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3-5 b さいきんのミステリ

 さて、夜は深まる。

 赤黒メイドが久しぶりに洗い場に仕事に来ていた。というか、話に来ていた。今回は特に、仕事よりも話のほうがメインの様だ。ゴリ1さんから様子をうかがう。石垣の隙間って便利。

 「ねえ、マハル殺されたって。」黒メイドのほうが言った。

 「聞いた聞いた。マジビビったんだけど。」赤が食い気味に答えた。「グラディスが犯人って噂じゃん?」

 「そうそう、意外よね。あの臆病者が。」

 「現場がグラディスの部屋だっていうから、マハルのほうがなんかしようとして返り討ちなんじゃない?」

 「うーん、そうかなあ。」黒が何かを考えながらつぶやく。

 「なによ、なんかちょっと含みありそうだけど。あんたマハルとそんなに仲良かったっけ?」赤がしれっと言った。てか、お前も何回かマハルとここで話してたじゃん。

 「いえね、なんか、アルト卿が王女の病気が治ったって宣言したじゃない?そもそも王女死ぬ予定だったじゃん。それが、治っちゃったもんだから、エラスティアとベルマリアが動き出したんだって。だから、マハルが殺されたのって、実はエラスティア公かベルマリア公のせいじゃないかなーなんて。」

 「たしかに、まさかあの筋肉が王女治すなんて思わないわよねぇ。でも、それで、なんでマハルが殺されるのよ。」

 「聞いてよ、聞いてよ。あたしの名推理。」黒メイドが待ってましたとばかりに興奮してしゃべりだした。「マハルって一応エラスティアの貴族って言ってたじゃん。あいつ実は王女殺すためのエラスティアに雇われた刺客だったんじゃないかな?」

 おおっと、トンデモ推理来ました。

 「えー?マハルが暗殺者って無理がない?」

 「別にプロじゃなくてもさ、王女に近づいて殺してこいみたいな?なんか、マハルなら引き受けてもおかしくなさそうじゃない?家柄をダシにされたら簡単に引き受けそう。だいたい、自分からあの王女のメイドになりたいとか普通じゃありえないじゃん。」

 「それならまあ解るかも。」赤が頷いた。「そういや、ちょっと前に『私はあんたたちと違うんですけどぉ』みたいなこと言ってたわね。」

 「で、結局、殺せないまま、グラディスが戻ってきちゃって、マハルは首になったじゃない?」

 「うん。それで?」

 「で、粛清よ。王女を殺せなくなったら、エラスティアにとっちゃ邪魔なだけじゃない?だから、口封じ。」

 エラスティアってアミール派だよな。

 「無くはなさそう。」

 「証拠もあるのよ?」

 なんですと!?

 「マジで?」

 「そう。」黒メイドが得意そうに続ける。「王女、この間脱走したじゃない?」

 「うん。」

 ふむ。

 「あれ、マハルから逃げるためだったんじゃないかな。王女殺そうとして、逆に王女に返り討ちに会って縛られたんじゃないかな?王女強いじゃん。」

 なんだ、全然見当違いの推理だった。

 「なんでそれで、王女が城の外まで逃げるのよ?マハル縛ったんなら誰か呼ぶんじゃない?」

 「エラスティア公もベルマリア公も敵よ?城の誰に助けを求めるのよ。」

 「たしかに。」

 「だから、マハルはいきなり首になった。」

 いや、すまきの後も円形脱毛症になりながら必死で働いてたからね。

 真実を知らない黒メイドはさらに続けた。「その後、グラディスが戻ったでしょ?そのグラディスもベルマリアの間者なんじゃないかって思うのよ。」

 「それもぶっ飛んでるわね。」

 「なんか、グラディスにベルマリア派の人間が接触しようとしてるらしいの。ベルマリアの貴族がグラディスの部屋の近くをうろついてたって話。」

 「それ私も知ってる。ベルマリア公自身も来てたって噂もあるくらいよ。でも、サミュエル様の件でグラディスを懐柔したいってうわさだったわよ?」

 「でも、もしグラディスがベルマリアの間者だったとしたら、今度はベルマリアが自分の息のかかった人間を王女に付けたって見方もできるじゃない?」黒が得意そうに続ける。「サミュエル様の事件でジュリアス様の立場が危ういから、今度は逆に王女の暗殺をエラスティアが企んでいた事を明るみに出して、マウントを取りたかった。で、グラディスにマハルとエラスティアが王女を暗殺しようとしていた証拠を探してくるように持ち掛けたわけよ。」

 「なるほど、それでグラディスがマハルを殺したと?」

 「違うわよ、馬鹿ねえ。さっきエラスティアの口封じって言ったじゃない。グラディスがマハルの背後の何かをつかむ前に、誰かがマハルを口封じで殺したのよ。だから、グラディスの部屋で殺したの。グラディスに容疑が及ぶように。」

 うーん、無さそう。いろいろ無理がありすぎ。

 「ありそう!ありそう!」赤メイドは自分とは別の感想の様だ。「いいじゃない。」

 「でね、私たぶんマハル殺した犯人知ってるの。」

 !?

 「誰よ、誰よ!」

 「焔の英雄ヘラクレス。」

 な!?

 「赤ちゃんだったアミール様を盗賊の襲撃から救った英雄じゃない!他の護衛がみんなやられちゃったのに、一人でアミール様を守り切ったっていう。しかも、最後は剣が折れても松明をつかって9人も倒したっていう伝説の人?」赤メイドよ、説明ありがとう。

 「そう。」黒が頷いた。「そのヘラクレスが、マハルが王女付きになった頃から、王女の周辺をずっとうろついてたみないなの。きっとマハルの監視役ね。」

 なんですと!?

 「兵士たちの間でも、焔の英雄が王女とジュリアス様の権力闘争に巻き込まれたってもっぱらの噂よ。」黒が言った。こないだちょっと聞いた情報ととかぶるな。

 「わたし昨日見た。」と赤メイド。目を真ん丸に開いて黒メイドを見た。「王女の後を誰かつけてた。」

 「私も見たわ。」黒メイドが赤メイドに同意した。「それがヘラクレスよ。」

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