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4-4 b さいきんの学園もの

 次の日の朝。

 アリスは教室の扉を開けて元気よく中に入った。

 ジュリアスの取り巻きの少年たちが教室に入って来たアリスを確認してひそひそ話を始めた。

 アリスも気づいているはずだが特に気に留めた様子はない。そもそも相手にしていない。

 彼らの中にジュリアスは居ない。今日も来ていないようだ。

 アリスはシェリアに挨拶すると、席に座り、筆記具を取り出そうと引き出しを開けた。


 ぞわっ!


 なんか居た!!

 脚いっぱい!

 アリスは引き出しの中に鎮座していたその謎めいたフォルムのモノを見て、びっくりして引き出しを閉めた。

 しばらく引き出しの取っ手をつかんだままで固まって引き出しを見つめるアリス。

 教室の端で例の男子たちがくすくすと笑っている声が聞こえたがそれどころじゃない。目の前の匣の中に何かが居る!

 アリスが意を決して引き出しを開けた。

 うぎょあぁあああ!!!何だこれ!きめぇええ!!

 引き出しの中には、何本ものめちゃくちゃ長い足を降りたむようにして身構えているクモのようなサソリのような20cmくらいの黒い虫が居た。人間が生理的に受け付けない形状の生き物だ。よく見るとうっすらと毛の生えた細長い胴体の先端から細い触手のようなものが出ていてにょろにょろと蠢いている。

 こんなん虫じゃねぇっ、蟲だ。

 アリスと、蟲と、アリスの中の自分が凍り付く。

 最初に動いたのは蟲だ。金縛りから解けたように、素早く引き出しの奥に逃げ込もうとした。動きはまさにクモのそれだ。

 その瞬間、アリスの小さくて素早くて正確な手が動いた。


 はっし。


 つかむんじゃねええええええええ!!!!!!!1!!

 慌ててアリスから離脱。ウィンゼル卿に逃げ込む。

 もう今は無い心臓がバクバク言っている。

 アリスが捕まえた蟲を取り出した。

 アリスの不可解な様子を気にしていたクラスの女子たちが蟲を見ていっせいに悲鳴を上げた。

 ウィンゼル卿がびっくりしてアリスから離れてシェリアの後ろに身を隠した。

 ニヤニヤしていた男子も何事かと見ていた女子も、蟲を持ち上げたアリスを凝視して固まる。

 ウィンゼルもシェリアの後ろからアリスの持っている蟲を凝視する。

 怖いから見たくないけど、目を離している間に居なくなっているともっと怖いもんだから、みんな目が離せない。

 「ふぉぉぉ!!」アリスは、背中をつかまれ必死にワキワキと長い脚と触手を蠢かせている蟲を見つめながら声をあげた。「なにっ?なにこれ!!カッコいい!!」

 何でそうなるっ!

 何で、目キラッキラかっ!!

 「ねえ、これくれたのあなたたち?」教室の隅で様子をうかがっていた男子たちに向けて蟲を持っている手を伸ばして、アリスが跳ねるように近づいて行く。

 「びやぁぁぁっ!!」テンションの上がったアリスが蟲を手に駆け寄ってきたので、少年たちは金切声を上げて教室の隅に逃げ固まった。てか、お前らその様子で、どうやってこいつ持ってきたんだよ?

 「ひい、そうだよ、やるよ。」茶髪の少年が悲鳴のような声で答えた。

 「ほんと!?ありがとう!!」アリスは花を贈られたお姫様のように満面の笑顔で礼を言った。

 「お・・・おう。」少年たちがアリスの喜んでいる様子に困惑する。「えぇ・・・・」

 「この子、どこに入れておこうかしら・・・・。」アリスは自分の席に戻りながら手の中の蟲を見つめた。ルンルンで今にも頬ずりしそうだ。

 アリスは席に戻ると開いているほうの手で引き出しを開けた。

 「「「そこはやめて!!!」」」

 そこはやめろし!

 クラス中と自分から、悲鳴のような総つっこみが上がり、引き出しに蟲を戻そうとしていたアリスはおろおろと周りを見まわした。

 「リ、リデルちゃん・・・そこはちょっとやめて欲しいかな。」シェリアがアリスをたしなめた。

 皆もうなずく。

 授業中、同じ部屋の中にあんなんが居るなんて絶対嫌だ。

 「それも、そうね。こんなところに入れてちゃ、可哀そうですものね。」と言って、今度はアリスは床にしゃがみこんだ。

 「「「放し飼いはもっとダメ!!!」」」

 なんで、クラスメイトじゃなくて、蟲のほうに目線寄せてくんだよ・・・。

 あと、ガニ股でしゃがむな。

 「リデルちゃん。それ、飼うの難しいから外に離してあげよう、ね。」シェリアが懇願するようにアリスに言った。

 皆も必死でうなずく。

 「えー。」アリスが不満そうに蟲を見た。

 「死んじゃったら可哀そうだし、ね。ね?」

 「うーん、それもそうね・・・。」アリスは苦渋の表情だったがなんとか納得したようだ。「お別れね、ローズヒップ。」

 それ蟲につけた名前か?名前の感性が無理だ。

 蟲はローズヒップと呼ばれて脚をワキワキとする。足を延ばすとなおさらでかく見える。

 アリスが窓のほうに歩き始めた。

 生徒達は軍隊の進軍から逃れでもするかのようにちりぢりになってアリスの進行方向から逃れた。

 アリスは窓を開けると、片手を窓枠について、よっと言って窓枠を軽々と乗り越えて庭にでた。そして、その場でしゃがんだ。

 「リデルちゃん!!」シェリアが叫んでアリスを静止する。「できれば、遠くに。ね?」

 庭に近いからって窓から出入りすんな。

 あと、ガニ股でしゃがむな。

 アリスはシェリルのほうをものすごい表情で振り向いた。どんな表情かというと、『いちいち注文の多い女だな、クソめんどくさい。』という表情だ。

 「ね?(怒」

 「・・・・」同年代の女の子にガチギレぎみに促されて、アリスはローズヒップを持ったまましぶしぶ庭の奥に消えていった。

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