受付「パーティ名『チーム・金髪』…!?」
リスターの残念な言動はどうやら、望まぬ人間を近付けないためにしている部分が大きいようだ。
ツラの皮一枚で何だかんだと面倒くせぇ、と笑っていた。
素の状態であれば、そんなに付き合いにくい人間でもない。
むしろちょっと世話焼きさんだ。
昨夜など自分の泊まる宿が結構いいからと私を案内しよった。
お風呂があったので、私もそこに即決しました。
「…気に入ったの?」
ギルド受付のお兄さんが、目を真ん丸にしている。
現在、我々が受ける予定の依頼票を、パーティとして受付に出したところである。
「はぁ? ちょっと組んでみるだけだし」
こんなことを言っているが、彼は私を気に入っています。
なんか、懐いた。
酔っ払いですらドン引くくらいの人物と聞いていたのに、どういうことなの。
もしや美しすぎる私の両親の遺伝子シンフォニーに…あ、いや、相手も美形だから私にメロメロはなかったわ。
ツラの皮一枚発言の男だったね。
「魔法使いの戦い方を、見せてもらえることになりました」
リスターが『忘れられた姫君』の関係者でなかったことは残念だが、元々それほどの期待を寄せていたわけではない。
また、気長に情報を探せばいい。どうせ1人なのだ。
少数派である魔法使いと関わるなど、なかなかない機会だった。
せっかく魔法がある世界なのだから、見てみたい。
それに、もしもうまくいけば私にも攻撃魔法が使えるようになるかもしれないという、大きな打算がある。
少しの間組んでみようかと申し出たのは、意外にも相手のほうだった。
私自身、彼に対する印象は悪くない。
もしかしたら、彼も私と同じように…なんか色合いが似ているから親近感を持ったのかもしれない。
あと、捻くれ方、とかにね。
「行くぞ、チビ」
「はい、リスターさん。では」
「さん付けキモイ! 殴るぞ!」
「じゃあチビやめて下さいよ」
「やだねっ! チビチビチービ!」
「子供か!」
苦笑しているお兄さんに会釈をして、掛け合いしつつリスターの後をついていく。
こやつ、自分がさん付けされると嫌がるくせに、幾ら言ってもチビ呼びは是正しようとしない。
確かに、厚底靴を以てしても尚、チビ扱い待ったなしの身長差ではあるが。
しかし歩調は私に合わせるという紳士ぶりを発揮するので、ちょっとほんわり。
紳士で居続けられる人間ならば、害はない。
そんな人間は、私の幼馴染くらいだと思うがね。
「猪型が近くで目撃されたらしいから、まずそれから行くか」
危険な魔獣を間引く程度しか、討伐系の依頼は出ていない。
長閑なものです。
お小遣い稼ぎとして、道中にミーソの実を採取してくる依頼も受けている。
見分け方は簡単だ。
蛍 光 黄 色 の ブ ド ウ を探せば良い。
いや、もう。もうもう。
デラウェアじゃないことを祈るばかり。
色々納得行かないけど、この世界ってそういうもの。
偵察グリューベルをこっそり放ち、木々の高い場所にあるミーソをアイテムボックスへ。
ついでに、それっぽい魔獣を見つけた。
「リスター。私の索敵魔法に、猪っぽいのが引っかかりました」
「マジか。お前、便利!」
変わった魔法を使う魔法使い同士という前提があるために、こんな説明しがたい事象も全く追求されない。素晴らしい。
リスターを誘導して木々の間を抜ける。
さて、猪魔獣を見つけましたが…。
「はい終わりー」
リスターが気の抜けた声で呟いた途端に、猪の首が飛んだ。
「何か寄ってきたらその都度殺せばいいから、解体は後でいいよな?」
答えられないでいる私。
沈黙を肯定と取ったらしい魔法使いは、悠々と歩き出す。
その後ろを、首と逆さ吊りの胴体が、不気味に浮遊しながらついて行く。
…これは酷い。
「風魔法なんでしょうか」
どっちかと言うと念動力じゃないの?
