17
三人は十平方メル程度の小部屋となっている場でニ度目の休憩を取ることにした。主にメタルイーターを倒したシキのためである。【ゴブリン】はそこまで疲れないと言っても何回も連続すると精神的に疲労を感じる。
「今は十六時だから少し休んだらもう一回りしてメタルイーター居ないか見るさ」
「この階層でずっとメタルイーターを狩った方が良くないですか?」
「四日くらい篭もる時間があればそれもいいんだけど今回はパス。一度倒すと再出現までちょっと時間が空くのさ」
「なるほど。あ、フユちゃん。足りないんじゃない? 遠慮しないで食べてね」
乾パンと干し肉をあっという間に食べたフユにシキはアイテムボックスから追加を出した。
昨晩の夕食と今日の朝食の際、シキでも余らせる程の量が宿で出てきたがフユはペロリと食べ、それでも若干不満そうだった事からフユが中々の健啖家だとシキは察していた。
恐らく乾パンと干し肉と水が一つずつでは足らないだろうと思ったのである。
「……でも」
「まぁシキ君の物だからこう言ってはなんだけど、水もたっぷり、干し肉も乾パンもあと九十食以上有るんだから動きが鈍らない程度に補給すべきさ」
「そうだよ。フユちゃん沢山動いて汗だってかくんだから水もちゃんと飲まなきゃ倒れちゃうよ」
「前衛の君が万全ならシキ君への危険も少なくなるさ。フユ君、君はさっきから我慢してたさね?」
「う」
図星であった。水も食料も探索に限らず本来貴重なものである。そして普通に考えれば十分な量を供給されているのに追加を申し出ることがフユには出来なかった。
「水分も栄養補給も大事だよ。まだまだ有るから気にしないで言ってね」
二人の説得から、フユは遠慮なく頂くことにした。フユは素早さに優れるものの腕力や武器に乗せる体重の軽さから攻撃威力にかなり難が有る。そのためどうしても相手の真っ正面から挑まず常に高速移動や死角からの襲撃で急所や弱点への一撃離脱スタイルとなる。故に運動量が凄まじく燃費が悪い。
フユが黙々と乾パン(二百グラム×3)と干し肉(百グラム×3)と水(500ml×3)を平らげていくのを二人は眺める。普通の大人よりも飲み食いするのに半ば驚きもあった。
「今後も迷宮に挑むならフユ君はシキ君から離れられないさね」
「え? なんでです?」
シキとしてはフユと一緒にいられる理由が増えるのは喜ばしいことではあるが理由は知っておきたい。
「普通のパーティーなら迷宮での食事制限、もしくは自己管理が当たり前さ。ただフユ君は見ての通り小柄で力がどうしても足らないから自分で運ぶのにも限界有るしあまり荷物が多いと今度は持ち味の速度が生かせなくなる。死活問題さね」
「ん……水、重いし揺れるからいつも少な目で我慢。今日は凄く楽。シキさんの御陰」
「そっか、じゃあずっと一緒に冒険しよ」
シキの言葉にフユは胸が痛んだ。
「これが終われば晴れて私とナツはシキ君達の従者さ。シキ君のアイテムボックスあれば相当鍛えられるさね」
従者となるデメリットも当然有るが補って余り有るメリットをアキは確信している。少なくとも性格の良い穏やかな美少年に仕えるなどご褒美にしかならない。
「いや、従者とか要らないんで普通にパーティー組みましょうよ」
「フユ君さえそれで良ければ」
「問題ない」
「だよねー。あ、ところでアキさんとナツさんって付き合い長いみたいですけど馴れ初めってどんなだったんですか? 相当仲良いから助けようとしてるんでしょうけど」
シキの問いにアキは口の端を少しあげ答えた。
「事細かく話せば長くなるさ」
「どのくらいですか?」
「五年あればイントロダクションが終わるさ」
「ダイジェストでどぞ」
アキの推定ボケを華麗にスルーする。
「ふむ。感動大巨編だけど仕方ないさね」
一つ咳払いをして一気に話した。
「私が田舎から家出、冒険者なる、でも誰も相手してくれない、田舎者は要領悪くて全く稼げず空腹でフラフラなところをナツに拾われ今に至る、さ」
「おーなるほどー」
「感動」
感心した様子でパチパチと拍手する二人にアキは「今ので感動しちゃうの? ツッコミはないの?」と一瞬思ったが素直に拍手を受け入れる。
どんなに言葉を尽くそうともアキとナツの出会いと遍歴は本人達以上に感じ入る訳もない。そうは思うが目の前の二人の素直な反応に気分が良くなるのは否めない。
「シキ君とフユ君の出会いは?」
「僕がホーンラットに囲まれたところにフユちゃんが颯爽と現れて【ジェニン投げ】で一掃して助けてくれたんです」
「そして文無しに」
しっかりオチを付けるフユにアキは二重の意味で感心する。
「ああ、だから薬草集めしてたの」
「ん。宿代を近場で稼ぐため」
見た目からフユがハンター初心者だとこの迷宮に入るまで思っていたのだが、実力を知るとどうしてフユ程の腕前があってハンター初心者向けの薬草集めをしていたのかと不思議に思っていたのである。
「フユ君はシキ君だけ泊めようとしてくれてたから私は弱みにつけ込めたって訳さね」
「自分で言っちゃうんですね」
「いやはや、もはや運命さえ感じる出会いさ。しかしフユ君は小さいのに淑女さね。大枚叩いて見ず知らずの男子を救い、町では一人だけでもと宿に泊めさせようとするとは」
「小さいは余計」
「はは、これは失礼したさ」
シキは改めてフユの頭を撫で告げる。
「本当に有り難うね、フユちゃん。多分僕、フユちゃんに助けられなかったらホーンラットから逃げられても町まで辿り着けずに他の魔物に食べられちゃってたよ。フユちゃんがもう良いって言うまで、僕荷物持ちするからね?」
フユは頷くでもなくじっとシキの目を見つめることしか出来なかった。




