13-2a さいきんこの世界から去ることになりました。
アリスはアミールを正面から見据えて命じた。
「私を処刑しなさいっ!」
「おまっ、そんな元気になにを言うかっ!」
「だって、しんみり言ったらみんな絶対反対するじゃん。」
「言い方の問題じゃない!」
「君は自分が何を言ってるか理解しているのか?」
「そうです。意味わかってるんですかっ?」
「さすがにそれは私も反対します。どんな手段を以てしても止めますよ。」
「お前の発言史上、最も呆れたぞ!」
「んなこと言ったって。」
・・・・。
「前にもこの手の話はしたはずだ!」
「君が命を張ってすべきはそういうことじゃない。」
「もっと他のやり方があるはずじゃ!」
「ちょっと、聞きなさいよ。このまま私が王を続けたって・・・
「いいや聞かない!」
「どういう理由があろうと許しませぬぞっ!」
「あいつら、生活が改善すれば今回のことなんかそのうち忘れる!国民の替えはいくらでもいるがお前は我々にとって一人だ。」
「それ国民を蔑ろにしているわよ?」
「それの何が悪い!」
「国民だ王だの問題じゃない!君の生き死にの問題だ!」
・・・・。
「私にとってこれは王足りえるかの問題なのよ。」
「だから何だ!そんなもん犬に食わせてしまえ!」
「私は王よ。この国に対する義務がある。」
「お前が命を張らねばならんほどの義務なんてこの国にはない。」
「はぁ?なに言ってんの?」
「陛下は十二分に良くやっています。」
「そうだ。君は充分に王足りえる存在だ。」
「ありがとう。でも、私は民との対話を怠ったわ。」
「そんなのあの状況で他にどうやりようがありましたか?」
「それを見つけてこその王なのよ。」
・・・・。
「私は違えた。もう私にはそこまでして貰う価値はない。私は償わないといけない。国民を幸せにできる事の役に立つのならこの命を以てしても・・・
「価値とか国民とかどうでも良い!お前が死ねば私が悲しい!」
「そうだ!残された側の気持ちになれ!君の父も僕らに何かを残すため自ら犠牲になった。でも、残された君はうれしかったのか?」
「たった一度の間違えなんかで、王の良し悪しが決まってたりますか!」
「間違えた事柄が悪い。もう、私に王としての資格は無い。」
「完璧主義もほどほどにしろ!!」
「承知しました。陛下の提案については重々理解いたしました。」
「エラスティア公!?」
「何を言うか!!許さんぞ!!貴様の姉だろう!」
「姉弟そろって何をバカなことを言っている!僕もそんなことは絶対に許さないぞ。」
「アミール様。陛下の妄言を真に受けてはなりません。」
「断固反対じゃ!陛下を処刑するとあらば私は国を割ってでも陛下の命を助けますぞ!」
「ちょっと、アキア公!?」
「私もだ!」
・・・・。
「皆様落ち着いて。処刑なんてしませんよ。」
「「「なに??」」」
「陛下の代わりに王になるということを承諾するだけです。陛下はそうですね。例えば追放なんてどうですかね。」
「「「・・・・・。」」」
「ちょっと民への説得力に欠けますかね。処刑を決定した後、逃げてしまったとかのほうが良いですかね。」
「エラスティア公は陛下に王を続けて欲しくないのですか?」
「もしや、自分が王位を欲しているとかではないですよね?」
「まさか。私だって姉様には、失礼、陛下には王であり続けて欲しいです。」
「・・・理解した。アミール公に賛同する。」
「ミンドート公!?」
「譲歩してここだ。お前がどうしても命を捨てると言い張るならば我々は一切協力せん。」
「私も陛下が死ぬというのなら意地でも王位は継ぎません。」
「僕もだ。君がくだらない贖罪なんかにこだわるのなら、そのような罪を与えたこの国には今後一切協力しない。」
「私も陛下が死んだら暇を貰いますかね。」
「そんな無責任な・・・。」
「何とでも言ってください。私の知った事ではありません。」
「無為な死に協力する事は絶対にしません。」
「・・・。分った・・・。ごめん、アミール。この後は任せることになっちゃう。」
「大丈夫です。私は陛下ほど真面目じゃありませんから。」
・・・・。
・・・はっ!
気絶してた!
処刑!?
お前、何言ってんの!?
こんな事で命を投げ出すようなことをするなよ!
