第26話「進化の再会・剣と秩序の狭間で」
モルテア国・中央広場。
アレン・グレイバーは、滞在三日目の朝を迎えていた。かつての仲間レイと再会し、国の秩序と繁栄を目の当たりにした彼は、未だに心の整理がついていなかった。
「……魔族と人間が、同じ市場で笑ってるなんてな」
彼の目に映るのは、王都では考えられなかった光景だった。
そこへ、ふと声がかかる。
「……あれ、アレンじゃない?」
振り返ると、そこには美しい少女が立っていた。白銀の髪に澄んだ瞳、柔らかな笑みを浮かべている。
「誰だ、この可愛い娘は……?」
少女はくすくすと笑いながら言った。
「ひどいなぁ、アレンさん。私ですよ、ミュー」
「……ミュー?あの毒牙の魔獣ミューか!?」
「ええ、進化したからわからないかもしれませんけど、今は人型になってるんです」
アレンは目を見開いた。
「召喚獣が……人型に進化するなんて、聞いたことがないぞ」
その後ろから、黒髪を揺らす長身の女性が歩いてくる。落ち着いた瞳に、岩のような安定感を宿した彼女は、静かに微笑んだ。
「アレン、私のことも忘れてないわよね?」
「グラ……お前まで人型に?ずいぶん綺麗になったな」
「ふふ、ありがとう。でも、強さは変わってないわよ」
続いて、炎を纏った獅子型の魔獣・バルが、筋肉質な女性の姿で現れる。
「勇者の剣、また見せてくれよ。オレ、前よりずっと強くなったぜ」
そして、リリィが耳と尻尾を揺らしながら駆け寄ってくる。
「アレンさん、ようこそモルテア国へ!みんな、あなたに会えるのを楽しみにしてたんですよ」
アレンはしばらく言葉を失い、そしてぽつりと呟いた。
「……あいつは、どこまで行ったんだ」
その夜、アレンは一人、モルテア国の丘に立っていた。眼下には、灯りがともる村と、笑い声が響く広場。かつて自分が守ろうとしていた“理想”が、ここにあった。
「王都じゃ、もう誰も信じてくれない。勇者って肩書きだけが残って、俺自身は空っぽだ」
彼は剣を抜き、地面に突き立てる。
「でも……この国なら、やり直せるかもしれない」
背後から、レイの声が届く。
「君の剣は、まだ折れてない。ここで振るうなら、誰かを守るために使ってほしい」
アレンは振り返り、静かに頷いた。
「……俺はこの国で再起する。勇者としてじゃない。ひとりの戦士として、もう一度立ち上がる」
その言葉に、風が優しく吹き抜けた。