垂れ落ちっ放しの血を踏まないように避けながら、ドン引きな私は、それでも平静な声を取り繕う。
表情が見えないって便利。
「知らね。ドーンてやって、ピッてしたらこうなる」
参考にならないよおぉぉっ!
変わった魔法を使う魔法使い同士という前提があるために、こんな形容しがたい事象も全く追求できない。忌まわしい。
「あ、あそこに鳥が」
「んー」
ざしゅ。
「あっちに兎も」
「あー」
ばしゅ。
…なんてこと。
見つけたから私が狩りましょうかって言いかけてるんだけど、全然最後まで言わせてもらえない。
そうこうする間に、首の切られた鳥と、兎が葬列に加わった。
うわぁ。メッチャ嫌な感じの、ハーメルンの笛吹き男だ。
戦闘では全然役に立てなさそうなので、仕方がないから採集依頼のほうを頑張る私。
「疲れた。休むか」
しばらく歩くと、リスターは溜息をついた。
即座にグリューベルが見つけた、良さげな場所を休憩場所として提示。
できる子アピールだい。
「攻撃魔法を使うと疲れる感じなんですか?」
今のところ回復魔法ではそんなことは起きていない。
魔力の減りに関係があるのだろうか。
「いや、歩くのがダルイ」
「…あ、そうなんだ」
関係はなかったようだ。
なんか一日重労働した後みたいな、疲労の濃い顔をしている。
この魔法使いは、案外持久力がないな。
地べたにぐったりしちゃっていたので、氷の欠片を入れた冷たい水を出してあげたら大変に喜ばれた。
その間にも変わらずに周囲を浮遊している動物の死骸。
完璧なホラーだよ。
この、浮かせてる魔法が疲れるわけでもないのかなぁ。
「ミーソ、全然見つからん」
水を飲みながらリスターが愚痴る。
一応彼なりに探していたらしい。
この辺りの取りやすい位置にあるものは、取り尽くされた後なのだろう。
「取りましたよ。依頼は最低2つからでしたよね。今25くらいあります」
「えっ」
荷物から出すふりをして、2房見せてみる。
暇だから無駄に取りすぎたよ。他に自分の分もあるよ。
別に味噌汁くらいしか作る予定もないから、提出に回せというなら出すよ。
「あとは薬草類が常時依頼でしょうから適当に。個人的に珍しそうなものなんかも、売れるといいなと思ってちょいちょい取りましたけど、こちらの国で珍しいのかどうかはわかりませんね」
冷たい水も美味しいけれど、誰かと一緒に休憩を取るのなら、お菓子摘むとかレモン水にするとか、もう少し贅沢したいなぁ。
今の手持ちの食料って、日持ちいいものとかの実用一辺倒なんだけど、もう少し彩りを添えるべきかしら。
「俺の存在意義がヤバイ」
リスターは難しい顔をして言った。唐突な男である。
「いや、でも私、戦闘してませんが」
「戦えば勝てるだろ。俺はミーソ見つけてない。クソ。チビガキめ。ムカツク」
ムカつかれたよ!
しかし彼の目は灰色のままなので、本気で言っているわけではないようだ。
片手間に魔獣を狩っておいて、何を拗ねているのだろうか。
…特に可愛くはないぜ。
「じゃあ、次回は私がメインで狩りをして、リスターが採集にしてみましょうか」
「そりゃいい!」
相手の目が、カッと紫になった。
え。
そ、そんな変わり方すんの? 怖ッ!
目の色には、やる気が反映されているのだろうか。
とても鮮やかな紫色である。灰色の欠片もない。
別にお怒りではなくても、テンション次第で目の色が変わるらしい。
うむ。勉強になった。
ちょっと怖いが、カメレオン的なものだと思えば、変色しても、まぁ許せるかな…。




