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 ぴこーん

 ブルーマジック 【ゴブリン】を覚えました


「ブルーマジック覚えた」


 頭の中でまた例の女神の声が響いたかと思うと脳内にその選択肢が生まれたのを感じた。手足を動かすが如くそれを選択し発動させられる、という確信を覚えたのである。ただ【ホーンラット】についてはどうにも選択肢は感じるものの灰色のようなイメージで使用出来るとは感じられない。現状【ゴブリン】だけである。【ゴブリン】と【ホーンラット】の表記の横に他の情報が有ることに気付いた。


【ゴブリン】1/3

【ホーンラット】MAX/MAX


「どゆこと」

「ブルーマジシャンってスクロール要らないのかい?」


 二人が言うには普通は魔法を覚えるにはスクロールと呼ばれるアイテムが必要だという。低レベルで一般的なものは町の道具屋で売られていおりレアな術だと迷宮やモンスターの遺骸から見つかるものでスクロールという名前だが実際は見た目が鉱物のようなもので様々な輝きを持ち術の内容を示すマークが浮き出ているという。


「多分、魔物が死ぬと覚えるっぽい。まだちょっと解らないことあるけど。フユちゃんに助けられた時のネズミ、【ホーンラット】?」

「ん」

「あれもその時覚えたけど使える感じじゃなかったから放置してたんだよ。けど【ゴブリン】は使えそう」

「へぇ。今使える?」

「やってみる」


 シキは早速ブルーマジック【ゴブリン】を発動させた。脳裏に浮かんだ文字をクリックする感覚であった。


 一瞬頭の中が重くなった感覚を覚えた直後、シキの目の前に先ほどとそっくりだが半透明のゴブリンが出現し右ストレートを空間に放ったのをシキは見た。


「ん? 今使ったのかい?」

「空気が一瞬動いた」

「出来たみたい。次に魔物でたら試してみるね」


 だが二人には見えなかったらしい。ただ気配は感じたとの言にシキが己の目で見たものが幻影とは思えなかったので次に試してみることにした。これでもし攻撃力が有れば己の手を物理的に汚さず魔物を倒せるかもしれないと期待したのである。間違ってもある程度サイズのある魔物を己の手で殺せる人間になれるとは思えなかったのでシキにとっては救いとも言えた。


「お。ホワイトゴブリン」

「ホワイト?」


 シキの知識には全くない魔物であり聞き返した。三人の視線の先、まだ距離が有り魔物には気付かれていないがぼんやりと白い人影がシキの目にも見えた。


「レア」

「え、レア? 凄いの?」

「珍しいだけ。金にならない」

「取れる魔石がゴブリンよりちょっと高いってだけでゴブリンなら一匹五十ジェニン、ホワイトでもその倍

ってところさ。無いよりマシだけど」


 がっかり感丸出しにアキは矢を弓につがえる。


 魔石とは魔物の腹部から取れる物で魔物には魔力袋という臓器を持っておりそこに魔力を溜込むと言われている。そしてその中に蓄積される石が人間の手に渡ると便利な魔道具の動力となるのである。

 要は魔物の胆石のようなものを魔石と呼んで人間は豊かな生活を送る糧にしているのであった。


「十匹か。どう考えてもこの方向が下層への道だし避けられない。ちょっと多いから私が減らすさ。多分この距離なら近づかれるまでに四匹は倒せるからフユ君、三匹宜しく、残り三匹は私が受け持つさ」

「残りは全部だいじょぶ」

「そう? じゃ宜しくさ」


 ギャッ

 ぐぎゃっぎゃ!

 ぐぎゃ!

 ぎゃっぎゃ!


