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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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その拾い物はウチの子じゃない



 聞こえてきたのは恐らく口論。

 身を固くする私とは逆に、首を傾げて前へ前へと進むフロン君。


 本気か、関わっちゃう気なのか。


 ここはダンジョン。

 ならば、あの罵り合いと思しき強い口調の何かは、冒険者同士が行っているものだ。

 声はたったの2名分。


 ダンジョンの地図は売っている。

 ソロの冒険者なら、わざわざ見知らぬ冒険者と仲良く同じ道を辿りはしないだろう。

 受けた依頼が採集にしろ討伐にしろ、実入りが減るだけだ。


 つまりは、喧嘩しているのはパーティを組んでいた冒険者。

 他のパーティの仲間割れになんて口を挟んでも、良いことはないと断言できるぞ。


 急にこちらへバタバタと走ってくる音がする。

 これにはさすがにフロン君も、剣を片手に警戒していた。


「うるせぇ! やってられるか、勝手に1人で帰りやがれ!」


 怒鳴り声と共に角を曲がって現れたのは、冒険者。

 こちらに気付いて顔を歪めると、フンと鼻息ひとつを残して去っていった。


 曲がり角の向こうからは、ちょっと語調が弱くはなったものの、罵詈雑言が聞こえてくる。

 …とめどなく、聞こえてくる。


 引き返してしまいたい私を置いて、フロン君はひょいと角の向こうを覗いた。


「…大丈夫か? …あ、おい!」


 悪態が止まった。

 慌てたようにそちらへ行ってしまうその背を、どうしても追う気になれない。


 うーん。ここでこっそりフロン君とお別れというわけにはいかないかなぁ。

 悩んでいると、フロン君は忙しくこちらへと戻ってきた。


「あ」


「どうした? 振り向いたらいなかったから、びっくりした」


「ああ。ううん。…どうだった?」


 私の第六感が、この地面に靴を縫い止めていてさぁ…とは言えぬ。

 曖昧に問いかければ、フロン君は困ったような顔をした。


「話を聞く前に気絶された。怪我しているみたいだから連れて帰ろうと思うんだけど」


「気絶」


 私もそっと角から顔だけを覗いて、通路の向こうを見遣る。

 少し離れたところに、冒険者らしき男が倒れていた。

 細身で小柄だ。

 あまり強そうには見えない。


「アレ、背負うの?」


「そうだな、フランじゃ小さ…フランは俺の荷物を代わりに持ってもらえないかな」


 小さくないよ、アレも背負えるよ。背負いたくないけど。

 内心で反論しつつも、不満顔をフードに隠して頷いて見せる。


 従士隊の平均値も鑑みて、これだけあれば十分だと思っていたのに…皆に言われるということは上げ底が足りないのかな。

 もっと底の高い靴を探さなければ…。


 私がフロンズリュックを受け取ると、彼は怪我人を救助しに戻っていった。

 やがて背負われてきたのは、私よりは身長もあるが、やはりひょろっちい男。


 私が言うのも何だが、あんまり冒険者っぽい体格ではないな。

 腰に下がっているのも、短剣に近いショートソードだし。

 鎧の類いもなくて…そう、言うなれば『丈夫な布の服』なのだ。


 皮鎧や胸当てさえも着用していないということは、お金がないか…単純に本人の筋力が、重量に耐えられない可能性が高い。


「怪我の様子は?」


「重傷ではなさそうだ。だけど、さっきの奴との喧嘩なのかな? 痣と擦り傷なんかが多いみたいだな」


 付近には吐いた形跡もあったというので、腹パンでも食らったのかもしれない。

 引上げ時が早かったので、頑張って歩いて街まで帰ってしまうことにした。


 ちょっと到着は遅い時刻になるが…と思っていたら、帰路の途中で山賊パーティと遭遇。

 相変わらず馬車付きなので、乗せてもらってそのまま帰ることに。


「リスター達もこっちのダンジョンに行く予定だったの?」


「そうだ」


「いやいや、ホントは休息日なんだが、お前が心配だったみたいよ? …うおぉっ、やめ、リスターァ! 馬車から落ちるって!」


 げぇ。過保護か。


 馬車の中は過密状態だ。

 三角座りで小さくなっている私。爛々と紫に輝く目で山賊を睨む魔法使いと、強風に押されて幌馬車から落ちかけている山賊。居心地悪そうなフロン君。隅に転がされている怪我人。


