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4-11 a さいきんの学園もの

 さて、アリスが原因の頭の痛い会議が終わった後、ロッシフォールにはもう一つ面倒な仕事が残っていた。

 アリスへの説教だ。

 今日は金曜日が明けて土曜。アリスはお休みだ。

 この世界の学校も土曜と日曜が休みだ。と言うよりは、この世界が週7日の暦を使っていて、学校が週休2日だったので、そこを基準に自分が勝手に曜日を当てはめていったというのが正しい。

 最初に脱走したとき以来でロッシフォールがアリスの部屋にやって来た。

 たぶん彼が説教以外でこの部屋に入ってくる事はないんだろうなあ。

 「私は悪くないわよ。」

 「まだ、何も言っておりませんが。」

 「何か言いに来たんでしょ?」

 「そうですな。」

 「私は悪くないわよ。」

 にべもない。

 「シェリアに先に手を出したのが悪いんだからね。」

 「いくら何でもやりすぎではないですか。」ロッシフォールは諭すように言った。

 「シェリアの事足蹴にしたのよ。」アリスは息巻いて言った。「洋服までびりびりに引き裂いて。」

 「そうですか。その分は償わせましょう。」ロッシフォールは言った。「では、殿下が彼らにしたことはどうやって償えばよろしいですか?」

 「なんでよ、私悪くないっていってるじゃない。」

 「殿下がやり返したという事であれば、すでにやり返された彼らが我々からの罰まで受けてしまっては釣り合が取れなくなってしまいます。」ロッシフォールはアリスを丸め込みにかかった。

 そういうのじゃないんだ。

 今回のアリスは絶対に間違っている。それじゃダメなんだ。しっかり叱ってくれ。

 「彼らへの謹慎同様に、殿下も6日間の謹慎とします。」

 ロッシフォールはジュリアスの取り巻きたちにも6日謹慎させると言っているのだ。が、謹慎も何も彼らが6日程度で外を歩けるようになるとも思えない。実質、彼らのほうは手打ちということだ。

 「・・・」アリスがロッシフォールを睨んだ。しかし、この辺りが落としどころだと感じたのか、反論はせず、一言疑問だけを返した。「中途半端な日数ね。」

 「ジュリアス殿下との決闘があるのでしょう?」ロッシフォールは言った。「アリス殿下ならともかく、リデル=ドッヂソンが決闘の約束をすっぽしては、それこそどのような面倒なことになるか・・・。」

 「5日にまからない?」

 おい。

 「ダメです。」ロッシフォールはいらっとした様子で答えた。「本当なら1か月くらい監禁しておきたいくらいなのですよ。それを決闘があるから仕方なく6日にしているのです。」

 いや、決闘させんなよ。

 「そうなの?ありがとう。ロッシ。」アリスは言った。「私、負けないわ。」

 違うそうじゃない。そういうことじゃない。

 今の天然だよな?

 さすがに、アリスがこの状況でわざわざ嫌味を返すような人間だとは思いたくない。まだ空気が読めないほうがましだ。

 思い返せば一番最初にロッシフォールの髭を褒めたのも、ほんとに賛辞だったのかもしれない。

 額に青筋を浮かべたロッシフォールが絞り出すように答えた。「私としては潔く決闘に負けて、彼らに対して謝罪をしていただくのが良いのですがね。」

 「なんでよ。嫌よ。私悪くないもん。」

 自分から見ても、今日のアリスはイライラする。ロッシフォールはなおさらだろう。

 ロッシフォールは何も答えずアリスを睨みつけると、額の血管が怒りで切れないうちに、大股で部屋から出て行った。




 「こんにちは、アリス君。」

 午後のティータイム、ノックの音とともにアリスの部屋に入って来たのはアルトだ。相変わらずこの入ってき方、何とかならんもんかね。着替え中とかだったらどうしようとか考えないのだろうか。

 グラディスも当然のように受け入れてないで注意したほうがいいんじゃないか?

 このタイミングで訪ねて来たということは今回の件についてなんかしら耳に入れたというところだろう。

 「派手にやってくれたねぇ。」当然のようにアルトのことは無視してグラディスにお茶のお替りを要求しているアリスに、アルトは近づいてきて言った。「骨折が14か所。縫合箇所が計14針。打撲は数えきれない。二人は未だ意識を取り戻していない。全員絶対安静だ。」

 意識が戻らないという言葉にアリスが一瞬ピクリとした。

 「いくら何でも、やりすぎだったと思うよ。」

 「私は、悪く無いわよ。」アリスはロッシフォールにさんざん言ったセリフをまたも口にした。「あいつらがシェリアに酷いことしたんだもん。」

 「運が悪ければ、誰か死んていたかもしれない。もしかしたら明日にも誰か死ぬかもしれない。」

 「当然の報いよ。」

 「報い?違うな。君がやったんだ。」アルトは静かに言った。「君が殴った。」

 アレ?