「ゴブリンは鼻が利くけど目が悪いのさ」


 解説しながらもアキの矢は命中しホワイトゴブリン達が騒ぎ出す。

 すぐにはシキ達の姿を探し出せなかったらしく周囲を探るような動きを見せるがその間に次々とアキが命中させていった。そしてやっとシキ達を発見したゴブリンが隊列も策略も無く全力疾走で襲いかかろうとする。


「そして頭も悪い」


 が、いつの間にかホワイトゴブリン達の進路を横切るように岩に縄を結んで岩陰に隠れたフユが絶妙のタイミングで縄をピンッと張った。


 ギャッ

 ギャッ

 ギャッ

 ギャッ

 ギャッ

 ギャッ


 雪崩の如く転ぶホワイトゴブリン。そして物陰から踊り出て間髪入れずにその首裏の盆の窪をショートソードで刺していくフユ。


「あ。ごめん、外した。シキさん気を付けて」

「え?」


 最後に殺そうとした一匹を逃したフユはホワイトゴブリンの逃げた先にホェーっと立っているシキに声を掛けた。


「さっきの技試したらどうさ?」


 ゴブリンは弱い。ホワイトゴブリンもゴブリンと変わらず弱い。下手すると子供でも素手で軽く勝てる相手である。

 ただ噛まれたりすると解毒も治療も必要と言えば必要なので手早く殺す必要が有るのだが、フユもアキも先ほどの技を試す良い機会だろうと討ち漏らした一匹がシキに近づくのを見逃した。

 それに回復ポーションも毒消し薬もアキが十分揃えていたのでホワイトゴブリンはシキをそれほど危険な目に遭わせず能力を検証する格好の的だったのである。


「ひぃっ」


 それでも怖いものは怖い。むしろ凶悪な顔にシキは後ずさるがアキの言葉に流石に納得し発動させるよう集中する。


【ゴブリン】!

 ガッ


 するとシキの前にまた半透明のゴブリンが出現し、ホワイトゴブリンの顎を右ストレートでちゃんと殴った。そしてまた頭が重苦しく感じた。ブルーマジック発動の代償だろうとシキも理解し、先ほどはすぐに回復したのであまり気に止めなかった。


「お?」

「何か利いてる?」

「でも威力弱い」

「パンチ一発入れた位の感じさね」


 ふらふらするホワイトゴブリンにシキはひとまず己の唯一の攻撃手段である【ゴブリン】を再度発動させた。


【ゴブリン】!

 ぐぐっぎゃ

 倒れない。

【ゴブリン】!

 ぎゃっ

 後ろに倒れるも立ち上がった!

【ゴブリン】!

 ぎゃっ

 後ろに倒れるも立ち上がった!

【ゴブリン】!

 ぎゃっ

 後ろに倒れるも立ち上がった!

【ゴブリン】!

 ぎゃっ

 後ろに倒れるも立ち上がった!


 パソコンのマウスを無心にクリックするが如くシキは【ゴブリン】を発動させるが目の前のホワイトゴブリンはまさに決死の覚悟だからか根性を見せてくれる。

 ボクシング映画やマンガであればむしろ感動的なシーンであろう。ホワイトゴブリンの方が主役だ。ただ今はハンターと魔物の殺し合いである。


「シキ君、もう行こうさ。魔石も抜いたから」

「無詠唱で発動のタイミングが読めない。不意打ちには最適」

「そうさね。人相手でもこれなら殺せないだろうし隙を作って逃げるのに使えそうだから良い術だと思うさ」

「あー」


 フユとアキの言葉に納得するシキ。

 まだ何回か繰り返せば目の前の魔物も絶命させられる気がするがそこまでする意味もない。

 何より頭痛とまではいかないが何となく風邪の初期症状のような頭の重さを感じるのでちょっと時間を置きたかった。


「フユちゃん、お願いして良い?」

「ないすふぁいと」

 ぎゃっ


 シキのお願いに頷くとまだ立ち上がろうとするホワイトゴブリンを一言賞賛しフユは彼の者のコメカミをショートソードの鞘で強打する。今度こそ声もあげずに絶命した。鞘を使ったのは折角血糊を拭いた刀身をまた拭くのが面倒だったからだ。


「おぅ……お願いしておいてなんだけど容赦無いねぇ」

「このままなぶり殺しにするよりマシ」

「確かに多少慈悲が有るさね」

「あぁ……ですよねぇ」


 シキ自身でさえそう思うので頷くのであった。


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