第31話「無敵の風・スライムの刃」
南西の峡谷・夜。
ミューは岩陰で風の流れを読んでいた。だが、突如として空気が変わる。
「……来た」
黒衣の兵士たちが、音もなく現れる。王都イグナリスの特殊部隊――黒衣兵。暗殺と攫いを専門とする精鋭部隊だ。
「標的確認。捕縛開始」
50人の兵が一斉に動く。
ミューは剣を抜かず、静かに構える。
「レイさんの国に、手を出させない」
黒衣兵が物理攻撃を仕掛ける。剣、槍、矢――だが、ミューの体は光に包まれ、傷が瞬時に再生する。
「回復魔法……連続発動……!?」
魔法攻撃も放たれる。火球、雷撃、氷槍――だが、ミューは風をまとい、すべてを受け流す。
「風が教えてくれる。あなたたちの動きも、心も」
そして――彼女の手が、スライム状に変化する。
柔らかく伸びた腕が、鋭く尖り、槍のように変化。
「ごめんなさい。でも、これは――国を守るため」
一人目の兵士が刺され、倒れる。
二人目、三人目――
ミューは風に乗り、スライムの腕を伸ばしながら、次々と兵士を刺していく。
「無敵……だと……!」
黒衣兵たちは恐怖に包まれる。
「撤退……! この魔獣は、規格外だ!」
だが、逃げ場はない。
ミューは風と毒を纏い、最後の一人まで刺し終える。
静寂が戻る。
「……レイさん。守りましたよ」
彼女は空を見上げ、風に乗って帰還する。
その頃、レイは政庁で報告を受けていた。
「ミューが黒衣兵を全滅させました」
レイは静かに目を閉じる。
「ありがとう。君は、もう“ただのスライム”じゃない」
そして、戦いはさらに激化していく。




