11-10b さいきんの国王ダイアリー
今までアリスは内政優先で軍隊を強くするのは後回しだった。王都は最低限の兵の補充しかしていない。
先のワルキアたちの内乱で王都周辺の兵士同士が殺し合っため、王都周りはぽっかりと兵が少ない。アリスは王都の軍を無理に補充することはせず、周辺の領主たちが兵を集め警察機構を維持できるようにすることを優先していた。
王都周りの治安はだいぶ良くなったが、王都は国の真ん中だし攻められることはないだろうとばかりに無防備に近かった。
カストルは王都から兵を3000引き出せみたいな事を言っていたが、たぶんそんな居ないんじゃないかな。
とい言いつつ、アリスの知らないところでこっそり王都の守りは強くなっていたりする。
兵数はあまり増えていないが、兵士の練度が著しく向上しているのだ。
概ねアリスのせいだが、アリスはその事をまったく知らない。
それはアリスが近衛騎士たちに子爵領を任せた事に端を発していた。
アリスはその後、新たな近衛騎士を組織していなかった。
アリスの弟であるアミールもヘラクレスの他に新たな騎士を迎え入れていない。
実はこの事が並みいる騎士たちの心に火を点けていた。
『王族の騎士になるという事は限られた強者にのみ許された事であり、今のこの世にアリスを満足させる騎士は存在していない。アリス王を倒すギリギリのところまで追い詰めることができたヘラクレスだけは、かろうじて王弟のアミールの騎士として受け入れられた。』
そんな噂が立っていた。
この間の決闘でアリス自身が武神として伝えられているため、この噂は真として受け入れられていた。
アリスやアミールの騎士になるために騎士たちはこぞって訓練に励んだ。
いつのまにか、騎士のたちの習熟度合いがかつてないほどに高まっていた。
職業兵士たちについてもそうだ。
アリス王女とアミール王子の第一騎士ヘラクレスが、次期王座を決めるための決闘を行い、それは歴史に残るような激戦だった。そして、それは貴族同士の小洒落た安全な決闘ではなく、職業軍人である兵士たちからしても激しく、泥臭く、熱く、武骨な、戦士同士の決闘だった。
それを見ていた兵士たちの訓練にも身が入った。実戦さながらの訓練が行われ、王都の兵たちは他の領地の兵士たちとは一線を画す強さとなっていた。
さて、そんな王都では、武神アリスとジュリアスの部下でもある武器開発チームのメンバーとの間で軽いミーティングが行われていた。
彼らは王城の一画にある練兵場に集まり、新しい武器の改良案について相談していた。
話し合われている武器は、まさかの丸太だった。
アリスとアープが実戦で丸太を振るったことのある人間として招集されていた。
「丸太はランスと違って『振れる』というのが良いですね。」武器の開発者の男がアリスが丸太を馬上で振るうのを見ながら言った。
いや、普通丸太は振れない。
せめて、こん棒。
「太さも重要よ。」アリスはアドバイスした。「太すぎると持ちづらいし、重くて振れなくなっちゃうの」
いや、だから丸太は振れない。
「私、女だから、15センチ超えると持ちにくいわ。」
持ちにくさが先か・・・。
「先は尖ってなくても、このまま馬で突けば相手はきちんと飛んでくから、剣との切り替えもいらないわ。」
「小生でも騎士様を落とすことができました。」と、アープも同意する。「反動でこちらが落ちさえしなければ良いようです。」
「先が尖ってないから、滑らなくて良いのかもしれませんね。」武器開発の人が二人を見上げながら言った。「そもそも、ランス対策に騎士たちの鎧は強固になってしまいましたからね。今更、先を尖がらせたところで貫くなんてできないでしょうし。」
「でも、重すぎて歩兵を薙ぎ払うと勢いでそのまま馬の首に当たりそうなのよ。」と、アリス「なんとかして?」
だから、そもそも振り回せんのだって。
「男子にも持てるように丸太を改造せねばなりませんね。」
言われとるぞ。
「全体は軽くして先っぽだけを重くするのはどうでしょうか?」アープがアリスが丸太を振り回すのを見ながら提案した。「細い棒の先に鉄球とかをつけて見るのはどうでしょう。」
確かにアリスに似合いそうだ。
「それでは槍として使え無くなっています。」武器開発の人はその意見は採用したくないようだ。「重心が高いのは突きには向かない。」
「突きの効率を落とさないようにしたままで、振ってダメージのいく武器か・・・。」アリスが考え始めた。
「全体的に軽くする代わりに、先のほうに棘でもつけてみましょうか?」武器開発の人が思いついたように言った。
なんか、とんでもない武器ができそうな気がする。
そんなゆっ~るいミーティングの最中、伝令が慌てた様子で駆けつけて来た。
「陛下、公爵たちがお呼びです。至急おいでください!」
「どうしたのそんな慌てて。」アリスは先にトゲトゲが一杯ついているかのようなイメージで丸太を振り回しながら伝令に訊ねた。
「ユリシス殿下が反乱軍を挙兵しました!」
ここに来てようやく、アリスたちは第一王子ユリシスの存在を知ることとなった。
トマヤとカストルがユリシスたちと別れ、骸兵団と合流してからすでに10日が経っていた。