 ちなみに従者たる御者は、主の危機に気付いていない。

 もし落っことしたまま行っちゃったら、リスターが大笑いするな。


「ん…」


 怪我人がふと呻いて目を開けかけた。

 気付いて立ち上がったリスターが、その側へ歩み寄り…。


「…あ…」


「ふんっ」


「ごふ」


 なぜか怪我人に腹パンを食らわして沈めた。

 呆気に取られる、馬車内一同。

 特に、怪我人の拾い主たるフロン君の動揺は、見ていて可哀相なくらいだ。


「…リスター…えっと、なぜに?」


 勇気を出して私が代表となり、行動の意図を問う。

 魔法使いの目の色が、彼の不機嫌が本気であることを示していた。


「あぁ? 面倒だろうが。…コイツはお前の拾い物だ、そうだな?」


 紫色の目で睨まれたフロン君は、コクコクと頷いている。


「ついでに運んではやる。が、こいつの話を聞く必要があるのは、お前だけだ」


 ちょっと困り顔をしたものの、フロン君は更にコクコクと頷いた。

 賢明な判断である。

 不機嫌な魔法使いは、今度はその矛先を私へと向けてきた。


「チビ、何にでも首突っ込むんじゃねぇ」


「…不可抗力だよ」


「何でも、首、突っ込むんじゃねぇよ!」


「不・可・抗・力です!」


 イラッとした顔のリスターに、私は強固に返答を返した。


 だって拾ったのはフロン君なのだ。

 見るからに面倒そうな人材なのは私もわかっていたし、関わるつもりも毛頭ないよ。


「素直に返事しろや、チービ!」


「だって別に自ら突っ込んでないもんね! リスターだって、私に一々ああしろこうしろって言われたら嫌でしょ?」


 最近の過保護には少々物申したい。

 私が全く引かないので、リスターは言われた言葉を少し考えたようだ。


「…嫌だわ。仕方ねぇ…」


「でも心配してくれてありがとう」


「おう」


 仲直りである。

 山賊とフロン君は唖然としていた。


 リスターは、私が面倒に巻き込まれないように、怪我人が目覚める場に立ち会わせたくなかっただけなのだろう。

 もちろん私だけではなく、自分達が面倒を避ける意図もあった。


 居合わせれば話を聞くことになり、相手が困りごとを抱えていれば、その場で聞いた全員が相談された立場になりえる。

 だから、拾ったフロン君だけが話を聞けと言ったのだ。


 リスターの目が無事に灰色っぽくなったので、これ以上のご立腹を避けるためか、誰しもが怪我人の話題を避けた。

 謎の怪我人は謎のまま、私達は無事に街へと帰りついた。


 山賊と御者は食堂でご飯を食べていくらしい。リスターは私についてきた。

 今の宿は長期滞在者向けで簡易キッチンもついているので、我々は絡まれぬようお部屋ご飯の予定である。

 調理は適当に交代制。リスターはあんまり料理が得意ではないが、私に全部やってくれとは決して言わない。


 ギルドで素材類をお金に換える。

 こっそりとフロン君から離れて、別の窓口で収穫をどさどさと提出した。

 提出が結構多かったので、フロン君の方が早く計算と換金を終えてしまう。


「フランは俺よりも荷物が少なかったのに、まだ精算が終わらないのか」


「壁の金属質なとこ削ってきたりしたから、査定に時間かかってるんじゃないかな」


 そういう言い訳にしておいた。


 フロン君は一般からやや低所得冒険者向けの宿に泊まっているらしい。

 怪我人を運んで医者を呼ばねばならない彼とは、そのままギルドでお別れした。


 怪我人については手伝えないが、医者代の足しにしてくれとお金を握らせておく。

 フロン君は親切だと感動していたが、私にしてみれば怪我人との手切れ金であった。


 金で解決。

 汚い大人である。まだ成人してないけど…って、あれっ、誕生日過ぎて…い、いつの間にか成人してたよ! アダルトンシア!

 …トンはちょっと音が悪いな。成人豚(アダルトン)…美少女にはそぐわぬ。


 金髪ウォンバットの素材は一部売り払い、一部は何かに使えるかとしれないからとアイテムボックスへ。

 謎金属は魔力が潤沢に含まれた、鉄だった。わりといいお値段で売れた。


 でも、ダンジョンから採れたのに、ただの鉄か。

 ミスリルとかオリハルコン的な、素敵なファンタジー金属かと期待してた。

 夢見てたくさん取ってきてしまったわ。金属加工の趣味はないので売り払っちゃう。


 そんな風に思ったのだが、魔鉄という名のついた何だかいいものらしい。

 この辺のダンジョンでも、好んで壁を削るような冒険者はいないようだ。


 後日ご指名で採掘依頼が舞い込んできたので、魔鉄は冬場の程良い資金源となった。

 歩きながら、アイテムボックスに詰め込むだけの簡単なお仕事だよ。



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