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2-9 b さいきんの冒険もの(とスポーツもの)

 ケンの上からどいたアリスがスポーツマン然としてケンを起こそうと彼に手を差し伸べ、一方のケンも顔を真っ赤ににしてアリスの手を取った。

 そんなスポコン的青春シーンのタイミングでアリスに声がかけられた。

「ねえちゃん!!」スタン(タツ)だった。

 タツは、ゲームの観客だった少年の一人に呼ばれてやって来たらしい。

 そういえば、アリスが攻めのターンの7本目くらいの時に、一人の少年がギャラリーから抜けて走っていった。おそらく彼が助を求めに走ってくれたのだろう。

 確かにあのあたりが一番危なかった。ケンが。

 慌てて駆けつけてきてアリスに心配そうな声をかけたタツだったが、状況を確認してもう一度戸惑いながらアリスに声をかけた。

「ねえちゃん??」

「スタン!」アリスが嬉しそうに声を上げた。

「う、うん?」タツが困惑した声で返事を返した。目がケンとアリスを交互に追っている。

 たぶん、彼的には、アリスとケンが揉めていると聞いて、”アリスを”助けるために駆けつけてきたのだろう。「ケンがやばい!女の子と喧嘩している。止めてくれ!」とか言われたのかもしれない。

 そして勢い込んでやって来てみれば、ところどころ怪我をしたアリスと、それよりもはるかにボロボロの見る影もないケンの姿だった。しかも、アリスが倒れているケンに手を伸ばしているのだから混乱するのも無理はない。

「ど、どうしたの?」タツはアリスに訊ねた。

「そうそう!」アリスが思い出したかのように声を上げ、そして答えた。「クロ、クロがね。お城のほうで迷子になってたの。だから連れてきたのよ。」

 アリスはそう言うと辺りを見渡し、瓦礫の上で眠っていたクロを抱きかかえてタツのもとに連れてきた。

 タツは何かを言おうとしたものも、困ったように「お、おう・・・。」とだけ返事をした。

 タツは、クロは自分で帰れるとか、別に自分が飼っているわけではないとか、そもそも聞きたかったのはそれじゃない、とかいろいろ言いたかっただろうが、どれもが一度に頭に押しかけてきたせいで言葉がついてこない様子だ。

「まじで、タツの知り合いかよ。」ケンが鼻に詰めていた布を痛そうに交換しながら言った。「すげーな、この女。誰だよ。」

「うん、、、王女様。」タツが端的に答えた。

「?ん??」ケンが怪訝そうな顔をする。冗談にしてはタツが笑いを求めている顔をしていない。

 ケンが思い出したようにアリスの恰好を確認した。

 汚れてしまって、ところどころ血がついているものの、とても綺麗で高価そうな服装だ。そして再びアリスの端整な顔を見た。

 ケン以外の少年たちも笑っていいものか困っているようだ。

 アリスは茶目っ気たっぷりにウィンクした。

「だから、王女なんだって。」タツがもう一度言った。

「マジか??マジなのか?」ケンはいまだ半信半疑の様子で、首が千切れそうなくらい左右に振りながらアリスとタツを何度も交互に見た。

 アリスが今度は得意そうに顎をあげて、親指で自分を指さす。

 そういえば、学校に行くから王女であることを隠せって言われた時にやけに素直だと思っていたが、アリスは意外とこういうの嫌いじゃないらしい。

「ほんとかよ・・・」少年たちがざわつく。

 このざわめきはどちらかというと、感嘆というより畏怖だ。今まで、無礼を働いてしまって処罰を喰らうのではないだろうか?そんなところだろう。

「ケン、王女様のこと蹴った・・・。」ボールボーイのちびっこがケンに向かって言った。

「!?ち、あれは、あれはちげぇよ?ゲームなんだからしょうがないだろ!だよな?じゃなかった。えぇぇ・・・、えーと、で、ございますですよね、王女閣下。」ケンは背中を叩かれたかのようにびくりとして、よく分からない敬語で言い訳をした。

 心配するな、見りゃわかる。君のほうが被害者だ。

「あたりまえよ。ただのゲームなんだから、気にすることないわ。それに、今は私、王女じゃなくてリデルってことになってるから大丈夫。」

 そういう問題じゃないと思う。

「それより、続きやりましょうよ。」アリスは続けた。

 どうやらこのバスケが気に入ったらしい。

「勘弁してくれ!!」ケンが慌てて首と両手を振った。「冗談じゃない!」

「えー。」アリスがつまらなそうに眉をひそめる。そして今度はタツに声をかけた。「じゃあ、スタン、相手してよ。」

「やだよ!!」タツはアリスでなく、腫れあがって血まみれのケンの顔面を見て答えた。

「ちぇ。」アリスが誰か相手してくれる人間がいないかと周りを見渡すが、皆、あわてて目をそらす。

 そんな中、例のボールボーイのちびっこだけが訳も判らずアリスを見ていて、アリスと目が合ってニッコリ微笑んだ。

「ねえ、君・・・」アリスがにっこり微笑んで口を開いた。

「おま、ダメっ!絶対ダメ!!」ケンが慌ててちびっこをかばうように抱きついてアリスから守った。

「何でよ?」アリスがほっぺたを膨らましてむくれる。

「お前、絶対泣かすからダメ。」

「むー、つまんない。」アリスが拗ねた声をあげた。

「だいたい、タツとも会えたんだし、これ以上続ける必要ないだろ。」

 その通りだ。

 その通りだけど、だいぶ前から続ける必要なかったよ?

 アリスはつまらなそうに下唇を突き出すと、もう少し周りを見渡して自分とバスケの続きをしてくれる人間を探した結果、全員から目線をそらされたため、仕方なくあきらめた。

「まあ、いいわ。クロも届けたし、もう帰る。」アリスが言った。「スタン、城のほうまで案内してよ。今は私が迷子なのよ。」

 そうなの!?

 アリスの案内をタツが快諾したので、アリスは少年たちと別れた。

 アリスが振り返って大きく手を振ると、傾き始めた日に照らされた少年たちのシルエットも手を振り返す。

 ステキな光景だが、ケンの顔はボコボコだ。

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