 もしかしてマッチョ怒ってる?

 「彼らは死んでいても仕方ないくらいのことをやったのか?シェリアは彼らが死んでも仕方のないことをされたのか?」

 「そうよ、当然の報いよ。グラディスが酷いことをされて・・・

 「違うだろ!」アルトが怒鳴った。まさに雷だった。「彼らはシェリアをグラディスの時のような目には合わせていないだろう。それを君が怒りに任せて勝手に断罪した。グラディスを言い訳にするな!」

 アルトの怒気にネオアトランティスが興奮して羽をバタバタとはためかせた。落ち着いて見ていてくれ、視線がぶれる。

 「申し訳ない、グラディス殿。」アルトはグラディスに向き直って頭を下げた。

 「いいえ。アリス様を叱っていただいてありがとうございます。」グラディスもアルトに向けて頭を下げた。

 良かった。こんなところにアリスのことを本当に怒ってくれる人が居た。

 アリスはグラディスがアルト側だと知って、めずらしく、すがるような視線をグラディスに投げた。

 しかしグラディスはアリスに軽く一礼して取り合わない。

 「彼らは悪い。でも、彼らは、最後の絶対にやってはいけないことはやらなかった。」アルトは言った。「君はどうだ?君は彼らを殺そうとした。」

 「違っ、そんなこと。」

 「じゃあ、手加減をして殴ったか?大けがをしないように殴ったか?死なないように殴ったのか?」

 「・・・・」

 「生死なんて気にしていなかった。死んでも厭わなかった。」

 「・・・・」

 「君は気が済むまで彼らを殴打しただけだ。結果として死ななかっただけだ。殺そうとしたのと何が違う。」

 ちょっと言い過ぎなような気もしないが、それだけのことをアリスはしている。彼らを診断したアルトはアリスがどれだけのことをしてしまったのか誰よりもよく解っているのだろう。

 「私、悪くないもん。」歯を食いしばりながら、子供じみた言い訳をアリスは繰り返した。

 「あなたの伯父さん、ルイス=ドッヂソンはこの件の責任を取って男爵に落とされた。」アルトが追い打ちをかけるようにアリスに言った。

 「うそっ。」アリスが驚いたようにアルトを見上げた。「ロッシ・・・・」

 「君のせいだぞ!」再びアルトが雷を落とした。「君のしたことの責任を誰かが取らなくちゃいけなかったんだ。ロッシフォールは今回君を守ってくれたんだ!」

 「私は悪く無

 「いいや、君が悪い!」アリスの言葉をアルトが大声で塗りつぶす。

 追いつめられたアリスが、アルトを見上げた。こころなしか目が潤んでいる。

 やべえ、こんな時になんだが、ちょっと半端なく可愛い。ここまでのアリスの狼藉のすべてを許してしまいそうだ。ギャップ萌えとでもいうものだろうか。アルトビジョンで見下ろし角度から見てみたい。アルトに感染できていないのが心から悔やまれる。

 「アルト卿、アリス様ご自身も本当は分かっていらっしゃると思います。」アリスが大男に追いつめられているのを見て、さすがに居てもたってもいられなくなったグラディスがアリスに助け舟を出した。

 「そんなのは解っているのですよ、グラディス殿。だから腹立たしいのです。自分が悪いと思っていなければ、この子はこんなに何度も自分は悪く無いなどと繰り返さない。」アルトが答えた。「この子は今回、自分で自分を丸め込もうとしている。」

 そうだ。

 それだ。

 それなんだ。それが、気に入らなかったんだ。アルトが的確に言葉にしてくれた。

 ずっと、アリスはごまかしているんだ、彼女自身の道理を。

 自分は悪く無いと言い続けることで。

 子供たちがするように。

 大人たちがするように。

 それはアリスじゃない。そんなアリスは見たくない。今のアリスには何の筋も通っていない。

 だからイライラするんだ。

 「私は・・・」

 「本当に悪く無いか?何度言い聞かせたって、間違っているものは間違っている。本当に君は悪く無いか?悪く無いと誰かに肯定してもらいたいだけじゃないのか?誰か一人でもそう言ってくれたか?なぜ君はそう言ってもらいたいんだ?」アルトは容赦しない。矢継ぎ早にアリスを責め立てる。

 ついにアリスがうつむいた。

 「今、君は自分の意思を貫いているんじゃない。自分の心をねじ曲げているんだ。」

 そう言うと、アルトはアリスの目線までしゃがみ込んだ。

 「自分を曲げるな、アリス=ヴェガ。君が自分を曲げてはいけない。」アルトは言った。「私が助けたいのはどんな時も曲がらないまっすぐな君だ。」

 アリスはアルトから目をそらすようにさらにうつむいて、口をとがらせ、

 しかし、小さく頷いた。

 アルトは黙って立ち上がるとアリスの小さな頭を大きな手で撫でた。

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