5-3 b さいきんの学園もの2
次の登校日からアリスが学校に行くのが少しだけ早くなった。
アリスは朝早くに教室にたどり着くと、シェリアと一緒にキャロルの席の周りに集まり、たわいもない話をし、時々キャロルが鼻血を噴いた。スラファとキャロルが友人として増えた結果、学校にケーキとシェリア以外の楽しみも増えたようだ。
そのためか、今週の木曜日はスラムにお出かけする前に用もないのに学校に行って、シェリアたちと話し、それからスラムに向かった。
この影響で、今回は城からのルートで待っていたミスタークィーンたちは再び待ちぼうけを喰らわされた。
さて、アリスの日常が少し華やいだこの週。アルトが検診のためにアリスの部屋までやって来た。
「謝ったわよ。」アリスは口を尖らせてアルトに言った。ゲオルグたちのことだ。
「それは良かった。」久しぶりにやって来たアルトは前回怒ったことなどなかったかのようににこやかに笑った。しかし、やっぱり内心では緊張していたのか、続けて久々に娘に会った父親のような質問をアリスに投げかけた。「それで、学校はどうだい?」
「聞いて聞いて!」アリスは珍しく喜んで飛びついた。「キャロルとスラファっていう友達がね・・・」
アリスが嬉々として学校の様子について話しだした。
アルトはにこやかに、時々頷きながらその話を聞いた。
アリスはシェリアとキャロルとスラファとの会話内容を矢継ぎ早に話した。自分の楽しいをアルトにも共有して欲しいと思っているようだ。
そして何より、アリス自身が自分自身の話をすることを楽しんでいるようだった。グラディスは一緒に学校に行っているので状況を知っている。アルトはアリスが一から学校の話をできる数少ない人間の一人なのだ。
普段はガキ大将みたいな暮らしぶりでも、やっぱり女の子だ。
アルトは嬉しそうにアリスの話を聞いていた。
前回のことといい、少しアルトがイケメンに見えてきた。ムカつく。自分にはそういう形でアリスにかかわっていくことはできない。しかも、こいつには何故か感染もできないし。
アリスは気が済むまで話して満足すると、アルトはアリスの検診を手早く済ませて帰っていった。
表情の読みにくいマッチョは珍しく少し幸せそうに見えた。
そして金曜日。
ついにアピスが学校にやってきた。
アリスは登校してきて荷物を引き出しにしまっているアピスの元につかつかと歩いていくと、さっそく喧嘩を売った。
「こんにちは、アピス様。何かわたくしに文句がおありのようですけれど、直接うかがいますわ?それとも、お付きのかたがいらっしゃらないと不安ですか?」アリスはそう言うとアピスに向けてにやりと笑った。
話しに行くとだけ聴いていたシェリアたちが、アリスの言い回しがあまりに攻撃的だったので、後ろで顔面蒼白になってあたふたしている。
だいたい直接話も何も、アリスが学校サボったからシェリアがアピスの言葉を伝える羽目になったんじゃないか。
「ええ、あなたにはたくさん文句がございます。」アピスは平然とした様子で受けて立った。「あなたにはこのクラスに、いえ、この学校に来るのに十分な教養が備わっていらっしゃらないようです。もう一度、母親の元からやり直してらっしゃいまし。」
「なにが、お気に召さないのかしら?」
「先にも申しましたよね?聞いていらっしゃらなかったのかしら?授業態度を改善しなさい。あと、用もないのに学校をさぼるのはおやめなさい。先生たちに失礼ですわ。」
「なにがいけないというのでしょう?授業中の質問はちゃんと止めましてよ。あなたに迷惑をかけるようなことはしておりませんわ。」アリスは涼しい顔で言い返した。
「先生方やクラスメイト達に失礼でしょう。あなたはここに学業を学びに来ているのです。そのように行動なさいまし。」アピスは言った。「ドッヂソン家の令嬢はそんな子供でもできるような簡単なことができないのでございましょうか。それですから侯爵家から男爵まで降格になるのです。」
「学ぶべきところがあるところがある時にはきちんと学んでいますわよ。特に得るものがないのにをぼぉっと話を聞いている事こそ怠惰と思いますけれど。」
「仮に授業の内容を知っていたとしても、きちんと聴講なさい。先生がたに失礼ですし、周りの生徒たちに悪影響です。」
「それは私の問題ではありませんわね?他人の姿を見て学ぶ姿勢が変わるような方々のほうがよっぽど問題じゃありませんこと?」アリスは自分の振る舞いは棚において反論した。「それに、先生がたに失礼と言いますが、貴女が授業中に気になったことを先生に聞きに行っているのを見たことがありません。貴女こそまじめに授業を聞いていらっしゃるのかしら?きちんと聞いていれば時には疑問の一つや二つは出てくるものではなくて?」
「きちんと聞いていればこそ、きちんと理解できるのです。あなたこそ、きちんと授業を理解できていないからこそ変な質問が必要なのですよ。」
「あら、私は少なくともアピス様よりは授業を理解しているつもりですわよ?」
「あら、あなたが?」アピスがクスリと笑う。「これはこれは。授業で少し先生の質問に答えられたからって、滑稽ですわね。自信を持つのはお宜しいですけれど、過信はいけませんわ。常に謙遜し、努力なさい。」
「調子に乗っていらっしゃるのはアピス様のほうではありませんこと?爵位の上下と頭の良し悪しは関係ございませんわよ。」アリスは挑発的に笑った。
「どうかしら?教養や気品というものは生まれ育った環境で見につくものだと思いますけれど?でもたしかに、侯爵家なのにあなたのように気品も教養もかけらもないかたもいらっしゃるようですから、必ずしも爵位の上下は関係ありませんわね。」アピスはそう言ってからわざとらしく一言付け加えた。「あら、そういえば男爵家だったかしら?オホホ。」
「ええ、そうですわ。」アリスも負けじとやり返す。「授業を聞いていても質問の一つも思いつかず、クラスメイトの爵位すら覚えられない公爵家の方もいらっしゃるようですから。ウフフ。」
すげえ。なんか、すさまじいやり取りだ。
アリスってこういうのできたのね。
二人の間に火花が見えるかのようだ。シェリアたちはアリスの後ろでハラハラしながら二人の舌戦を見ている。他のクラスメイト達は巻き込まれないよう距離を取りながら、この先の展開をうかがっている。
「宜しいですわ。そこまで言うならば白黒つけましょうじゃありませんか。」アピスが笑顔で言った。内心はらわた煮えくりかえってるんだろうと思うが、全く態度に出ない。「来週の中間テストで勝負なさい。負けたら今後授業はきちんと聞いてくださいまし。よろしいですわね?」
「いいですわ。その言葉忘れないことですわ!後悔なさらないように。」
「来週が楽しみですわ。」
「本当ですわね。」
これまた、めんどくさいことに・・・。
さて、どうしたものか。
・・・。
ま、これは別にほっといてもいいか




