第9話「暴走する森と操られた影」
モルテア国にエルフたちが加わってから数日。彼らの知識は村の農業や魔法管理に大きく貢献し、村はさらに活気づいていた。
だが、森の奥から不穏な気配が漂い始めていた。
「レイ様、森の南側で異常な魔力の波動を確認しました。偵察隊が戻ってきません」
リゼが魔力測定器を睨みながら言う。
「魔力の流れが歪んでる……これは、自然のものじゃない。誰かが干渉してるわ」
レイはすぐに精鋭部隊を編成し、森の調査に向かった。
森の奥で彼らが目にしたのは、かつての知性を失ったゴブリンたちだった。目は血走り、口から泡を吹き、獣のような咆哮を上げながら襲いかかってくる。
「こんなの……ゴブリンじゃない!」
グラが叫ぶ。かつての仲間たちが、まるで別種の魔物のように暴れていた。
「全員、戦闘配置!殺さないように、動きを止めろ!」
バルが盾を構え、リリィがバフ魔法で仲間の反応速度を強化。ミューが回復と麻痺解除を同時に展開し、グラは毒霧で視界を遮る。
レイは後方から精霊召喚を発動。
「風精霊、土精霊、援護を!」
精霊たちが風と土でゴブリンの動きを封じ、戦闘は徐々に優勢に傾いていく。
だがその時、森の奥から黒いローブを纏った魔族が姿を現した。
「ふふ……よくここまで来たな。モルテアの召喚士よ」
「君が……ゴブリンたちを操っていたのか?」
「操る?違うな。彼らの“本性”を引き出しただけだ。お前の理想など、脆いものだと証明してやる」
魔族は呪詛魔法を展開し、ゴブリンたちの魔力をさらに暴走させようとする。
「させない!」
レイは魔法陣を展開し、精霊たちと共に魔族の呪詛を打ち破る。リゼが魔力解析を行い、魔族の魔法構造を逆転させる術式を即座に構築。
「今よ、レイ!」
「召喚魔法・封印陣!」
光が爆ぜ、魔族は封印され、ゴブリンたちの体から黒い霧が抜けていく。
しばらくして、ゴブリンたちは正気を取り戻した。
「……俺たちは……何を……」
グラが静かに歩み寄り、かつての仲間たちに手を差し伸べる。
「もう大丈夫だ。レイ様が、君たちを救ってくれた」
ゴブリンの長・ドルガは、地に膝をつきながら言った。
「我らを……見捨てないでくれ。もう、誰にも操られたくない」
レイは迷わず答えた。
「君たちも、ここで生きていい。モルテアは、誰も拒まない」
その言葉に、ゴブリンたちは涙を流しながら頭を下げた。
リゼはその様子を見ながら、静かに呟いた。
「……あんたの召喚魔法、やっぱりただの魔法じゃない。人の心まで引き寄せるなんて、反則よ」
こうして、ゴブリンたちはモルテア国の仲間となった。
森の異変は収まり、村はさらに広がりを見せる。
だが、魔族の干渉は始まりに過ぎなかった。




