第20話「交易の扉・通貨と国の誇り」
朝のモルテア国。広場には、今日も庇護を求める者たちが列をなしていた。
魔族、亜人、精霊契約者、そして人間の孤児たち。彼らは皆、口を揃えて言う。
「ここなら、生きられると聞いた」
「差別も迫害もない国だって……」
リゼは記録を確認しながら、眉をひそめる。
「今月だけで、人口が倍近く増えてるわ。食料、住居、医療……すべてが限界に近い」
レイは頷いた。
「でも、断るわけにはいかない。僕たちは“守る国”を作るって決めたんだ」
その言葉に、村人たちは静かに頷いた。
だが、問題はそれだけではなかった。
避難者の中には交易商も含まれており、物資の交換を求める声が増えていた。
「通貨が必要だ。物々交換だけじゃ限界がある」
「働いた分だけ、価値が生まれる仕組みがほしい」
リリィが地図を広げる。
「なら、近隣の国と通貨協定を結ぶしかないわ。王都はもう信用できない。独自の経済圏を築くの」
レイは地図を見つめながら言った。
「南の商業都市なら、魔族との交易もある。中立国だし、偏見も少ない」
リゼが頷く。
「まずは使節団を送って、国交の意志を伝えましょう。モルテア国が“国家”として認められる第一歩よ」
使節団には、リゼ、リリィ、そして外交経験のあるエルフ長老ミルディアが同行することになった。
出発の朝、広場には多くの村人が集まっていた。
「いってらっしゃい!モルテア国の未来を頼んだぞ!」
「交易が始まれば、もっと豊かになれる……!」
その声に背中を押され、使節団は南へと旅立った。
レイは見送る中、ギルドカードを見つめていた。
「この国は、夢じゃない。現実にするために、僕たちは歩いてる」
精霊たちがざわめき、風が優しく吹いた。
モルテア国は、庇護の地から交易の地へ。そして、世界と繋がる“国”へと歩み始める。




