4-12 a さいきんの学園もの
1週間の時をおいてアリスとジュリアスの二人は再び対峙した。
前回と同じ場所、同じ時間、前回と同じようにギャラリーが二人を周りを囲んでいる。
シェリアもギャラリーの中で心配そうにアリスのことをうかがっている。
アリスはシェリアを見つけて小さく手を振った。
シェリアが思わず小さく手を振って答えた。
アリスの顔がニパッと花が咲いたようにほころび、今度はシェリアに大きく手を振った。
「二人とも準備を。」ヘラクレスが声を上げた。今回も彼が仕切っている。というか、先生たちに押し付けられた。
自分も前回同様ヘラクレスの肩に居座って決闘を観戦するつもりだ。ついでに彼に感染もしたいのだが身体鍛えてる人間には感染しにくいのだろうか、ヘラクレスには感染機会が来ない。アルトもそうなんだよな。
アリスはグラディスから剣を受け取って中央に出てきた。
「前回の条件ですが、承知しました。」アリスはジュリアスに声をかけた。「負けたら彼らに謝りましょう。」
よかった。
アルトが怒ってくれたおかげだろう。アリスは反省してくれたようだ。
我儘でギスギスしたアリスでなくなって良かった。
「良かった。ではこちらが負けたら・・・
「その代わり、私が勝ったらあなたたち全員私の下僕ね。」アリスはジュリアスの言葉を遮って宣言した。
おい。
悪化してねーか?
「くっくっ、いいさ。なんでも。」ジュリアスが押し殺した声で笑う
。一度、アリスの剣技を見ているジュリアスは自信満々だ。
「あ、でも、ルールは守ってね。」ジュリアスが少し内股になる。
「ルールを教えて頂いたので大丈夫ですわ。」
「両名ともよろしいか?」ヘラクレスが二人に告げた。
アリスとジュリアスが同時に構えた。
「へえ。様になってるじゃないか。1週間特訓してきたのかな。」ジュリアスは余裕の表情でアリスを褒めた。
「そうですわ。1週間前の私と同じと思わないことですわね。もう、あなたには負ける気がしません。覚悟なさい。」なんかめちゃくちゃ負けフラグっぽいぞ、その言い方。
「はじめっ。」ヘラクレスは二人の会話がめんどくさかったのか、いきなり開始の号令をかけた。
今回は静かな立ち上がりだ。
からかうようにアリスの剣先をはたくジュリアス。
アリスは特に動じない。体勢を崩すこともなく、剣を大きくはじかれることもなく、挑発されてやり返すこともない。今回は後の先で行くようだ。
と、膠着は長く続かなかった。
ジュリアスは剣を少しはたくと身体を前に蹴りだし、唐突にアリスに突きを繰り出した。
アリスがかわし、返す刀でジュリアスを突く。
と、ジュリアスが一瞬にして間合いを半歩離し、繰り出した剣を引っ込めた。そして戻した剣でアリスの突きを受けてそらす。
アリスはジュリアスにそらされた剣を回転させるようにして力を受け流すと、2撃目を即座に入れた。
が、ジュリアスはさらにもう半歩引いてアリスの攻撃のギリギリ間合いの外に回避した。
間髪入れずにアリスが踏み込んで3撃目を入れる。が、今度はジュリアスがアリスの攻撃を受けざまに反撃する。
アリスが身をよじって回避し、次の攻撃を繰り出そうとするもジュリアスのほうが速い。
アリスは慌ててジュリアスの突きをはたいて難を逃れた。アリスは相手に合わせてフェンシングのような立ち回りをしているが、なかなか様になっている。
が、この一瞬で攻守が一転、ジュリアスが攻撃を立て続けに仕掛けてきた。アリスは防戦一方になってしまった。
アリスの剣が少しマシになったことで判ったことがある。
ジュリアスは強い。
前回はアリスの攻撃が訳の分からないものが多かったせいか彼は苦戦したが、今回はアリスがまがりなりにも剣を憶えてきたため、完全に剣での勝負だ。ジュリアスには余裕が見える。
アリスがジュリアスの流儀に付き合って突きばかりの攻撃をしているせいもあるが、ジュリアスはアリスの突き以外の攻撃にも備えた動きをしている。それでもジュリアスはアリスを余裕をもって追いつめていた。
