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4-8 a さいきんの学園もの

 「ただの石じゃない。」アリスは言った。「これをどうするの?」

 「売るんだ。」ケンは胸を張って答えた。

 「どうやって?」

 「とりあえず、えーとアリス猊下がここに来る途中に渡った橋があるだろ?」

 「アリスでいいわよ。呼び方間違ってるから。」

 猊下ってなんだっけ?偉い坊さんにつけるやつか?

 「おう。アリスの通って来た橋のところに店を出そうと思うんだ。」ケンは特に躊躇することなくアリスをアリスと呼んだ。

 「そうじゃなくて・・・いや、そのあたりのこともそうなんだけれど。」アリスは困ったように言った。「ただの石をどうやって売るのよ?」

 「いや、だから店で。値段つけて。」今度はタツが答えた。

 ここはタツの家だ。

 タツとケンと学校をさぼって来たアリスが、床に置かれたいくつもの丸い縞模様の石を囲んで談義中だ。

 少し離れてグラディスとヘラクレスとタツ母がお茶を飲んでいる。タツ母はものすごく居心地が悪そうだ。

 「誰がこんな石を買うのよ?」質問の意図が伝わっていないようなのでアリスが問い直した。

 「変わってるし綺麗だろ?」とタツ。

 「石じゃない・・・。いくら取るつもりよ?」

 「100ラムジくらい。」

 「高すぎよ。宝石の値段じゃない。」

 「でも珍しいんだぜ?」とケン。「町の隣の山の、河原にしか落ちてないんだ。」

 「一生懸命丸くてきれいなのを見つけきたんだよ」タツも抗議する。

 「俺らが手に入れられるもので売れそうなのはこれしかないんだ。」と、ケン。

 「できることを頑張るのは努力とは言わないわ、それはただこなしているだけよ。」アリスが言った。「努力するなら自分ができないことをできるようになりなさい。売れそうなものを見つけてこれないんだったら、見つけられるようになりなさい。作ったっていいわ。」

 「なにをできるようになればいいのさ?」タツがむくれた。

 「知らないわよ。何だっていいわ。そうね、皆ができないようなことが良いわね。」アリスは答えた。「その何かに価値があれば、必要な人が、それを高値で買ってくれるのよ。」

 「良く分からん。」ケンが眉をひそめる。

 「あなた達ができるようになりたいことは何なのよ?」アリスはタツとケンに質問した。「それかあなた達がやりたいことは?」

 「とりあえず、石を売りたい。」

 目先!

 「・・・・じゃあ、例えばこの石に綺麗な細工ができるようになって、それを売り出すとか?それなら売れるかもしれないわよ?」アリスは言った。「だいたい、何だって急にこんな石を売り出そうとしているのよ?」

 「いや、この間、お前に言われて俺らもこの生活から脱却できるように頑張んねーとなって思ったんだよ。」ケンが、小さな声で拗ねたように言った。

 「私、何か言ったっけ?」

 「スクイージのじじいに言ってたろ?努力したら見捨てねぇって。」

 「・・・聞いてたの?」アリスはバツが悪そうに目をそらした。「なんか、恥ずかしいわね。」

 「だから、いざって時に一番にこの生活から脱却できるように、なんかしなきゃいけないと思ったんだ。」今度はタツが言った。「だって、姉ちゃんが助けに来てくれたのに誰もついてけなかったらやだろ?」

 「本来、ここの生活は俺たちが本当はどうにかしなきゃなんないもんなんだろ?お前に助けてもらうだけとかすげー恥ずいし。」ケンは少し赤くなって言った。「なんつーか、お前にあんなこと言われて、黙って助けを待ってるだけってのはカッコわりいと思ったんだ。」

 青春かな。

 赤くなってるケン少年にキュンキュンしてしまう。

 で、そんな、アリスのためにやる気満々で頑張った少年たちの努力を、アリス本人がいの一番に全否定するっていうね。

 アリス、会社の上司とかには向いてないんじゃないかな?王様ならこういうの許されるんだろうか?うーん。アリス、あんま良い王様にならなそう。

 アリスもちょっと言い過ぎたと思ったのか、石を手に取ってまじまじと観察し始めた。

 そして、光にすかしたり、手の上で転がしたり散々いじり倒してから、アリスが言った。

 「ぜんぜんダメね。すくなくとも、このままじゃ私はこれを欲しくないもの。」

 結局、全否定するんかーい。

 「でも、珍しい石なのはたしかね。なんとか売る方法はないかしらね。」

 あ、ちゃんとフォロー入った。

 「本当に、この国のこの山にしかないんだとさ。」とケン。

 「カリア石っていうんだって。」タツが言った。

 「希少価値はあるのね。グラディスは見たことある?」アリスは両手を後ろの床につくと首をそらせて、後ろのグラディスを見ながら尋ねた。

 「いいえ、初めて見ます。王女殿下。」グラディスはかしこまって答えた。「珍しい物ではあると思います。」

 「しかし、輝きがないですね。これではただの河原に落ちているきれいな模様の石ですね。」ヘラクレスが聞かれてもないのに続けた。




 さて、今朝のこと。

 学校に通うようになって2週間。

 アリスは学校から帰ってきてからのケーキを楽しみに学校での授業を我慢して受けていた。

 ところが先週ケーキ屋の定休日を知ってしまったアリスは、ケーキ屋がお休みの本日は我慢一切なしだった。

 馬車を下り校舎に入ると、教室の入り口ですれ違ったシェリアに「今日はお休みするわね。」とだけ告げて、そのまま教室を突っ切って窓から出て行き、タツのもとに遊びに向かった。

 そして、アリスがタツの家に到着すると、そこにはタツの家族にお茶を入れるグラディスと、その傍でやることもなく座っているヘラクレスが居たのだった。

 ちなみにオリヴァは教師たちにアリス脱走の事情を説明するため奔走している。

 もう、木曜はお休みにすればいいのに。

 アリスにとっては学校の授業はレベルが低いようだから、ちょっと授業出ないくらいがちょうどいいんじゃなかろうか。

 その日のジュリアス派閥の少年たちは、今度こそと朝ものすごく早くに教室にやって来て、アリスの椅子の脚に切れ込みを入れて座ると折れるように細工をし、グラディスが椅子を簡単に撤去できないように椅子と机の脚を床に釘で打ち付けた。さらに、机に悪口を彫刻刀で彫り込み、その後校庭で火をおこし、その火で溶かした錫を彫刻刀の跡に注いで、錫でかたどられた綺麗な悪口のモニュメントを机の上に制作した。

 何がそこまで彼らをかき立てたのか。

 とも思ったが、昨日机を持って教室に入って来たグラディスの姿を思い出すと、彼らの何かのスイッチが入ってしまったとしても理解できんでもない。

 もう、グラディスとの戦いなんだろうな。

 今度こそはとドキドキしながら見守る少年たちの元にグラディスは現れず、いきなりアリスが登場したかと思うと、机になどは見向きもせずに、教室を横断してそのまま窓から出て行ってしまった。

 少年たちは最初、唖然として見ていたが、その後とてもガッカリした様子だった。

 まあな。華麗にこの状況を回避するグラディスを見たかったよな。

 せっかく作った悪口のモニュメントは次の日の朝にはグラディスの手配した技師たちによって新しい机へと変えられているのだった。

 そして、アリスは教室で何が行われていたかなど知る由もなく、スラムに向かったのだった。

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