12-9a 異世界転生したのでパンデミックしてみようと思います
ネズミの中には“彼“がそこかしこに漂い、そして、今まで感じたことの無い密度の禍々しさが渦巻いていた。
たどり着いた!
この個体が“彼“の本体のありかだ。
このチャンスは離さない!!
そう理解した瞬間、瘴気が増した。
おどろおどろしい威圧感がネズミの体内を埋め尽くす。
“彼“が帰ってきたのだ。
宿主が噛みつかれたのが分かったのだろう。
一瞬の猶予もない。
すぐに増殖して数を増やす。
“彼“の意識はこっちを向いていない。多分、何が“彼“の宿主に起こったのかを理解しようとしているのだろう。
今、動かれるといろいろ面倒だ。
引き付けて時間を稼がないといけない。
《おかえり。》
こっちから声をかける。
〈まじかよ・・・。〉“彼“が呻いた。
この驚きよう、間違いない。
ここが“彼“の本体の宿主だ。
《久しぶりだね。》
何の気はない振りをして挨拶をする。
ともかく時間を稼ぎたい。
“彼“にもこのネズミの白血球にもやられるわけにはいかない。
今、この個体には6500の自分たちがいる。
えっ!?
6500!?
多くね?
【パンデミック】のおかげか?
これなら、白血球のほうは問題ない。
だが、“彼“が本気で自分たちのことを駆逐しようとしたならば、間に合わないかもしれない。
〈まさか、ここにたどり着くとは。〉“彼“は苛立たし気に言った。〈目ざわりなくらい増殖するからね。君は。〉
《そうだろ?数では負けない。》
〈でも点数は僕の圧勝だ。これからも増える。それに僕のほうが強い。君じゃあ止められない。〉
《君はここで負けるよ。》
〈ふっ。〉“彼“は思わず噴き出した。〈僕を見つけたからって調子に乗ってるねぇ。身の丈に合わない強がりは見苦しいよ?〉
《試してみるかい?》
〈いいね。やろうか。ここは僕のホームだしね。〉
よし、挑発に乗った。
ゆっくりと6500の細胞を散開させる。
これは相手に襲い掛かる布陣を敷いているわけじゃない。
ただ、広域に散開させているだけだ。
“彼“があの範囲攻撃でまとめて自分たちを駆逐できないようにしているのだ。
合わせるように“彼“も細胞を展開させる。
上下左右に展開していく“彼“の細胞たちの遥か向こう側に大きな存在感を感じる。多分、“彼“の存在の核がそこにあるのだろう。
〈くっくっく。〉“彼“は上機嫌に笑った。〈傲慢、不遜、思い上がっている相手に思い知らせるのって好きだよ。〉
《同感だね。》
〈君、時々イラっとするね。実力はわきまえようよ。〉“彼“は言った。〈そろそろおいで。胸を貸してあげる。ここは僕の本体だ。ここでは僕も存分に力を発揮できる。本当の力って物を君に教えてあげる。本物を知らないから君は強くなろうとすらしないんだ。〉
《そうかい。》
いつもより攻撃的な“彼“の言葉を受け流しながら、自分は細胞たちを体の隅々まで流すように散開させていく。
“彼“もそれを追いかけるようにゆっくりと細胞を展開させる。
ゆっくりと時が流れる。
こちらからは仕掛けない。
ついに業を煮やした“彼“が叫んだ。
〈おい。どういうつもりだ?〉
《どうって?》
〈どうして攻撃してこない?〉
《そっちこそ。別に君から攻撃してきたって良いんだよ?》
〈はあ?チャンスをくれてやってんだぞ?弱者が語るなよ。〉
再び“彼“の言葉に苛立ちが乗った。
《やっぱり。》
考えは正しかった。
〈何がやっぱりさ?〉
《君の弱点。》
端的に答えを返す。
今まで、饒舌だった“彼“は押し黙ってしまった。
しばしの沈黙。
やけになられても困るので、こちらから吹っ掛ける事にした。
今度は答えをぶつけてみる。
《君は攻撃できないんだ。》




