38 突然の電話
クリスマスが終わればもう少しで今年も終わり。町では一気にクリスマスのムードがなくなって、お正月にちなんだ商品が見かけられるようになった。
といっても維持隊の仕事はギリギリまであり、冬休みでも活動をしなければならない日が続く。だから姫奈とはあまりいれない時間が多い。
少し心配というか、一緒にいられないのは残念だが、一緒にいられる時間を大切にしていこうと思う。
今は二人とも夕食をとってお風呂に入ってから、姫奈と食卓でババ抜きをしている。自分の持ち手が最後の二枚、ババじゃない方を取られたら負けといういい時に携帯電話の着信音が鳴った。
姫奈に「ごめん」と言ってから携帯を手に取る。
いつもは維持隊からの電話が多いが、携帯に映し出されていたのは祖母の電話番号だった。
(おばあちゃん……?)
それから携帯を耳に当てる。
「もしもし」
「もしもし。湊斗?」
「そうだよ」
電話越しから聞き慣れた祖母の声が聞こえてくる。定期的に電話はするが身内で一番近い相手の声を聞けて少し安心する。
厳しいけど優しい祖母の声。
「久しぶりねぇ。元気してる?」
「うん。元気だ」
「そう、それは良かったわ」
「おばあちゃんは元気か?」
「元気よ」
前にいる姫奈は自分がいつもと違う雰囲気で話しているのに感づいているのか、ポカンとして自分のことを見ている。
一応スピーカーにはしていないが、静かなので少しばかりは祖母の声が聞こえてるかもしれない。
「ごめん、冬休み帰れなくて。春休みにはちゃんと帰るから」
「いいのよ。湊斗も忙しいし、遠いから余裕のある時に帰ってきたら」
「ありがとう」
「それでね、ちょっとしたものを送っておいたから楽しみにしてて頂戴ね」
「え?」
いつもは送り物をしてくる時にちゃんと送るものを言うのだが、今回は少し誤魔化したので少し驚く。
「え?」と声を出してしまったので、前にいる姫奈が反応して少し首を傾げた。
(ちょっとしたものってなんだ?)
「まぁ、いつものやつと少し大きめのものかしら」
「あぁ、そうなんだ。ありがとう。気使わせてごめん」
「気なんか使ってないわよ。私が送りたいって送ったんだから。それじゃ元気でね。とりあえずじいちゃんに変わるわ」
「分かった。おばあちゃんも元気で」
そう言って一時的に通話が途切れる。
今はチラッチラッと姫奈と周りを交互に見ながら話していて、姫奈を見るたびに彼女は「なんだろう?」と言わんばかりの目で見つめてきていて少し面白い。
それから、もう一度声が聞こえてくる。
「湊斗。久しぶりだな」
「久しぶり」
「女とはどうだ?」
「女って……」
電話越しから厳粛な声が聞こえてくる。祖父は西園寺家を代表するめちゃくちゃバチバチに強い人で、めちゃくちゃ怖い人だ。
どうやら昔から色々と修行をしていたらしく、今のある程度犯罪者と戦える自分を作り上げたのは祖父と言っていいほど自分を鍛え上げてくれた人だ。
その分、声が固くて重みがありいかにもイカツイオヤジみたいな人で、同級生から少し恐れられていた。
だから、そんな声の人から急に「女とはどうだ?」と言われたからさすがに驚く。祖父とも電話するのは久しぶりなのに……
実は前に電話した時に姫奈とのことは話してあった。身内だし、言っておいたほうがいいだろうと思ったからだ。
姫奈も少しは聞こえていたようで、少し目を見開いてこちらを見てくる。
(目の前にその女の子いるのに、めっちゃ恥ずかしいこと聞いてくるじゃん、じいちゃん)
「え、まぁ、多分順調」
「そうか。お前は結構女には弱そうだから、ヘタレでやがると思ったが、順調そうならいい」
「あぁ……」
「大事にしてやれよ。女は男が守るもんだからな」
「分かってる」
「じゃあな」
「へ?」
ブー、ブー、ブー
そして通話が途絶えた。
(え、もう終わりなのか……?)
もうちょっと言うことがあったんじゃないかと思ったが、女の話をして終わってしまった。
あまりの内容の薄さに少しの物足りなさが勝ってしまう。
それから携帯を机の上に置いて、姫奈を見ると瞬きをしてこちらを見ていた。
「聞こえてたのか?」
「うん。おじいちゃんとおばあちゃん?」
「そうだよ」
「そうなんだ。どちらとも優しそうな人だね」
「あぁ、そうだな」
(うん、なんか言いたそうな顔してるね)
姫奈は少しモジモジとしながら自分の事を見てくる。
「女って私のこと?」
「あぁ……そうだけど」
「そうなんだ」
それから姫奈は「祖父母さんにも認識されてるんだ」と小声で言いながら、何だかニヤニヤとしていた。
それからババ抜きの続きをして、惜しくもババじゃない方を取られて負けてしまった。悔しかったが姫奈の喜んでいる姿を見ていると自然と和やかな気持ちになった。
☆☆☆☆☆☆
翌日……
家に帰るとリビングにダンボールが置かれていた。一つはよくあるスーパーにあるような大きさのダンボールで、もう一つは人間一人分ぐらいの非常に大きいダンボールだ。
結構な大きさで、マンションの部屋によく入れられたなと思うくらいだ。
伝票を見てみると、送り主は祖父母からだった。
(一体何を送ってきたんだ?)
隣でじーっと段ボールを見ている姫奈は何だか興味津々だ。
「どっちから見たい?」
「え、私が決めてもいいの?」
「うん」
「ふんじゃ小さい方からで」
「分かった」
そう言って小さい段ボールの方を開けることにする。これは大体わかる。いつものやつと言っていたから多分……
バサッ
段ボールを開けると、予想通りのものが沢山入っていて、それを見た姫奈が目を輝かせた。
「こんなにたくさん……!」
「まぁ、俺が住んでたところみかんが有名だからなぁ」
「おぉ」
姫奈が目の前のみかんにあまりに見とれていて笑えてくる。自分は昔からたくさんのみかんに囲まれて育ってきたから何も感じないが、ぎっしりと入っているので家で見るには新鮮なことなんだろうなと思う。
しかも姫奈は大の果物好きだし、どうやらいつも以上に多くて祖父母は彼女の事も意識しているみたいだ。
「こんなには沢山食べれないし、早めに食べないと腐ってくから姫奈も自由に食べてくれ」
「いいの?」
「あぁ」
「やった!私、みかんも超大好き!」
そう言った姫奈はんふふっと上機嫌に鼻を鳴らし始めて喜んでいる。その姿を見て自分も自然と嬉しくなった。
「このみかんはスーパーで売られてるのと違って、段違いに甘くて瑞々しいぞ」
「えぇ、そうなんだ!早く食べてみたいなぁ」
「今から食べてもいいぞ」
「ううん。こっちの段ボールが気になるから後で食べる」
「あぁそっか」
姫奈が待ち構えているように目を輝かせていて、もう一つの大きい段ボールを見ている。
伝票を見てみても中身が何が入っているか分からない。
そのままカッターでガムテープを切っていき中身を空ける。
(!?)
中に入っていたのは……あれだ。なんだか笑えてきてしまった。




