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バナナボートで異世界へ  作者: 秋野 木星
第二章 王都への旅 VS 古民家改修
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お風呂

昼食をトリナ村の旅人広場でとったリノとミノルは、大きな畑が広がる長閑な村の中をあちこち眺めながら、のんびりと歩いて行った。村の反対側の柵を出て、しばらく街道を歩いていくと、ちょうどよさそうな林があったので、その林の中にあった変わった形をした木の陰を転移場所に設定することにした。


「この捻じれた木を覚えておけばいいね」


「そうだな。なんか特徴がある物が近くにないと転移場所を忘れそうだ」


「んー……あっそうだ! <地図>に転移ポイントを記録しとけばいいんじゃない? ほら、こんな風に」


リノが自分の地図をオープンにしてミノルに見せると、ミノルは目を見開いた後に頷き、感心したように言った。


「四角の印に、トリナ村Pの文字ね。よくこんなことをすぐに思いつくなぁ」


「想像力だけはたくましいからね。それにこれから行く道中の全ての転移ポイントを覚えられるわけないじゃん」


「言えてる。よし、俺も記録できたぞ。んじゃ、そろそろ家に帰りますか」


「りょ!」



リノが了解の敬礼をすると、あっという間に二人の姿は林の中から消え去った。


そして何十キロも離れたセンガル村の古民家の前に二人の姿が揺らめくように現れた。



「ふぅ、サイコロを転がすゲームで振り出しに戻るって感じ。なんか残念な気分になるなぁ」


「はい、ぶつくさ言わないで、仕事だよ兄貴。この家が整ったら、ずーっと旅をしてればいいんだからさ」


「ちえっ、わかったよ。今日は風呂を完成させるぞ!」


ミノルもわかっている。風呂ができてしまえば、リノはここまで、改装改装とうるさく言わなくなるだろう。リノの風呂に対する思いがここまで強いとは思わなかったが、ミノルにしても住んでいる所の水回りの設備のクオリティが高いことに越したことはない。


「ま、頑張りますか」



ミノルが裏の建築現場に歩いて行ったので、リノは家に入りカーテンの続きを縫うことにした。

忘れないようにタイドの裁縫道具を収納から出してみると、リノが買っていない色の糸やボタン、地味な色ばかりだったが補修用の端切れなどもたくさん裁縫箱に入っていた。


「へぇ、指ぬきやゴム通しなんかもある。これはありがたいな」


独身男性だったとはいえ、店に繕い物を頼むにはお金がかかっただろうし、ちょっとした縫物は自分でするしかなかったのだろう。



窓辺に座って針仕事をしていると、自分がアメリカ西部開拓時代の古い映画の中にでも入っているかのような気がしてきた。

大草原の○○、じゃなくて、森と高原のリノ、ってところかな。


こういう直線縫いの単純作業は、頭を空っぽにして集中できるので、わりと好きだ。

手元はチクチクと針を動かしながら、リノはどうでもいいことを考えていた。


トリナ村で会った、あの三人の冒険者は、もうオータムの町へ向かったのかしら。あの人たちが、オタケさんに会った時の顔が見て見たかったな。ククッ、リーダーの赤毛の……あれ、なんていう名前だっけ? 赤毛のアンじゃなくて……ああ、赤毛のダンだ。彼なんか、絶対にオタケさんにいじられそう。


瘦せっぽちのサミーは細腕だったのに、なんであんなに高そうながっしりした剣を持っていたのかなぁ。

ああ見えていいところのお坊ちゃんだったりして……。坊ちゃん、ププッ、坊ちゃん呼びは似合わないな。でも栗毛のふわっふわの髪だったし、女の子だったらドレスが似合いそう。


リノは頭の中でサミーにピンクのドレスを着せて、しばらく遊んでいた。


うん、ピンクより水色の方が似合いそう。



どーでもいいが、失礼なリノである。



リノが、カーテンの裾をまつりながら斥候のポートって何人族なのだろう、と考えていた時、裏口のドアが開いた。


「リーノっ、できたぞ!」


「んー? なんが?」


「風呂だよ。まだ棚とかドアとか細かいところはできてないけど、浴槽はできたから、今夜から風呂場で身体が洗えるぞ」


ミノルの自慢げな言い方に、ぼんやりしていたリノの頭がやっと覚醒した。


「え?! もうできたの?!」


「だから、そう言ってるじゃんか。魔法が使えるとはいっても、一人で壁を張るのは大変だったんだからな。少しは兄をねぎらいたまえ」


(ねぎら)う! ありがとー、兄貴!」


「たく、調子がいいやつ」


リノが作っていたカーテンを放っぼり出して裏庭に駆けていったので、ミノルもブツブツ言いながらリノの後を追いかけていった。




裏庭の西の端にトイレがあるのだが、その隣に脱衣所付きの風呂場が堂々と建っていた。

周りにはまだ木屑が散らかっていたが、ミノルが言うようにドアが入るであろう四角く空いた場所にカーテンでも付ければ今日からお風呂が使えそうだ。


「すごーい。こんなに早くできるとは思ってなかったよ。朝、見た時は屋根と柱だけだったもん」


「ま、俺にかかればこんなもんよ。一番大変だったのは、最初の日にやった基礎と排水だ。後は組み立てるだけだからな」


そうはいっても、三日ほどでここまで出来るとは驚きである。


「ドアは、蝶番とかの調整に時間がかかるからな。ここまで薄暗くなってくると、細かい部分が見えないし。今日は、このへんで片付けて、明日の朝にドアを取り付けるわ」


「朝? いいの、旅に出なくって?」


「明日は、午前中に細かい仕上げ仕事をして、昼飯を食べてから旅の続きに戻ろう。その方が台所を使えて、リノも料理がしやすいだろ」


「そういえばそうだね。兄貴がいいなら、私も午前中にカーテンを仕上げちゃお。じゃ、兄貴が片付けてる間に夕食を作りますか」


「よろ~」




夕食は、昼食の時に一匹残っていた魚を小さめに切って小麦粉をまぶして揚げ、酢豚風の甘酢あんかけを作った。これで玉ねぎを使い切ったので、どこかで野菜を仕入れた方がいいかもしれない。


食事中もソワソワして落ち着かないリノの様子を見て、ミノルはご飯をおかわりしながら笑って言った。


「俺が後片付けをしといてやるから、風呂に入ってきていいぞ」


「ホント? サンキュー、兄貴」


そういうが早いか、リノは用意していたカーテンと着替えを持ち、裏口から飛び出していった。




脱衣所のドア予定地にカーテンを取り付けると、新しい木の匂いに包まれながら、リノは服を脱いでいった。

魔法で【ライト】を点けているので暗くない。

西の森の木々が風に揺れる音を聞きながら、檜の浴槽にお湯を満たしていく。


あ~、お風呂、久しぶり~。


「ほぉ~」


お湯につかり、手で顔を洗うと、思わず至福のため息が漏れた。


檜の香り、湯気のホッとする湿り気。

一日中、動き回った汗がお湯と共に流れていき、身体がユラユラと緩んでいく。


「やっぱ、お風呂はいいなぁ」



昇っていく湯気や新品の天井をぼんやりと眺めながら、リノは念願の風呂を堪能したのだった。

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