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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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エヴァンネルは腐敗の温床



 結論から言うと野盗は出た。

 そして5分で鎮圧できた。


 3人も守りながら戦わなきゃいけないのなら、相手の人数次第では守り専門にファントムさんを出そうかとすら考えていたのに。全然心配なんていらなかった。


 捕らえた野盗は邪魔なので、その場に置いてこようと思っていた。

 しかし双子が盗賊を衛兵に引き渡すと街で報奨金が貰えるものだと言うので、5人の屈強な男達を数珠繋ぎにして街まで向かった、むさくるしい思い出。


 問題はその野盗の内の1人が、どうやら門番と知り合いだったらしいこと。

 そして、思いの外この街の兵士が腐っていたということだ。


 …私達は、取調べ室に連行されていた。


 盗賊達?

 多分、解放されたんじゃないかな。


 だけど倒したあとについつい、顔に油絵の具で「野盗」ってガッツリ書いちゃったから、当分はおとなしくしていると思うよ。


 背中にもちゃんと負け犬を描いてあげたよ。

 弱い犬ほどよく吠える、と一言添えて。

 妥協はしないよ、ポスターは意図が伝わることが大事だもんねっ。


「木工士とその息子、護衛の冒険者か」


 うぅん。お風呂を手に入れるために、できるだけ穏便に街に入りたかったのだけど。


「この街へ来た目的は?」


「移住です。街なら仕事があると思って」


「ふん。問題を起こす奴に滞在認定証など出せん。そしてそれがなければ商売の許可は下りないぞ」


「そ、そんな。私達は本当に被害者で…」


「そうは言っても誠意を見せてもらわんことにはな…わかるだろう? なぁに、木工士でそんな体型になるほど稼いでいるなら、大したことじゃないさ」


 賄賂ですね、わかります。


 だけど、ニラキッズとパパもこんな街で商売を始めたところでうまくいかないんじゃないだろうか。


「離縁されて貧乏村を出てきた男だぞ。妻に慰謝料を取られて身一つの素寒貧だ。もう弟と兼用の着替えはヤダよー、新しいパンツ買ってよ、とーちゃん」


「燃費が悪くて食べ盛りの息子を2人も抱えて、食費のやり繰りも超大変だぞ。とーちゃんお腹空いたぁー」


 キッズ達もそう思ったのだろう、金はないアピールをし始めた。


「こ、こら、そんな恥を人前でっ…。そうですな、今は生きていくだけで精一杯で…」


「…へっ。景気の悪いこった」


 金づるにならないと見た途端、あっさりと彼らに興味をなくす兵士。

 この街だけ、世紀末なのだろうか。


「そっちの冒険者は滞在希望か? ずっと木工士の護衛でついて歩くのか?」


「いえ。買い物です。野営地が同じだっただけで、昨日が初対面ですから」


「ほう」


 おや。私の受け答えに何かミスが?

 なるべく当たり障りのない答えを選んだつもりだったのに。


「そう、直接街の人間に危害を加えたのもお前だったな?」


 それ、野盗なんだけどね…。

 もしや慰謝料搾取コースかしら。


 無駄金は払いたくないのだが、穏便に済ませるほうが優先か?

 うーん。クズに屈すると考えると嫌だ。


「襲われた以上、対処するのもやむを得ないのでは?」


「相手はお前が襲ったと言っている」


「そうなんですか。理由がないな。野盗の小汚い財布を奪うほど困ってないし、辻斬りしようにも、私は本来絵師ですからねぇ」


 兵士がきょとんとした顔をした。

 私は冒険者証を取り出して、トン、と指で示して見せる。


「絵師ですよ?」


 燦然と輝く冒険絵師の4文字。素敵。

 兵士は一転して胡散臭いと言わんばかりの目を私に向けてきた。


「とりあえずフードを取れ」


「街に入れないなら結構です」


 うっかりしていたけど、ファントムさんを送り込んだっていいんだもの。


 心の天秤は答えを示した。

 こいつに屈するほうが、何かイヤ。


「取れと言っているだろう」


「だからもういいって言っているでしょ」


「顔を見られると困る理由でもあるのか」


「逆にこれだけ因縁つけて顔まで記録するって、投獄確定じゃないです?」


「それはお前の心がけ次第だろうな」


 あ、そこから保釈料という名の賄賂を取る感じなのかな。

 どちらにしても、ウンザリだ。


「仕事もしない兵士に付き合う義理はないな。移住希望ないんで安心して下さいよ。この街に住むとか絶対嫌ですから。税金が無駄すぎ。ドブに捨てるほうがまだ有意義だよね、投げつけてストレス解消くらいはできる」


