12-5b 異世界転生したのでパンデミックしてみようと思います
作戦の練り直しをしなくてはならない。
情報を整理していこう。
まず、
今の自分の攻撃じゃ“彼“は倒せない。
なので【解析】ができん。
絶望の事実だ。
ここに来て、スキルポイントを使う方向に迷いが生じてしまった。
さらに、
こっちがたった一個の“彼“にすら敵わないことが“彼“にバレてしまった。
アリスの中に“彼“の細胞が入って来たとしたら、“彼“は例の攻撃を連発して自分たちを一掃するに違いない。
もしかしたら連発はできないのかもしれないが、少なくとも2回ぶっぱなされた記憶がある。
今のところアリスに“彼“の侵入はないが、すでに一度は侵入を許しているわけで、いつまでも大丈夫というわけではない。
手詰まり感がすごい・・・。
だが、収穫もいくつかあった。
まずは、
ダメージは通る。
これはデカい。
本当にデカい。
こっちの貧相な攻撃でもダメージが通るのだ。
これが無かったら“彼“をやっつける手段は無かったかもしれない。
余らせているスキルポイントを自分の攻撃を強くするのに使うことも可能だ。
例えば【強化】だ。
このレベルを上げていけば間違いなく“彼“の回復量を上回るダメージを与える事ができるようにはなるはずだ。
次に、
自分にも“彼“の意識を見つけることができたということ。
この事自体はそれほど重要でもない。だが、“彼“の本体を見出せる可能性が大きく膨らんだ。
ついでに“彼“の意志が介在していなければ“彼“の細胞はかなり弱くなるということも分かった。
まあ、その細胞にすら負けるんだけどさ。
“彼“の本体さえ倒せば、この状況を収める事ができるかもしれない。
そもそもこの状況を収めるだけじゃダメなんだ。
“彼“を取り逃がせば“彼“は再び力を蓄えて必ず同じことをするだろう。
だから、絶対に“彼“の本体は倒す必要がある。
・・・うーん。どうやって?
もう一つ、
やはり“彼“は自分を避けていたということ。
最後のあのはしゃぎようから言って“彼“が自分を避けていたというのは本当だったに違いない。
つまり、“彼“は労力を割いて自分を避けていた。
“彼“が自分の【増殖】と【感染】力を恐れていたということに確信が持てた。
“彼“が恐れていたのは自分の『数』だったのだ。
まあ、杞憂だったとか言われちゃったけど。
にしても、何故、あれほどまでに強い“彼“がそこまで自分の数を恐れたのだろうか?
“彼“が本気を出していたら、ノワルの人間たちだって救う事はできなかったはずだ。
今のところはそこまで手が回っていないという事だろうか?
何か違和感があるんだよなぁ・・・。
ヘラクレスみたいな推理マニアが居てくれればいいのに。
あり得ないことを望んでもしょうがない。
試しに、ヘラクレスを真似てみよう。
ヘラクレスは普段どう考えていた?
この間のエラス候の反乱の時はとっても短絡的に答えを導いていた。
ジルドレイの時も「嘘をついている人間は少ないはず」みたいな考え方でジルドレイが門番だと言う事を割り出していた。
彼女に言わせれば、事実とはきちんと理解されていないだけで、とても単純なものだということなのだろうか。
シャーロックホームズも似たようなことをワトソンに言ってたような記憶がある。
試しにやってみようか。
単純で解りやすくて、一番理由の数の少ない考え方を選んでみればいい。
Q:何で“彼“は自分との共存を避けた?
A:姿を見られたくなかったから。
そうだよ。
恐れているからと言って、共存を避ける必要なんて別にないんだもの。
“彼“は見られたくなかったんだ。
Q:何故見られたくなかった?
A:何か見たらまずい事があるから。
Q:見られてはまずいこととは何?
A:・・・
だめだ。終わってしまった。
この先は想像つかん。
他の疑問点について考えてみようか。
この事態の始まった頃、“彼“の患者の中に残り少ない自分が残っていた事例があった。そして“彼“はその患者の中には居なかった。
Q:何で“彼“は残り少ない自分にとどめを刺さなかった?
A:とどめをさせなかったから。
Q:なぜ、とどめを刺せなかった?
A:“彼“のほうが弱かったから。
んなわけあるかい。
自分、“彼“が一つでも居たら勝てんのよ?
Q:なぜ、とどめを刺せなかった?
A:“彼“が弱っていたから。
あいつ、回復するじゃん。
Q:なぜ、とどめを刺せなかった?
A:とどめを刺そうにも“彼“が一つも居なかったから。
こっちのほうが自然な気がする。
Q:なぜ、“彼“は居なかった?
A:・・・最初っから居なかった。
違う。
患者は気絶した。
“彼“は居たはずだ。
何か特別なスキルや状況が・・・いや、複雑にしてどうする。
今は事実は単純であるという思考実験の最中だ。
もう一度。
一番簡単な答え。
Q:なぜ、“彼“は居なかったのか。
A:居なくなったから。
そうよ。だって、アリスの中からも消えたもん。
Q:では、なぜ“彼“は居なくなった?
ああ!そうか!!
解かった!
Q:見られてはまずいこととは何か?
そうか!!
今までもずっと、毎回そうだったんだ。
だから、“彼“は自分の事を恐れたんだ。
理解した。何故そんなにも“彼“が自分を恐れたのか。
これが“彼“の弱点だったからだ!
それならば!
それならば、まだチャンスがあるかもしれない!
今は自信を持って言える。
最初の作戦は間違っていなかった!
取るべきはあのスキルだ。
“彼“に勝てるかもしれない!




