう。気持ち悪いぜ。
うわぁ、うちの子が巣に連れ帰られるっ。何、餌扱いで持って帰る気?
見たいけど、見たくない。そんな感情せめぎ合い。
ああ、連れ去られちゃったら何されるかわからない、巣の中に入る前に消さなきゃっ。
でも巣の中ってどうなってるんだろう。見えたらいいのにな。
…そう思っていたら、恐ろしいものが見えてしまった。
巨大アリ。
すげぇ気持ち悪い。
息を飲んでサポートを解除した。
知らぬ間に心臓がばっくばっくと大きく脈打っている。
「…なに、いまの…」
泣きそうになりながら、座り込みたいのを耐える。
虫のどアップとか、衝撃的過ぎます。
ぶるぶると身震いしつつ、何とか考えを纏めた。
あれがもしサポートアリの視界だったら。
サポートで作った動物の目を通して、様子を見ることが出来るのかもしれない。
アリはもう二度とやらないけど。
鳥肌の立った腕をさすりながらグリューベルを作る。
お馴染みの鳥さんが一番良いわ。間違いない。
そして、手に乗せたグリューベルの、見ているものが見たいと念じる。
「おぅ」
見えたのは金色の髪をふわりと風に靡かせた、あどけない顔をした少女。
ぼんやりとした青紫の目の中には、ピンク色が揺れている。
あ、はい。どう見ても私です。
しっかし、視界を鳥に持っていかれているせいかボーッとしてるわ、私。
片目だけとか出来ないものかしら。
ぐるんと片目が自分の視点になった。
うぼぁー! ダメだ、酔うコレ!
慌ててサポートを解除して自分の視点だけに戻した。
「…えっらい疲れた…や、休もう。今日はもうお昼寝しよう…」
大変なことが出来るようになってしまった。
きっととても使える機能だとは思うけど…これを使いこなすのには、時間がかかりそうだ。