 ついボロボロッと本音が漏れた。


「…な、何だと貴様っ」


「野盗を逃がして賄賂を要求する門番って、何を守ってるんですか? あ、仰らなくて結構ですよ。どうせゲスの戯言でしょう。興味もないです、貴方という生き物に」


 もう、話はいいや。

 カモン、サポート!


 激高した兵士がバンと机に手を叩き付けて立ち上がるのと、門の外で大きな悲鳴が上がるのは同時だった。




「魔獣だあぁ!」




「ひぃ、早く、早く街に入れてくれぇ!」


 外から聞こえた声に、兵士は血相を変えて飛び出していった。

 もちろん私も立ち上がる。

 つられてニラファミリーも立ち上がる。


「今のうちに行くよ、急いで」


 門の外に向かう兵士と門の内になだれ込もうとする人達。

 中間の取り調べ室に押し込まれていた私達はもちろん、この隙に門の内に押し入るのである。


 外に出たのは熊型魔獣だ。


 大きく吠えては、無闇に入街待ちの人々を追い立てている。

 お陰で兵はなかなか出てこれません。


 あっ、血気盛んな兵士が一人飛び出してきたぞ。

 もしやクズの中でも民を守ろうというマシな人なのかしら。


 まぁ、この街で兵士してる時点でどうでもいいや。


 爪を引っかけないように配慮したクマパンチで一発昏倒。

 ふははは、怯えるがいい、愚兵共め!


 薄情にも門を閉ざそうとするから、ぶんぶんと昏倒兵士を振り回して、閉めかけの門に押し込む。

 尻もちをついたまま逃げ遅れた人には申し訳ないが、一際大きな吠え声を上げて、熊魔獣は森へと帰っていくのだった。




 …という、サポート活劇を右目に確認しつつ、私はニラファミリーと共に街の内部へ潜入することに成功。


 しっかりと調書もアイテムボックスに放り込んできたので、証拠もござらん。

 先程だいぶ記録もしない人達が街に入り込んだので、我々も大丈夫でっす。


「…はぁ。大きな街なら仕事があるかと思ったのに、まだ旅続きになるとは」


「父さんは人が良すぎるからここは止めよう、次があるYO!」


「そーだよ、無理して留まっても良いことなんてないZE!」


「…お前達…すまないな…」


「でもパンツは買ってYO!」


「それにもうお昼ご飯だNE!」


 両側から挟まれてYO!YO!ってやられてるのに、よくブチ切れないな、お父さん。双子が励ましているのは、確かなんだろうけれども。


「フランさんはこの後どうされますか?」


「魔道具屋さんを訪ねる予定です」


 隠すことでもないかと素直に言ってしまったのだが、これは失敗だったよね。


「魔道具! 見たい! 買おう!」


「父さん、僕たちも行こうよ!」


 いや、来るなよ。


 きゃっきゃと盛り上がり始めたキッズを止める方法は、ご家族ならばきっとある。

 私はやんわりとお父さんにお伝えする。


「宿を取って早めに休まれたほうが良いのでは? 昨夜も野盗の襲撃であまり休まらなかったでしょうし」


 親切の皮を被った拒絶。

 しかし、相手のほうが上手であった。


「ここで別れますと息子達が脱走してフランさんについていくかと思われますので…申し訳ないですがお供します」


 ああ。そう。


 宿を取る父親を尻目に私の追跡を開始する双子とか、容易に想像できる。

 後で気付いて当てどもなく探し歩く手間を考えれば、父親も一緒に行動した方がマシだと考えたのだね。そうよね。

 家族だからって、このテンションを2人前止めろというのは、無理な話だよね…。




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