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4-11 b さいきんの学園もの

 アルトが帰ってた後、その日1日中は不貞腐れたように考え込むようにごろごろしていたアリスだったが、翌日になると気持ちに折り合いがついたのか元気に部屋を飛び出した。

 謹慎は良いのかって?

 城を出なければセーフらしい。

 そして、アリスは、城を出なければOKというルールをかってに決定したヘラクレスといっしょに城の中庭へと向かった。

 ・・・いや、こいつにも責任取らせろよ。なんで何事もなかったようにまだ護衛してんだよ。

 アリスはヘラクレスと共に城の庭へと続く扉を押し開けた。

 自分が転生してからおおよそ半年たった。初めて来た庭の花壇は賑やかだったが、季節は移ろい、今は季節ではないのかあでやかな色は少なく土の色が多く見えて少し寂しい。

 「ここは花壇が近いから、奥に行きましょう。そろそろ花を植える次期だから荒らしちゃったら悪いわ。」アリスはそう言ってヘラクレスを庭の奥へと案内した。

 今はいつものアリスに見える。

 昨日までのギスギスした様子は消えた。

 二人が中庭まで出てきたのは、アリスの剣の稽古のためだ。

 開けた場所に来ると、ヘラクレスはあたりを見回してこの場所が剣の訓練をするに十分な場所かを確認した。

 「んー、アリス様は剣を使ったことはありませんね?」

 「あるわよ。」アリスが答えた。「あなたも知ってるでしょ?」

 「いえ、あの襲撃の時は除いてです。」

 !?

 襲撃?

 何、その話?

 エルーザの時の話?

 「じゃあ、無いわ。」アリスは答えた。「部屋で剣をふるとグラディスが怒るの。」

 「それでよく決闘などなさろうとしましたね。」

 「何とかなると思ったのよ。だって、あんたの部下たちもやっつけたじゃない。」

 おい。

 アリス、昔なにやった?

 「まあ、そうですが、あれはおよそ剣術と呼べるものじゃありませんでしたよ?」

 「でも、あの後、あなたの剣術を間近で見たもの。」

 「いや、見たからって。」ヘラクレスは笑ったが、少し思い直したのか付け加えた。「たしかに、あれ以来剣を握っていないのであれば、昨日のは大したものですね。いちおう剣の扱い方自体は理にかなっていた。」

 「あら、ありがとう。」アリスが笑った。「ジュリアスって強いの?」

 「かなり強いですよ。」ヘラクレスは言った。「おそらく決闘という形であれば、私でも彼に勝つのは難しい。」

 「うそでしょ!?」アリスが驚く。「彼はそこまでは強くないわよ。私、あなたには勝てる気しないけれど、何でもありだったら、ジュリアスには負ける気がしないわよ?」

 「貴族同士の決闘は何でもありじゃないですよ。」ヘラクレスが苦笑いした。

 「外野が手出しさえしなければ何しても良いんじゃないの?」 

 「それは戦争で雌雄を決する時のことです。それは本当の殺し合いですから。なんだって王族なのにそっちの決闘しか知らないのですか?」ヘラクレスは言った。

 「そうなの?」

 「そうです。貴族同士が名誉をかけて行う決闘の場合、本来エペを使って戦います。」

 「エペ?」

 「突き刺し用の細くて軽い剣です。」

 「だから、突きばっかりしてくるのね。」

 「それが、彼の戦い方なのです。というより、それしかできないのです。」ヘラクレスは解説した。「エペを使った決闘は、正面から相手を殺さないように正々堂々と戦うことを誇りとしています。私も兵士の剣技の延長として扱えはしますが、同じ土俵で戦ったら勝てるかどうか解りません。この間の戦いを見た限り、決闘においてはこの国でも彼より強い人間は数えるほどしか思いつきません。」

 それで、アリスに決闘を挑んできたのか。それは正々堂々と言えるのだろうか。

 「私も突きで戦わないといけないの?」

 「いえ、ルールではありませんので、アリス様が普通に剣を振るっても文句は言われることはないと思います。私がそのように戦ったらさすがに文句が出ると思います。ジュリアス様も王女のような戦い方をしたら相当のクレームがつくでしょうね。」

 「ふーん。」アリスが不服そうな顔をした。

 変なプライド出すなよ?

 ルールでOKなんだから普通に戦ってくれ?

