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11-13c さいきんの国王ダイアリー

 自分はウェズリア平原の戦闘をアリスたちが食い止めたのを見届けてから、カストルたちの処理を行うことにした。

 

 カストルの読みは完璧だった。

 ウェズリア平原とエラスは馬を全力で使いつぶしても2日はかかる。

 カストルはエラスで略奪をできる時間は明後日までだと明言していた。

 彼はウェズリア平原ですぐに作戦が露見した場合、どのくらいの猶予があるかまで計画に練り込んで作戦を進めていたのだ。

 完全にアリスたち・・・というか橙薔薇公は手玉にとられていたわけだ。

 自分があの時あの場でたまたまトマヤとカストルの話を聞いていなければ、エラスは大変なことになっていただろう。

 今も何も知らないまま、のんびりアリスたちの様子を観察していたかもしれない。

 だが、幸いなことに、そしてカストルにとって不幸な事に、自分は彼の目論見をたまたま聞きつけてしまった。

 橙薔薇公のおひざ元とは言っても、エラスの人間たちはアリスの国民だ。


 その戦争、阻止させて貰うよ。


 トマヤを見張るために【感染】を頑張ってきたから、エラス周辺には感染者が多い。

 それは人だけではない。

 動物や虫もだ。

 彼らは縄張りを荒らすものを嫌う。

 だから、彼らが森の中をエラス近くに進むまで引き付けた。

 もちろん、大抵の動物たちはこれだけの人間の群れからは逃げる。

 普通なら。

 しかし、【管理】された【感染】者は違う。

 縄張りを荒らすものを殺すよう彼らを後押ししてやれば良い。

 

 そろそろ日も傾き始める頃。

 骸兵団はようやく自分のテリトリーに入ってきた。

 彼らのゆっくりとした行軍速度を見るに、エラスの襲撃は日が沈んでから始めるつもりのようだった。

 そのおかげで自分は色々なことを準備することができた。

 先々を考えると、この人間たちはできる限り殺して起きたい。

 悪いが、容赦はしない。

「ん?」

 カストルが止まった。

 彼に合わせて骸兵団も歩みを止めた。

 え?もうちょっと先に進んでくれたら動物たちの包囲網の中なんですが。

「どうしました?カストル様?」

「嫌な予感がする。」カストルは前方の森を見つめた。

 まじかよ。

「見てきますか?」

「頼む。」

 二人の斥候が前方を確認に向かった。

 おおう、ステイだ!ステイ!

 襲っちゃダメ!!

 慌てて【管理】で一帯の動物たちに待てを命じる。

 前方を確認しにきた部下たちはしばらくあたりを見渡した後、潜伏している動物たちには気づくことなくカストルのもとに戻って行った。

「何もなさそうです。」

「そうか。」カストルはそれでも訝しむように辺りを見渡すと武器を抜いて言った。「武器を抜いて注意して進め。」

 骸兵団は各々短めの剣を抜いて構えると、カストルについて、ゆっくりと周囲に警戒をしながら進み始めた。

 やるねぇ。

 でも、それじゃあ対処できない。


 【嘔吐】そして、【めまい】

 

 この辺りの人間たちすべてに【管理】で【嘔吐】と【めまい】を発動する。

 実は【めまい】はワルキアたちを片付けるときにすでに取っていたスキルだったりする。だが、あんま実ダメージが行く感じではないので使いどころがなかったやつだ。

 でも、戦闘時ならきっと有用なはずだ

 骸兵団の何人もの蛮族兵たちが急な体調悪化に歩みを止めた。

 あちらこちらで蛮族兵たちがうずくまった。

「この程度で、情けのない。」カストルは部下たちが歩みを止め昼食をそこら中にぶちまけているのを見て言った。

 って待て。

 お前、この兵団の感染源だぞ?保菌数も一番多い【感染】者なんですが?

 何で平気なん?

「食糧にに毒でも仕込まれていたのだろうか?」腹をさすりながら平然と首をかしげる蛮族兄。

 効果が無いわけではないようだが、何かしらの理由で効果が薄いのだろうか?

 あれっ?

 違うぞ。

 よくよく考えたら、こいつの中にいる今、めっちゃ気持ち悪いし、めまいもしている。

 間違いなく効いている。

 まさか、これは・・・


 我慢!!


 なんと、短絡的で効果的な対策だろうか。

 こればっかりはどうしようもない。

 カストルが気持ち悪くても平然と活動しているのはともかくとして、骸兵団は完全に行軍できなくなった。

 元気な人間は近くで吐いている物の背中をさすっている。

 完全にこちらの思惑通りだ。

 まずは、この森の木を食い荒らす害虫たちに命令を出す。

 あらかじめ、一か所だけが重点的に食べられていた木々が害虫たちのとどめの活動によって、ミシミシと音を立てて骸兵団に向けて倒れはじめた。

 大きな音と共に、次々と木々が倒れ、【嘔吐】していた蛮族兵たちを下敷きにしていく。

 各地で悲鳴が上がった。

「やはり罠か!」カストルが叫んだ。「気をつけろ。エラス兵が来るぞ!」

 カストルの叫びに健常な兵士たちが辺りの森を警戒する。

 残念だがそっちじゃない。

 上だ。

 木々の倒壊によって開けた森の天井から、数十万もの渡り鳥たちが彼らに襲い振った。

 残業ご苦労さん。

「なんだあぁあああっ!?」骸兵団たちは悲鳴を上げた。

 完全にパニックになる蛮族兵士たち。

 辺りは阿鼻叫喚だ。

「おのれっ!なんだこれは!?」カストルも事の異常さに気が付いたのか、がむしゃらに剣を振るい、まとわりついて来る鳥たちを落としながら、ひたすらに辺りを見回した。

 とりあえず、こいつは強そうだ。

 久しぶりの【パラメーター操作】でDEXを下げる。

 その瞬間、振りかぶったカストルの手から剣がすっぽぬけ後ろへ飛んでいった。

 カストルは信じられないというように目を見開いて固まってしまった。

 そして、ゆっくりと力を抜くと、倒れて開けた森の空を見上げて言った。

「ここまでと言う事か。」

 カストルは大きく息をついて笑った。彼は運命を察知したのか、空を見上げてそれ以上動くのをやめた。

 これで十分だ。

 あとは、任せた。

 【管理】でステイさせていた殺気だった生き物たちをたちをいっせいに解き放った。

 周りの茂みから、足元の地面から、木々の葉の中から、虫や獣が飛び出して来て骸兵団を埋め尽くした。


 これでメザートまでをも絡めた、エラスティアでの騒動には決着がついた。

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