第7話「芽吹きの国、崩れる絆」
朝のモルテア国。澄んだ空気の中、レイは畑の中央に立っていた。まだ朝露が残る土に、オークたちが鍬を入れ、コボルトたちが魔法で土壌を活性化させている。ゴブリンのグラは肥料を調合し、スライムのミューは水場の浄化を終えて待機していた。
「よし、今日は種まきだ。みんな、準備はいい?」
「レイ様、種はこちらです!」
「バフ魔法、展開完了〜!」
「ミュー、水きれいにしたよ〜!」
レイは袋から種を取り出し、丁寧に畝に撒いていく。魔界の保存庫から取り寄せた高栄養品種――育てば、村の食料事情が一気に改善するはずだった。
リゼは腕を組みながら見守っていた。
「ふむ……地道な作業ね。意外と普通のこともするのね、あなた」
「うん。でも、ここからが本番だよ」
レイは畑の中心に魔法陣を描き、両手を広げて詠唱を始めた。
「召喚魔法・精霊降臨!」
光が弾け、風と土の精霊が現れる。彼らが畑を包み込むと、種から芽が出て、瞬く間に茎が伸び、葉が広がり、実が膨らんでいく。
わずか数分で、畑は豊かな収穫の場へと変貌した。
「……はぁ。やっぱり、あんたって規格外よね」
リゼは呆れたようにため息をつきながらも、どこか誇らしげだった。
「普通は数ヶ月かかるのよ?これ、農業革命よ。魔族界でもこんな効率は見たことないわ」
「みんなが喜んでくれるなら、それでいいよ」
その頃――
王都近郊のダンジョンでは、かつてレイを追放した勇者パーティが苦戦していた。
「くそっ!毒霧で視界が……!誰か、回復を!」
「ポーションが足りない!ミリア、魔力が尽きるぞ!」
「盾役がいないから前線が崩れる!セリナ、後退しろ!」
勇者アレンは苛立ちを隠せず、仲間たちの連携は崩壊寸前だった。敵はワイバーンの変種――空中から連携して攻撃してくる強敵だ。
「なんでこんなに苦戦してるんだよ……!」
ミリアが震える声で呟いた。
「……レイがいた頃は、こんなことなかったのに」
その言葉に、場が一瞬沈黙する。
セリナが唇を噛みながら言った。
「毒霧で敵の動きを止めて、回復魔法で支えて、盾で前線を守って……全部、レイの召喚したモンスターがやってた」
ガルドが拳を握りしめる。
「俺たち……あいつの力、何もわかってなかったんだな」
アレンは顔を歪めながら、吐き捨てるように言った。
「……レイのせいだ。あいつがいなくなったから、俺たちはこうなったんだ」
だが、それは自分たちが切り捨てた結果だった。
一方その頃、モルテア国では収穫祭の準備が始まっていた。精霊の力で育った野菜を囲み、モンスターたちが笑顔で料理を分け合っている。
「いただきま〜す!」
レイはその輪の中心で、仲間たちと笑いながら食卓を囲んでいた。
辺境の国に、確かな実りと絆が芽吹いていた。
そして王都では、かつての英雄たちが崩れ始めていた。




