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5-1 b さいきんの学園もの2

 放課後、シェリアがアピスとそのお仲間たち十数人に取り囲まれていた。

 「シェリアさん!」アピスがお怒り気味でシェリアに詰め寄った。「あなたのご友人はいったいどうなってらっしゃいますの!」

 「え・・・あの・・・」シェリアがおびえて固まる。アリスのせいですまん。

 「・・・いえ、あなたに怒ってもどうしようもないことなのでした。申し訳ありません。」アピスは怯えているシェリアを見て、少し冷静になって言った。「それにしても何なのですあの方は。」

 アリスはアピスに注意された後、午後一コマ目の算数では熟睡、二コマ目の地理は最初のほうは少し聞いていたが、途中から授業の何かが気に入らなかったのか、授業そっちのけで良く分からん計算と図をかきながらいろいろ考え始めた。そして、一通り考えつくすと再び寝た。

 それを後ろから見ていたのだろう。アピスは授業がすべて終わると再び大股でアリスの元にやって来た。そして、「リデルさん!ちょっとよろしいですか?お話があります!!」とアリスに迫った。

 ところが、アリスは「御免なさい。用があるんで、じゃっ!」と言ってシェリアにも手を振ると、アピスを置いて矢のように教室から去っていってしまった。

 そして、取り残されたアピスが怒りのままに自分の派閥の女生徒たちを招集し、現状に至る。

 「公爵家たるわたくしをさしおいてあの態度は何なのでございましょうか。」ないがしろにされたアピスはかなりご立腹だ。「それに、注意したばかりだというのに、午後の授業全く話を聞いてらっしゃらなかったではないですかっ!」堪忍袋が開きっぱなしのアピスの息は荒い。

 「リデルちゃん、さっきの講義と午前中の講義の解らなかったところを聞きに行くって言ってましたから、きっと授業中に質問するのを我慢したのではないでしょうか。アピス様のご訓戒も届いていたんだと思いますわ。」シェリアがアリスをフォローする。ええ子や。

 ちなみに現在アリスは午前中の謎質問の続きを絶賛問いかけ中だ。隣で地理の先生が自分じゃなくて良かったという感じで気配を消しているが、おそらくこの質問のかたがついたら次はあなただ。

 アリスのほうのやり取りは聞いてても面白くないので、シェリア視点でアピスの様子を観察することにした。

 「きちんと、授業を聞いていないから訳の分からない質問が生まれるのです。それにシェリアさんも悪うございますわ。」

 「え?」シェリアは突然自分に話を持ってこられて驚いた顔をした。

 「貴女は子爵家のご身分。侯爵家であるリデルさんのことを『リデルちゃん』などと、将来の上下関係の妨げになります。目下からの非礼を気にしない点はリデルさんの美徳なのでしょうけど、あなたがそれに甘えてしまってはいけません。ちゃんとわきまえなさい。」

 「え・・・・あ、はい。」シェリアが何かを言おうとして止めた。

 「アピス様、アピス様。」アピスの取り巻きの一人がアピスに耳打ちした。「ドッヂソン家は先日男爵家に取り下げになっております。」

 「ああっ、んもう!そうでしたわ。ドッヂソン家は勃興が激しすぎます!混乱しますのよっ!」アピスが頭を抱えて綺麗なストレートヘアーを少しくしゃくしゃっとした。いいなあ。抱える頭があるって便利だよな。「って、シェリアさん!あなた、男爵家で年齢も変わらない女子に呼び捨てにされてるじゃありませんの!!」アピスが今更に叫んだ。

 「あ、ええと、特に気にしてはいませんので・・・。」

 「目下の者の非礼についてはきちんと戒めていかなくてはいけませんわ!!」

 さっきと言ってること違くね。

 「でも、いままでもそうでしたし、特にいいかなぁ・・・なんて・・・・。」シェリアが音声小さめに言った。

 「いけません!」アピスは言った。「あの子が恐ろしいのでしたら、今すぐ縁をお切りなさい!協力しますから。」

 「え、いえ。そういうのではなくて・・・・」

 「一度、リデルさんも交えてお話ししましょう。シェリアさんだけに言ってもらちがあきませんし、重荷でしょう。」アピスは扇子を広げて口元を隠した。「シェリアさん、リデルさんに、明日、お昼休みにわたくしの食堂にくるよう伝えておいてください。あなたも来るのですよ。皆様もおいでくださいまし、食事はわたくしのほうでご用意いたしますわ。」

 アピスの宣言にまわりから歓喜のどよめきが起こった。公爵家の食事にありつけるからだろう。

 「あの、アピス様・・・」シェリアがおずおずと手を上げた。

 「シェリアさん、何かご不満でも?」アピスがシェリアをキッと睨みつけた。

 「たぶん明日はリデルちゃん、朝からいなくなっちゃう日です。」シェリアは申し訳なさそうに答えた。

 「ええい、忌々しい!明後日からはわたくし、しばらくお休みをいただかなくてはならないといいますのに!!」アピスが声を荒げた。「皆さま!明日は、リデルさんが窓から出て行かないように窓のところに張り付いていてください。わたくしも朝一番にこちらに参りますわ!」

 このあと、アリスが教室を抜けていかないように、各自の役割とフォーメンションがアピス中心に話し合われた。

 が、

 次の日の朝、アリスはアピスの言いつけ通りに学校には寄らず直接スラム街に向かったのであった。

 結局、アピスたちは先生が教室に入ってくるまでスタンバイを続け、そして、アリスよりも先に先生が入ってくると寂しそうに席に戻っていったのであった。

 なんか、前にも見たな。こんな感じの光景。


 そして、この朝は他にもアリスに翻弄された人たちがいた。

 ミスタークィーンたちである。

 彼らは先週、先々週と2週間かけて下見をし、結果スラムの中ではなく、スラムに向かう途中のアリスの脱走ルートでアリスを待ち伏せすることにした。甘いものを準備しておけばアリスを釣れるだろうと見越して、お菓子を携えて待っていた。アリスが来たら、道に迷ったふりをして話しかける予定だった。昔の誘拐犯のようだが、こんなんでもアリスが引っ掛からないと断言出来ないところが悩ましい。

 しかし、その日、アリスは学校を経由せず、いつもとは別のルートで城から馬車でスラム前の橋まで乗りつけたので、ミスタークィーン御一行はアリスの視界に現れることすらなかった。

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