 いかん、自分で言っておいてなんだがフラグを立てているとしか思えない。

 「とりあえず、剣での決闘なので剣で攻撃しないとダメです。後、急所や目、首、それから脇の下を狙うのもダメです。」

 「それじゃ、どこを攻撃すればいいのよ?」アリスが物騒なことを言う。「お尻の穴くらいしかねらうところ残ってないじゃない。」

 「そこも狙わないでください・・・。」ヘラクレスは呆れた声を出した。「というか後ろから攻撃したらダメです。」

 「不合理な・・・」

 「殺さないで勝負をつけるための決闘です。本物の剣を使ってやる時などは防具をつけて、防具以外は攻撃してはならない規則になっています。とはいっても結構な場合、勝者死亡という形の決着が多いのも事実です。」

 「うーん。そうか、それで、ジュリアスは私が左右に動かないように攻撃を仕掛けてきてたのか。」

 「おや、気づいてらっしゃいましたか。」

 「さすがにね。戦いにくいったらありゃしない。」アリスは言った。「別にそういうのこだわらないから、実践的な剣術を教えて頂戴。せっかくだからきちんとした剣術を学びたいの。決闘のほうは何とかするわ。」

 「実践的な剣術とは人を殺すための技術ですよ。」

 「構わないわ。」アリスは言った。「承知の上よ。」

 「しかし、実はそうもいかないのです。」

 「何でよ。」

 「アリス様は左利きですよね?」

 そなの?

 「そうよ、良く知ってるわね。」

 「ちょくちょく、剣に振り回されていたり、左手がお手伝いに行ってたりしていたのでそうかなと。そういう傾向は右利きに矯正されて自分が左利きだと知らない剣士に多いのです。」ヘラクレスは続けた。「決闘では剣を右手に持たなくてはならないのです。」

 「何で?」

 「決闘では左利きがものすごく有利なのです。」

 「何で?」アリスが質問攻めにする。

 「理由は簡単、左利きの人間は右利きの人間と戦ったことがあるのですが、右利きの人間は左利きの人間と戦ったことが無いからです。」

 「そんな理由なの?」

 「そうです。」ヘラクレスが説明する。「んー例えば・・・そうですね、ジュリアス様の剣の構えを見ましたね。彼は肩を入れて剣と腕を前に出して間合いを取っていました。その結果、身体は正面ではなく横に開いています。」

 そう言ってヘラクレスはアリスに対し体を横に向けて剣を持たないままでフェンシングの構えをした。体はアリスに対して横に向き顔だけがアリスのほうを向く。

 アリスもつられて構えた。

 「通常、相手が右利きだった場合、相手の剣は体の正面側に来ます。見やすいですし、お互いの間合いはちょうど剣と腕の長さを合わせたくらいです。ところが相手が左利きの場合、」と言ってヘラクレスは180度回転して反対を向いた。「相手の剣の位置が背中側に来てしまいました。このままの間合いだとどちらかが死角側から剣を受けてしまいます。そのため必然的に間合いが伸びる。」

 ヘラクレスが半歩下がって構えなおした。この距離だと剣の先がアリスの脇腹の前にちょうど届くのだろう。

 「なるほど。」

 「間合いが伸びること自体は問題じゃありません。間合いが長くなっただけで剣が届かなくなるわけではない。」ヘラクレスは剣を持たないままアリスの脇腹に向けて剣を繰り出す動作をした。「ただ、このように、間合いも、見え方も、狙われやすい場所も右利きと左利きで異なります。このため、同じ戦いでも右利き同士と、右利きと左利きの対戦では全く別物なのです。これはエペでの決闘だけでなく、ロングソードやフレイルなんかの一般的な武器でも多かれ少なかれ同じようなことが言えます。ところが、左利きの人間は右利きの人間と対戦慣れしているのですが、右利きの人間は左利きの人間とあまり対戦しない。これでは左利きの人間は右利きの人間に対して圧倒的に有利です。経験者と未経験者の違いに等しい。なので、決闘の場合は右手で剣を使うというように義務付けられました。」

 「うーん。左利きに対してずるくない?」

 「すべて平等という訳にはいきません。王女も右で鉛筆やナイフをお使いになられるでしょう。左利きにとって書きにくいからといって、右利き用の文字と左利き用の文字を用意するなんてばかげています。それと同じです。王女もジュリアス様との決闘の時、右で剣を持ったでしょ。もちろん貴族同士の決闘ではなく武術大会などの純粋な力比べ目的の場合は左手で武器を持っても大丈夫です。しかし、実績として、武術大会では左利きの優勝者はかなり多いのです。」ヘラクレスは言った。「という訳で、アリス様、決闘用の右と実戦用の左、どちらになされますか。」

 「右にするわ。ジュリアス強いもの。あいつとの戦いに役に立たないものを学んで勝てるとも思わないわ。」アリスは答えた。

 「御意。では、始めましょうか。」

 ヘラクレスは持ってきていた袋から練習用の木刀を取り出して、アリスに投げてよこした。


 そして、アリスの特訓が始まった。

貴族同士の決闘についての説明を少し追加しました。(21/12/5)

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