11-11c さいきんの国王ダイアリー
「ムラサキの人、上手くいったね。お疲れ様。」蛮族弟が戻って来たロッシフォールに声をかけた。
「感謝する。ポルックス殿。」
「これで、だいたい終わり?」
「もう少し騒いでくれ。王都にこの騒ぎが伝わってくれればよい。」
もう知ってるけどな。
「任せろ。戦えば良いのか?」ユリシスが会話に割り込んで来た。
「ちょ、勘弁して下さい殿下。できれば兵を失いたくはないのです。」ロッシフォールが慌てる。「できる限り睨み合いと小競り合いで済ませたいのです。」
「うむ。極力こちらに損害が無いように殲滅しよう。」
「向こうの兵にも被害を出さないでください。」ロッシフォールが慌てて制止した。「向こうの兵もエラスティアの兵なのです。」
「ロッシフォール卿はワガママだ。」
「だよねー。」
「戦う必要などございません。」
「それは無理だ。」
「お願いいたします。それは契約事項ではありません。」
「お願いされても困る。」
「そうそう。たぶん、すぐに向こうが攻めて来ると思うよ?」ポルックスがユリシスの言葉を補った。
「先方がそんな簡単に会戦に火蓋を切るでしょうか?」ロッシフォールが言った。「こちらは仮にも橙薔薇公を担いでおります。」
「敵兵は多い。」と、ユリシス。
「数で押してくると?」
「これは戦争ではない。」
「?」ユリシスの足りない言葉にロッシフォールが眉をひそめた。
「だから、今夜が怪しい。」
「??」
ええい、自分も解らん!ユリシスは言葉が足りない。
「つまりね、エラスの人はここに戦争じゃなくて僕らの口封じに来たんだと思うんだ。」ポルックスがユリシスの言葉を説明した。「だから、エラスの人は陣も軍略も被害も気にしないんじゃないかな?」
「夜襲。」ユリシスは言った。
「確かに。」蛮族弟が賛同する。
「何故です?」ロッシフォールは尋ねた。何についての理由を尋ねたのかはよく分からなかった。彼自身も解ってないんじゃないだろうか?
「エラスの人は早くムラサキの人の口封じをしたいから、僕らとじっくり戦争なんてしたくない。パニックになってでもいいから夜襲で乱戦にするんじゃないかな。」蛮族弟は説明した。「同士打ちも気にしないかも。」
「まさか、そんな4000対7000で夜戦をするというのですか?」
「月も半夜。」
「確かに今日は晴れそうだし、夜襲日和かもねー。」
お前ら長年連れ添った夫婦かなんかなのか。
「それは本当の話なのですか?」
「そうなるかもしれないってことさ。さっきのムラサキの人のハッタリがすごかったから、数日後とかかもね。」
ロッシフォールは青い顔をしながらユシリスたちの言っていることについて考えている。
「ロッシフォール卿。貴殿は戦争と殺し合いのどちらを望むか。」ユリシスはロッシフォールに尋ねた。
エラス候サイドの兵士たちは動揺していた。
大体の兵士は、王国に反旗を翻した“ユリシス“を倒すものと聞かされていた。しかも、“橙薔薇公の名の元に“集まった橙薔薇派閥の貴族たちが半数以上を占めていた。
エラス候がロッシフォールよりも兵を集めるために、反アリス派の貴族たちを中心に橙薔薇公の名を大っぴらに使って兵を集めていたからだ。
だが、これがロッシフォールのせいで裏目に出てしまった。
反アリス派の貴族たちから遣わされた騎士や兵士たちは橙薔薇公だけではなく“アミール“のためでもあるとも聞かされていたようだ。
ところが、かの紫薔薇公が橙薔薇公の命でアミールを担ぎ上げると叫んだのだ。
兵士たちは何に対して戦っているのかよくわからない状態だった。
彼らはどっちに参加するべきかを選ばなくてはならなかった。
各隊の代表者たちが持ち場そっちのけでエラス候の元へとつめかけてきていた。
「エラス候!これは一体どういうことか!」
「橙薔薇公の旗が上がっていたぞ!」
アミール派および反アリス派の騎士たちや、兵に帯同してついてきた橙薔薇派閥の貴族たちがエラス候を囲み状況の説明を求めていた。
「ロッシフォールが嘘をつき我々を騙しているのだ。」エラス候は自らの動揺は隠したまま答えた。動悸がすごい。「みなも奴の流言に騙されないよう!」
「しかし、ロッシフォール公はアミール殿下を担ぐと言っていたぞ。ならば、あちらと合流すべき話なのではないのか?」
エラス候としてはロッシフォールかユシリスを生き残らせるわけにはいかない。
エラス候は彼らの進言に対して悩むことなく言った。
「逆賊と組むことなどならぬ!」エラス候は怒鳴った。「橙薔薇公に断りもなく無くアミール殿下を勝手に祭り上げるなぞ、言語道断。」
アミール本人に断りなく王に祭り上げようとしてる奴が何を言う。
「勝手に祭り上げるというのであれば、アリス陛下の即位の時にしても民衆が勝手に祭り上げたのだぞ?あの時を考えると我々はワルキアの立場に相当するのではないのか?」
「ぬかすでない!我々は民衆を弑逆しておらぬし、王家にも反逆していない。ワルキアたちなどといっしょにするな!」
あいつらを裏で操ってたのあなたの仲間のトマヤでしたけどね。
「彼らはアミール殿下はおろか橙薔薇公の名を語る逆賊ぞ。」エラス候は声を大きくして言った。「橙薔薇公の命は逆賊ロッシフォールの討伐である。この命令を放棄したなら、アミール様からきっと仕置きがあるものと思え。」
「しかし、エラス候よ。」一人の貴族が尋ねた。「橙薔薇公は『ユリシス殿下と組んでいるから』紫薔薇公を止めよ、とおっしゃられたのであろう?紫薔薇公がアミール殿下を推しているのであれば、今一度、紫薔薇公と話し合うべきではないか?」
万理あるけど、ロッシフォールはホントのところはアミール担いでるわけではないしな。
エラス候は一瞬考え込んだ。
が、結局、その提案は拒絶した。
「ダメだな。アミール公を天下に推そうというのであれば、何故、ロッシフォール公は橙薔薇公にも我々にもその事を伏せた。奴は信用ならぬ!」
エラス候の動悸がすげえ。
彼としてはロッシフォールと組むわけには行かないのだろう。
すでに骸兵団が王都に向かっている。
そして、橙薔薇公やエラス候が骸兵団と繋がっていることをロッシフォールは知っている。
エラス候はロッシフォールが何を考えているか解らない状況で迂闊に彼と組むことはできないはずだ。
「ともかく!我々はエラスティアとアミール様に仇なすロッシフォールを殲滅せねばならないのだ!!」
エラス候はそう叫んだが、周りの貴族たちは必ずしも納得している様子ではなかった。
大変誤字が多くて申し訳ございません。
2022/1/17
誤字について、訂正していただいていらっしゃる方。
本当にありがとうございます。
呼称の“予“については得に意図があるわけではありませんが、“予“のほうでまとめてしまっております。(単純に箇所が多くなってしまいますので御容赦ください。)




