3-6 a さいきんのミステリ
朝、寝ぼけ眼のアリスが起きる。
アリスが寝坊してグラディスのほうが先に来てしまう時以外、自分はアリスと一緒に目を覚ますことにしている。グラディスかアリスが鳥かごのカーテンを取るまでネオアトランティスは眠っているからだ。
もちろん、いっしょに目を覚ますと言っても、細菌は眠る必要がないので(たぶん)アリスが目覚めるころにアリスにリンクしているというだけだ。
ベルマリア公は早起きではないようなので、今日もアリスにリンクして一日を始める。
グラディスは今日はまだこれないだろう。
アリスはよっぽど疲れていない限りは、だいたいこの時間帯になると目を覚ます。
ほれほれ、朝ですよー。
な?アリスが起きた。
寝ぼけた様子のアリスはいつものように鏡台に歯磨きに向かった。
最初の時を思い出す。最初にアリスの中で目覚めた時もこんな感じだった。あの時は自分が美少女になったと勘違いしたものだ。
前にも言ったかもしれないが、この時間はアリス視点でアリスを見れる少ないチャンスなので結構好きだ。髪を切ってから寝ぐせが付きやすくなったのだが、グラディスが来れないので、今日は髪を梳いてくれる人がいない。案の定、右の髪の毛がくるりと跳ねている。輝くような金髪がふんわりと跳ねていると、撫でつけて綺麗にしてやりたくなる。
アリスも寝ぐせに気づいたのか髪の毛を撫でつけるが、癖が強くついてしまってぴょこんと髪の毛が戻ってしまう。寝ぼけ眼のアリスは二回だけ撫でつけて満足してしまったのか、寝ぐせの治らないまま手を下ろした。
それに合わせてネグリジェのひもが肩から垂れた。アリスの白い肌が露わになる。
ロリッ気は無いつもりだが、生前男だったもので(細菌に性別があれば今も男のつもりなので)、こういうのはどうしてもドキッとはしてしまう。
恥ずかしいから隠そうな、アリス。
アリスが恥じらうように、もう少しで見えそうな胸元を手首で隠し、そこから指を伸ばして肩ひもを肩まで上げた。
・・・・・・。
あー。
これ、ひょっとして。
ネグリジェを整えたアリスは、いつもの流れで鏡台に置かれていた歯ブラシに手を伸ばした。
アリス、ほっぺに歯磨き粉ついてるぞ?
アリスが歯ブラシを取った帰りの手の甲でほっぺたをごしごしする。
可愛い。
じゃなかった。
歯磨き粉なんてついていない。そもそも、この世界に歯磨き粉なんてない!
アリスの今朝の行動は、ほぼほぼ自分の思った通りに動いていた。歯磨き粉なんてついていないのにほほを拭った。それに、肩ひもが垂れたくらいで恥じらうような動きをアリスはしたりしない。
これ、寝ぼけてるアリスなら少し操れるのか!?
最近、アリスが歯磨きで次はどこを磨くかを予想して楽しんでいたが、やけに当たってるような気がしてたのはそのせいか。
【操作】もあるし、寝ぼけているならば人間でも結構操れるのかもしれない。アリス以外でもそうなのだろうか。もしそうだとしたら、いろいろとできることが増えるはずだ。
ホームズ(仮)やヤード卿に感染しときたかったなぁ。今の事件に関して言えば、彼らを操れるならいろいろ役に立ちそうなことこの上ない。
というより、【操作】と似たような感じであれば、「操れる」というよりは「考えを植え付けられる」といったほうが良いかもしれない。
そうだとしても充分。
もし、彼らに感染できていれば、2時間サスペンスドラマの1時間20分くらいで出てくるヒントをホームズたちに植え付けることができるんじゃないかと思う。
てか、ヒント植え付けるだけなら、アリスでも構わないか。
『狙われていたのはマハルじゃなくてグラディス。』と、必死に念じる。
アリスが歯磨きをする手を一瞬止めた。そして、再び歯を磨き始めた。
ダメだったか・・・・・な???
どっちだろう??
朝の支度を整え、右の髪が跳ねたままのアリスは、食事を運んできたメイド長に授業の断りをオリヴァに入れるよう伝えると、運ばれてきたパンとフルーツを紅茶で行儀悪く流し込んだ。
そして、アリスがそうやってさっさと朝食を済ますのが解っていたかのように、アリスが朝食を平らげた瞬間、ホームズがアリスの部屋にやって来た。
食事前に支度を整えていたアリスは待ってましたとばかりにホームズを従えて部屋を後にした。どっちがお供か解らないが、完全なツーマンセル。ホームズと探偵局でも組んでいるかのようだ。
もし、ホームズがアリスの見張りをやすくするこを考えて今回の推理を披露していたのだとしたら、完全にうまくいってると言える。さすがに、そんなことまで考えてたとしたらスペック高すぎだけど。
アリスは昨晩考えた推理をホームズに披露し、ホームズは頷きながら聞いていた。
探偵コンビの相方として、ホームズは悪くない。
だが、護衛の兵士として見たときはどうだろうか。オリヴァも言っていたように、彼一人では心もとない。
なぜなら、今、アリスをこの国の英雄とされる男が狙っているかもしれないのだ。
しかし、二人も自分も彼の気配を感じることすらできていないのだ。




