3-6 b さいきんのミステリ
とりあえず、日中は基本的にはアリスに張り付いていることにした。警戒はしておいたほうが良い。
本当ならゴリやネズ子のほうがヘラクレスを見つけやすいんではないかと思うのだが、ゴリやネズ子たちはあまり日中は動きたがらないので、無理だった。
アリスたちが安全そうな時にベルマリア公の様子を確認して、なんか面白そうな話が聴けそうだったらしばらく見張るようなスタンスでいこう。
アリスとホームズがグラディスの部屋に着くと、ヤード卿がすでにグラディスの尋問を始めようとしていた。
アリスが入ってきて自分のほうに(というかグラディスのほうに)向かってきたので、ヤード卿は慌てて反対側の壁のほうに逃げた。
「おはよう、ヤード卿。」アリスはそんなことはお構いなしでヤード卿に挨拶した。探偵モードに入っているのか、ちょっと挨拶の仕方がわざとらしい。「グラディスのことをよろしく頼んだよ。」
何キャラだよ。
「王女殿下もご機嫌麗しゅう。今日こそはこのメイドから真実を聞き出して見せますよ。」ヤード卿がアリスに挨拶を返すも、その時にはすでにアリスの意識はグラディスに移っていた。
「おはよう~、グラディス。」アリスはさっきまでのキャラづけはどこへ、グラディスに甘えた声であいさつした。
「おはようございます。王女殿下。」グラディスが微笑んだ。「お御髪が跳ねてらっしゃいますわ。」
そう言って、グラディスはアリスのやわらかな寝ぐせにそっと手を伸ばした。
その瞬間、久々のアリスのヘッドバッドが炸裂。
バチンという音と火花が散ってグラディスが頭を押さえてうずくまる。
今はもう知ってる。
なんで、君がそういうことするのか。
たしかに、ヤード卿がグラディスを見る目が、容疑者を見る目から被害者を見る目に変わった。
でもさ、ここまで本気で頭つく必要なくない??そろそろほかの方法見つけようよ。
「じゃあ、行ってくるわね!」アリスは自分も痛い頭をさすりながらホームズを連れて部屋を後にした。
去り際のアリスの視界にグラディスに心配そうに駆け寄るヤード卿の姿が見えた。
アリスたちの今日の情報収集は再びマハルの部屋からだった。
アリスが振り返ってくれないので誰かにつけられているのかは解らない。そんな気配も全く感じることができない。
今日は、マハルのポケットから見つかったカギをつかって密室を作る方法を調べるようだ。カギはヤード卿があっさり貸してくれた。
二人はマハルの部屋の入るとカギを調べ始めた。
「どうやってここのカギを締めたのかしらね。」
アリスが、マハルの持っていたカギを使ってガチャガチャと扉の鍵を開け閉めする。
グラディスの部屋の扉のカギは表からも裏からもカギ穴となっており、外からも、中からも同じ鍵で回せるようになっていた。
アリスがはいつくばって扉の下をのぞき込んだ。
この世界の扉はゴムのパッキンがついているわけではないので隙間が多い。
昔の海外映画で扉の下から手紙がのぞいているなんてシーンがあるが、そんな感じで扉の下には隙間がある。こと、メイドの居室の戸はやっつけで扉をつけているのかアリスの部屋なんかと比べると結構な隙間が開いている。だからこそゴリーズが暗躍しやすいのだ。
アリスは扉の隙間から、カギを部屋の外に送り出そうと試みていた。
「ここからなら、カギが通るわ。」アリスが、扉と床の隙間の一部にカギが通るスペースを見つけてホームズに報告した。
「しかし、アリス様。カギは殺されたメイドさんのポケットに入っていたのですよ。」
「なんか、トリックがあったはずよ。」アリスが立ち上がって再びカギをガチャガチャする。「例えば、糸かなんかを使って、マハルのポケットを通過させて・・・。」
アリスが自分の考えた密室のトリックを語りだした。
推理小説のモブキャラの尺つなぎの推理っぽい。
犯人がそんなめんどくさいことわざわざせんでしょ。
アリスがこの密室の謎の答えにたどり着くのはまだまだ先そうだ。
