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第5話「魔族令嬢と執事の誓い」



モルテア村は、オークたちの合流によって、着実に“国”としての形を整え始めていた。レイは日々、村の運営に奔走しながらも、仲間たちの成長と絆に支えられていた。


そんなある夜、見張り台に異変が起きた。


「レイ様!森の外れに、魔族と思しき女性が倒れております!」


レイが駆けつけると、そこには黒衣をまとった美しい女性が、泥にまみれて倒れていた。長い銀髪は乱れ、角は片方が折れていた。魔族の高位貴族――その証が、彼女の姿に刻まれていた。


「……助けて……お願い……」


レイは迷わず手を差し伸べた。


「大丈夫。ここは安全だよ。僕たちは、誰も拒まない」


女性はしばらく沈黙した後、かすれた声で名を告げた。


「……私は、リゼ・ヴァルグレア。魔族界の元・宰相補佐……だった者よ」


診療所で回復したリゼは、過去を語り始めた。


魔族界でも屈指の才女として名を馳せていた彼女は、政治と魔術の両面で活躍していた。だが、その実力と人望が妬まれ、貴族たちの陰謀によって失脚。身に覚えのない罪を着せられ、追放されたのだという。


「魔族の世界では、力がある者ほど狙われる。私は……それに負けた」


レイは静かに頷いた。


「でも、君はまだ生きてる。それだけで、十分だよ」


「……あなた、変な人ね。私に同情しないの?」


「同情じゃない。尊敬してる。君は、誰よりも強い」


リゼは顔をそむけたが、耳が赤く染まっていた。


数日後、彼女は村の評議会に自ら申し出た。


「私を、この村の執事として雇ってほしい。あなたの補佐をしたいの」


「えっ、執事って……」


「文官としての経験はある。魔族界の政務もこなしてきた。あなたのような素直で無防備な人間には、私が必要よ」


「……ありがとう。頼りにしてるよ、リゼ」


「べ、別に……あなたのためじゃないから!」


ツンとした態度の裏に、確かな信頼と絆が芽生えていた。


その夜、評議会の会議室で、リゼは村の地図と資料を広げながら言った。


「この村は、潜在的に非常に強い。モンスターたちの魔法適性、あなたの召喚魔法の特異性、そして何より――“秩序”がある」


「秩序?」


「ええ。魔族界でも、これほど種族を超えて協力できる共同体は存在しない。あなたの理想は、現実になりつつある」


レイは静かに空を見上げた。


「僕たちの国は、誰もが居場所を持てる場所にしたい。魔族でも、モンスターでも、人間でも」


リゼは隣で微笑んだ。


「……その理想、悪くないわね。少なくとも、私が仕える価値はある」


こうして、魔族令嬢リゼ・ヴァルグレアはモルテア国の執事となった。


だがその頃魔族界では…


「リゼ……逃さんぞ…」


物語は、次なる章――魔族界との接触、王都との対立、そしてレイの召喚魔法の“真の正体”へと進んでいく。

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