ジュリアスの攻撃が続く。
アリスも時々反撃するのだが、さっといなされ、返す刀で反撃される。
見ていて気が付いたが、ジュリアスとアリスの戦い方には違いがある。
ジュリアスは後ろに下がることを嫌がらない。アリスが押せば引き、チャンスと見れば押す。まさにフェンシングだ。
一方のアリスはあまり下がりたがらない。剣で受けたり、左右にかわしたりして、自分の間合いを譲らない。だから、後ろに引くときは引かざるを得なかったときなので、必ず態勢が崩れている。ジュリアスは後ろに下がっても態勢が崩れない。
ジュリアスはアリスの数少ない反撃をはじきながらそのままの勢いで攻撃をした。
アリスが慌てて身をよじってかわした。
ジュリアスは続けざまに突きを入れるが、アリスはギリギリで受け切った。
もう一つ、気づいたのがこれだ。
ジュリアスの攻撃は常に攻防一体なのだ。アリスも攻防一体の時はあるのだが、防御の際に態勢をくずされる事があるために、毎回攻防一体とはいかないのだ。結果ジュリアスの手数がどんどん多くなるのだ。
ついにジュリアスの手数に耐え切れなくなったアリスが、一歩、二歩と下がりだした。ジュリアスがここぞとばかりに前に出る。そして、会心の攻撃をアリスにではなくアリスの剣に向けて放った。
「!」アリスがハッとしたような顔をした。
アリスの剣が投げ飛ばされたようにクルクルと上空に跳ね上がった。
「!」今度はジュリアスが必死の形相で、この機を逃すまいとアリスに突きを浴びせた。
アリスが全力で後方に跳んでジュリアスの突きをかわす。
が、すぐジュリアスの二撃目。
突きは次の攻撃までの準備期間が少ない。ジュリアスは素早く深く踏み込んでアリスが間合いを取るのを許さない。
両手を大きく上げて、すんでのところでバックジャンプでかわし切るアリス。切っ先がアリスの胸の近くをかすめた。巨乳だったら当たってた。
瞬きの間もなく三撃目が繰り出される、一気に前に来たジュリアスに対して、後ろに跳んだばかりのアリスには、さらにバックステップしてかわし切るだけの余裕が余っていない。
ついにジュリアスの剣がアリスを捕らえた。
と、思ったその時、ジュリアスの三撃目は上空から落ちてきた自分の剣をキャッチしたアリスによってはじかれた。
「嘘だろ!?」余りの出来事に、ジュリアスが攻撃の手を止めた。
ギャラリーがざわめく。「偶然だよな。」「あんなのあり得ないわよ?」
ジュリアスは唖然とした顔でアリスを眺めている。彼は今のが偶然ではないと確信している様子だ。おそらくアリスの剣を跳ね飛ばした時にすでに違和感があったのだろう。
事実、アリスが剣をはじかれた時、わざと剣の飛ばされる方向を調整していた。
剣の落ちてくるのも確認せずにつかむなんて偶然にできるわけがない。
わざとでもできんか。
「やあ、うまいうまい。」ヘラクレスが喜んでいる。
実は同じことをヘラクレスとの練習の時にもやってたが、剣をつかむ前にヘラクレスに剣のほうを撃墜されてあっさり詰んでいた。
アリスは呆然とするジュリアスを尻目に、もう一歩後ろに離れて、ジュリアスの間合いから大きく離れて一息ついた。
「やるわね。」
「いや!君がだろ!!」
まったくだ。
二人が構えようとしたところで、思い出したように、というか、たぶん本当に思い出したので、ヘラクレスが「待て」と言って仕切りなおした。
「二人とも中央へ。」ヘラクレスは試合場の隅のほうへ行ってしまった二人を真ん中に戻す。
二人は中央に戻って来ると剣を構えた。
アリスの構えに会場が再度驚きのざわめきで埋まった。
ジュリアスもヘラクレスも驚いている。もちろん自分もだ。
アリスのこんな構えは初見だし、それっぽいことを練習していた様子も見たことない。
アリスは何も持っていない左手を前に構えたのだ。




