4-2 c さいきんの学園もの
はて、アリスの学校行きが決まってから、ハラハラが止まらない。
王の言う通り、ロッシフォールがエラスティア公を抑え込めれば、アリスは狙われることはないだろう。
しかし、必ずしもすべてが王の思い通りに皆が動くとは限らない。
事実アリスを取り込みたいレジスタンスの中にも、王族憎しでアリスを殺そうと考えている人間が居た。
学校に居ればそこら辺は安全だろうが、そもそもアリスがおとなしく学校だけに通っている訳がない。一体何をやらかすことか。アリスはどんな問題を起こすのだろうか?考えるだけで今は無い胃がキリキリ痛む。
それに学校でうまくやっていけるだろうか?
授業は問題ないだろうが、クラスメートと上手くやっていけるのか心配だ。
前回はうまくやってたから、大丈夫だと思いたいが、今回はジュリアスが同じクラスに居る。
この間あった感じだとあんまりアリスとうまくいくタイプには見えなかったんだよな・・・。クラスメイトも前回の時みたいにみんないい子だとは限らないし。
心配だなあ。
そんな、こちらの心配は伝わるはずもなく、アリスは平常運転だ。
アリスは約束通り部屋に遊びに来たケネスにいろいろと教えを乞うていた。
今は”貴族商取引法”とかいう貴族が商取引を行うための特権みたいな法律について、アリスが物申したところだ。外国の安い食物の販売権を貴族が独占できる内容になっている。
「基本この国は金本位制です。貴族たちは金貨を使いますが国内にはほとんど流通せず国家間でのやり取りに使われます。なので金貨の保有量はそのまま国力になります。だから、我々は金の流出を防ぎ、金の獲得を目指します。」
「だから、外国からの安い食物は貴族たちしか買えないようにしているの?金貨の流出を防ぐために?」
「そうです。それも一つ目の理由です。調度品や宝石でしたら、それ自身に価値がありますので金貨とそこまで大きく変わりありませんが、食料だとそういう訳にもいきません。金貨が国外にどんどん流れて行ってしまい戻ってこない。購入したものは全部食べてなくなってしまう。貴族たちも金は使用しますが、伯爵以下は意外と保有量が少ないので使おうにもたいして使えません。公侯爵はそれこそ金の大事さを知っていますのでため込みます。一方で商人たちの持つ金貨は流動的です。これを国内にとどめ置くというのがこの法の目的の一つです。」ケネスが答えた。
「でも、貴族たちがそれに利益を乗せて、さらにそこに商人が利益を乗せて売るから、貧しい人は食料にありつけないのよ。金の流出を防いでも国民が疲弊しては意味が無いわ。」
「外国の安い食料を貴族しか買えないのには、別の理由もあります。農民を守るためです。」
「?」
「外国の安い食べ物が入ってきてしまえば、その分だけ国内で生産される食べ物が必要なくなっていくのです。人間のお腹には限界がありますから。外国の安い食料でお腹いっぱいになってしまう。」ケネスは言った。「そうするとこの国の農民が要らなくなってしまうのです。結果、農民は職を無くしてしまう。領主も税収である食料を外国の食料と同じ安い値段でないとさばけなくなり、農業に関わる全員が疲弊します。」
「それで”貴族商取引法”ってこと?」
「そうです。商人は外国の麦、米、粟、麻を輸入してはならない。外国の商人はそれらの品目を国内で売買する際に取引した金額にかかわらず品目ごとに定められた関税を支払わなくてはならない。貴族はその品目を法が定める価格より高く売らなくてはならない。これで農民の生産する作物の価値が守られます。」
「う~ん。」アリスが首をひねる。「だからって、このやり方だと貴族たちは儲かるけど、農民の暮らしは良くならないし、市民たちは食べ物に不当に高い値段を強いられるわけでしょ?」
「そうですね。それが問題です。しかも貴族たちは農作物の価格が下がっても、同じような“金額“となるように税を徴収します。そのため、納めなくてはならない作物が多くなり、いまだに奴隷的な農民はいなくなりません。さらにその下の貧困層は農地すらもらえません。なんせ、新しく開墾するより、外国から作物を買ったほうが手っ取り早くて儲かりますからね。だから、これ以上輸入作物の値段を下げるわけにはいかない。一方で殿下の言うようにこれ以上食べ物の価格を不当に吊り上げるわけにもいかない。」
「なんか、騙されているような気もするけど、”貴族商取引法”でやりたいことは分かったわ。」アリスが眉をひそめたまま答えた。本当にこの法律がその通りに働いているかを考えているようだ。「どうやったら、こんなことまで考えられるの?大人になるのに少し自信が無くなって来ちゃうわ。」
「考えられませんよ?」
「は?」
「先代の御世の商人たちがね、外国の安い作物を輸入して、大量に売りさばいたんですよ。結果、農民をやってられなくなった人が増え、儲からない農地は削減され余剰生産が生まれなくなり、国内の農業は衰退しました。それを防ぐために、ネルヴァリウス陛下と私とロッシフォール閣下で対処療法的にこの法を作ったのです。何事にも歴史ありですね。」
王とロッシフォールって案外すごい人だったのね。というかさらっと自分自身のことも連ねたぞ、この人。
アリスはそれを聞いて納得したようだった。が、憎まれ口のようにケチをつけった。「でも、農民たちの暮らしは良くならなかった。」
「おっしゃる通りで。」ケネスは嬉しそうに笑った。「むしろ、商人の暮らしが悪くなった分、マイナスですかね。」
こんだけ長々とがん首突き合わせて会話してられるとさすがに感染が容易だ。
ケネスに【飛沫感染】を成功させることができた。
そして、このオッサンの素性を探ってびっくりした。
彼はこの国の宰相だった。王の次、No.2。ロッシフォールやこの国の公爵たちより偉いのだ。