答えは、前世の推理小説とかでは結構ありがちな密室トリックなんだけどね。
と言いつつ、自分も今朝、正解に気が付いたばかりだけど。
「どうですかねー。」ホームズはアリスの動きには興味なさそうに、床の血の跡やとびらのあたりの様子を観察しているようだった。
これは、ホームズも自分と同様、密室の謎はだいたい解明している思われる。
ただ、いくらホームズでも、どうやって密室にしたかは判っても、何故密室にしたかまでは判らないだろう。
「なんか、腹立つわね。」ホームズがあからさまに自分の推理を聞き流したのでアリスがムッとした。
「いえ、その、申し訳ありません。」ホームズが素直に謝った。
「別にいいけど。」アリスがツンとそっぽを向いて再び扉のほうを向いた。「じゃあ、こういうのはどう?狙われていたのはマハルじゃなくてグラディス。」
お、朝のやつ、効いてたかな。
「ほう。」ホームズは今度は興味ありそうな声をあげた。「どうしてそう思いました。」
「なによ、気づいてたの?」アリスはホームズの口ぶりにそこまで驚きが無かったのに気づいて拗ね気味に言った。
「いえ、正直、可能性は考えていたというくらいです。」ホームズは答えた。「アリス様はどうしてそう思われたのですか。」
「グラディスの部屋で死んでたんだから、ホントはグラディスが狙われてたんじゃないかと思ったの。同じメイドの格好だったから、代わりにマハルが殺されちゃったけど。」アリスは言った。「だって、マハルには殺される理由が無いのよ。」
「マハルさんには殺される理由がないですか。」
「マハルの事全部知ってるわけじゃないのよ?メイド同士でいざこざはあったのかもしれないけど、なんて言うか、だったらもっと喧嘩みたいになって死んじゃうはずだと思うのよ。でも、ここ、そんな感じじゃないじゃない?」アリスが部屋を見渡した。
「グラディスさんのほうには殺される心当たりがあるんですか?」
「グラディス自身にはないのよ。でも、ほら、私の暗殺未遂があったでしょ。そこらへんの陰謀に巻き込まれたんじゃないかしら。マハルにもグラディスにもそれくらいしか人殺しに発展するような事が思いつかないのよ。」
「なるほど、他にこんなことになるような理由が思いつきませんか。」ホームズはアリスから聴取しているかのように尋ねた。
「だって、グラディスの話だと犯行の時間に誰か外部の人がうろついてたんでしょ?なら、それが普通に考えて犯人じゃない。でも、ただのメイドを殺しに外部の人が出てくるってちょっと考えづらいのよ。」
「お二人をご存知のアリス様がそうお思うのでしたら、おそらく正しいのでしょう。」ホームズが素直に頷いた。「ヤード卿も同じ考えのようですし。」
「ヤード卿はグラディスの事、犯人だと思ってるじゃない。」
「でも、彼がグラディスさんが犯人だと思っている理由は、先の暗殺未遂があったことが大きいですよね?」ホームズが言った。「普通なら、メイドさん同士のいさかいで話を進めても良いのに。」
うーん?何か違和感。
ヤード卿がこの話してた時も感じたんだよなぁ。
「なるほど。たしかに彼、そこにこだわってたわよね。グラディスがみんなに邪険にされてた事のほうが動機としては簡単そうなのに。」
それだ。
「ヤード卿はその事、まだ知らないんじゃないですか?」ホームズが答えた。
そうだよ。
なんで知ってるんだよ。
やっと解った。違和感の正体。
ヤード卿はグラディスが虐められてたことを知らない。
じゃあ、なんで、ホームズはグラディスが虐められてたことを知ってるんだ?
メイド長とのやり取りや、その前の感じから察するに、彼はグラディスが襲われたことも知ってそうだ。その話は赤黒メイドの話にすら出てきた事がないというのに。
こいつ何なんだ?
一部、やってはいけないミスをしていたのを修正いたしました。
教えてくださった方、本当にありがとうございます。
本当にお恥ずかしい・・・・。




