Ex 物語の終わりの後
この長きに渡る二人の物語に最後までお付き合いいただいた皆様へ、
多大なる感謝と共にこの章を捧げます。
ミミ公
締め付けられるような痛み。
もはや水一滴も体内には残っていないほど吐いたのに、それでも体が呼吸より吐しゃを選びつづけた結果の度を越えた酸欠。
間もなくこの二つが自分の意識を奪うだろう。
まただ。
苦しくて辛い。
ものすごく遠くにある昔。
それとも、ものすごく遠くにある未来。
自分の時間としては少しだけ昔。
似たようなことを経験した記憶がある。
それは、自分がまだ人間だったころの話だ。
あれからいろいろあった。
アリス。
自分は彼女の人生を散々ひっかきまわした。
もういい。
もう、十分だ。
また上手くできなかったんだ。
何一つ報われなかったし、報いてあげることもできなかった。
それでも嬉しかった。
アリスはそんな人生でも幸せだと言ってくれた。
たった一つ、
あのたった一言の会話だけでいい。
アリスが言った、
自分が受け取った、
あの『ありがとう』だけで充分だ。
もう、多くは望まない。
あれが二回の人生のすべてでいい。
これ以上考えたくない。
少し休ませて欲しい。
突如、苦しみから解放され光が見えた。
肺の中の水を吐き出すと、新鮮な空気から酸素が体中に流れ込んでくる。
また、生まれてしまったらしい。
今度は何に生まれ変わったのだろうか?
人か、動物か、それとも、また細菌なのだろうか?
荒い石造りの屋根が見えた。
日本では無い。
前回の世界の雰囲気と似ている。
自分の身体が軽々と抱えあげられて、そして、誰かに手渡されたことが分かった。
見知らぬ女性が自分のことを優しく抱き上げながら顔を覗き込んできた。
額には大粒の汗が光っている。
「初めまして。お母さんよ。ああ、かわいい私の赤ちゃん、タイル家にようこそ。」
女性は自分を抱きかかえて優しく微笑んだ。
そして、彼女はとんでもないことを口にした。
「あなたの名前はアルトよ。」
ウソでしょ!?




