4-4 a さいきんの学園もの
アリスへのちょっかいはその日のうちから始まった。
リデル=ドッヂソンがアピスとジュリアス一派をあしらった波乱の休み時間が明け、次の授業は地理だった。
つまらない授業は大概の場合アリスは相変わらず適当にしか聞かない。
その辺りの話がすでに前回アリスを受け持った先生たちから伝わっていたのだろうか、開始早々からすでに先生のアリスを見る目が厳しい。
そして、例によってこの日の地理の授業はアリスにとって簡単すぎたようだ。アリスは授業が進むにつれて目に見えて興味を失い始めた。
案の定、初日から退屈そうにしているアリスを先生が当てた。板書された地図に国名を書き込めとの指示だ。
アリスは前に出て行くと余裕で地図に国名を書き込む。このくらいはアリスなら当然だ。
先生のほうも難しい問題を出したわけではなかったのか、アリスの回答に驚くこともなく「よろしい」とだけ言ってアリスを席に戻した。
最初のちょっかいはアリスが席に戻るほんの短い帰り道でのことだった。
アリスの二つ前、教室の一番前のど真ん中に座っていた生徒がアリスに足を引っかけに来たのだ。なんてテンプレ。
さっきのデブだ。
アリスが転んだのを笑い飛ばすつもりだったのだろう。間違いなく自分がやられていたら転ばされていた。
しかし、やられたのはアリスだ。
アリスは視界の端に突然現れた足を認めると、慌てることもなく、しかも避けている様子すら見せずに、さらっと彼の足をかわすと、かわし際に踏みつけた。踏みつけたなんて生易しいものではない。アリスが履いていたのはパンプスというのだろうか、ローヒールの靴だったが、アリスは的確にかかとを彼の小指だけに落とした。アリスにかかれば女子用のおしゃれ靴も凶器となる。
悲鳴をあげながら飛び回る少年。
アリスがこのあたりの天性を生かすような職業に就いたら、闇稼業から引っ張りだこだろうな。アリスが王族で良かった。
「行儀悪く足を出していると危ないですわよ?」アリスは冷ややかに悶絶している少年を見て言った。
これがジュリアス一派の少年たちとの戦いの火蓋だった。
次の算数の授業でも彼らは仕掛けてきた。
今度はアリスの木炭鉛筆が細工されて書けなくなっていた。
アリスとシェリアの学力を見るためだったのか、黒板に書かれた計算を解くのが今日の授業だった。
そして、そのテストが始まってから、アリスは木炭が書けないことに気が付いた。擦っても折っても文字が書ける様子がない。
てか、どうやったんだこれ?そもそも、いつ細工したんだろう?
「では皆さん、板に書いた答えを見せてください。」先生がテストの終了を告げた。
アリスはもちろん何も書けていない。
「先生、すみません。」アリスが手をあげた。
「どうしました?」
「鉛筆がどれも書けないようです。なので、問題を上から口頭で解答してもよろしいでしょうか?」
「は?」
は?
3桁同士の掛け算とか入ってんですけど?
アリスの提案の意味が全く理解できていない先生の様子に、アリスは返事は待たず、起立して、テストの回答を上から順に答えだした。
1問1問答えていくたびに、先生の目がどんどん丸くなっていく。その先生の様子を見ていたクラスがざわめく。
前回学校に来た時同様、10問の設問をアリスはすらすらと間違うことなく完答した。
今回、前回と違ったのは、問題の難易度だ。今回の計算は自分でも口頭では無理だ。
「おおおっ。」教室からどよめきが上がった。
アリスはすました顔でひざを少し曲げて礼をすると着席した。
この日の嫌がらせはこのようにアリスの完勝で終わった。
しかし、もちろんの事、嫌がらせはその日だけでは終わらなかった。