国なんて誰かが何とかしてくれる。
国民なんて名前のない集団が幸せな世界より、君が生きている世界ほうがずっと素晴らしいんだ。
だって、自分は、みんなだって、君が死んだら悲しいから。
君には未来がある。
命を捨てて皆を悲しませるなんてダメだ。
君の今まで積み上げて来たものを大切にしてくれ。
それは自分には到底手に入れることのできない、とても素敵な物なんだ。
本当に、本当に、
当たり前にあるはずのものなのに、
無くなってみれば、それはとても尊くて、美しくて、儚くて・・・
本当は、ずっとあこがれて、どうしても、取り戻したくて・・・。
だから、君は、
もっと、たくさん笑って
もっと、たくさん暴れて
もっと、たくさんみんなを笑顔にして
みんなと幸せに生きなくちゃいけない。
自分の代わりに、いっぱい、『ありがとう』って言ってもらって欲しい。
だから、だから・・・
お願いだ。
死ぬなんて言わないでくれ!
でないと、自分は、
自分は何のために・・・
「どこに身を隠してもらうのが安全ですかね?いっそ国外とかですかね?」
「アキアあたりなら匿えましょう。」
ん?
「ワルキアのカラパス卿に手配させて、ミンドートまで来ればいかようにもできるはずだ。」と、ミンドート公
「まあ、そんな心配することもないでしょう。陛下強いし。」と、ケネス。
「ヘラクレスをつけます。」アミールが提案する。
「アキアまで行ってしまえば誰も追ってはこんじゃろうて。」アキアが言った。「隠遁先は任せてくれてよい。」
あれ?
処刑は?
「とりあえず、早めに処刑の噂を流して過激派を黙らせとくのが良いだろう。」
「過激派の市民さえうまく抑えてれば、アキアまで逃がすこと自体はできそうですね。」ミンドート公の提案にジュリアスが頷いた。
「陛下なら自力で逃げ出したって言っても、説得力ありますものね。」と、ケネス。
「それで良いな?」ミンドート公が有無を言わさぬ感じでアリスに言った。
「・・・うん。」アリスが小さく頷いた。
何だよ、ビックリした。
偽装かいな。
アリスのことだから、てっきり本当に処刑されるつもりなのかと思ったよ。
「ちょ、ちょっと待ってください!なに皆、素直に陛下が退位することを容認してるんですか!」モブートが立ち上がって反論した。「アリス陛下が居なくなっては困ります。陛下のおかげでこの国がどれだけ良くなったか。」
そ、そうだよ!
処刑じゃなかったことに安心しててどうする。
国王になるため、そう有らんとするためにアリスが今までどれだけ頑張ってきたと思ってるんだよ。
それなのに、こんな簡単に王位を失ってどうする。
みんな、頼む!思いとどまらせてくれ。
「大丈夫、大丈夫。アミールが上手くやるって。」いの一番にアリスが言った。
軽いよ・・・。
「陛下、ちょっとは私の事も思いやってはもらえないでしょうか。」アミールが珍しく眉をひそめて姉に文句を言った。
「正直、アリスが居なくなるのはこの国にとって不利益なのは間違いない。それに僕も寂しい。」ジュリアスもモブート公の発言を後押しするかのように言った。「考え直しては貰えないだろうか?」
「ごめん。」
「そうか・・・。」ジュリアスは残念そうに呟いた。
諦め早えぇよっ!
「ベルマリア公!いくら何でも諦めが早すぎますって!」
そうだ、頼むぞモブート公!
「大丈夫ですよ。王様じゃなくたって、国を良くしていくことはできます。」と、アミール。
くそう。アミールはアリス個人への味方のようだ。
「陛下は王様向いてませんでしたからね。」と、ケネスもアミールを後押しするようなことを言いだした。「たとえば商人として経済を回してもらったりしたてくれたほうがこの国にとって良いのかもしれません。」
「なるほど。」アリスが納得する。
なるほど、じゃなくてさ。
アリス。君、今まで、どんだけ頑張ってきたのさ。それを失うんだぞ?
「ペストリー伯と組んでアキアのためになにかできないものですかな。」アキア公が早くも未来のアリス商人に思いをはせ始めた。
「ケネス卿やアキア公までなに世迷言を言ってるんですか!」モブート公はみんなの様子に大慌てだ。「ちょっと、ミンドート公。止めてください。」
「無理強いしてやるな。こいつはよく頑張ってくれた。こいつは先が良く見えている。この後、国民がついてこないということも、こいつの言う通りなのだろう。」
ああ、ミンドート公まで!
何言ってんの?
アリス無しでこの国どうするのさ!
アリスが居なくなってみんな寂しくないの?
なんで、そんな可哀そうなことを言えるんだよ!
「しかし・・・。」モブート公一人がなおも食い下がる。
頼む。モブート公。
あなたが最後の砦だ。
だが、そんなモブート公の反論をアリスが制した。
「ごめん。モブート公。ありがとう。」アリスはモブート公に頭を下げた。
そして、最後にこう続けた。
「でも、私がもう自分が王であることを許せない。」
・・・。
・・・そっか。
あんなに頑張ったのに。
あんなに苦しんだのに。
あんなに素敵な王様だったのに。
悔しいな。
何も残してあげられなかった。
ごめん。




