11-7a さいきんの国王ダイアリー
さて、エラスでの【感染】活動のほうも進捗があった。
ついに、この間エラス侯に【感染】することに成功した。
トマヤの居住地も押さえた。てか、最初にユリシスをスズメガから発見した町に実家があった。
あいつ、ユリシスが自分の家の近くで飯食っているとも知らずに方々探し回っとったらしい。おもろい。
もうちょっとしたら蚊も出てくるから、橙薔薇公やトマヤに【感染】ができるようになる。そうなったらすべてを片付けられる。
それまでの間は橙薔薇とエラス侯に張り付いて、反アリス派の貴族の洗い出しをすることにした。
現在、早速エラス侯ビジョンで橙薔薇公との会談に参加中だ。
エラス候から橙薔薇公への【感染】も狙ったが、まだ細胞数が二桁なのでさすがに無理だった。
「ユリシス殿下ですが、どうやらかなり前からエラスティアにすでに入っていたようなのです。」
「そうなの?」
「おそらく、トマヤの出した依頼の手紙を受けた後すぐにメザートを発っていたと思われます。もしかしたらトマヤがメザートに向かう頃にはエラスティアに入っていたのかもしれません。」
「あら、やる気があって素敵じゃない。」橙薔薇公はご機嫌な様子だ。
「巷のユリシス待望論が流行った原因も、私どもの情報操作だけではなく、ユリシス殿下が入国してエラスティアを巡っていた影響もあるのかもしれません。」
「まあ、どっちでも同じよ。」橙薔薇公は興味なさそうに言った。「彼には王都へと攻め上がってもらうわ。」
「今、ユリシスはお金もうけのためなら何でもやる軍隊のトップだって聞いてますもの。メザートでも持て余してるんですって。」
「そうなのですか?」エラス侯が訊ねた。
「一応、メザートの知り合いが、彼が私の仕事を受けてくれるように後押ししてくれるって言ってたわ。」橙薔薇公は自信満々な様子で言った。「彼がわざわざこっちに来たんなら私たちの依頼に興味があるって事でしょう。」
「そうでしょうか。」エラス侯が不安そうに言った。
「大丈夫よ。それより、ユリシスはちゃんと見つかったのよね?」橙薔薇公はエラス侯に訊ねた。
「はっ。よりによってトマヤの郷里のエブゼンにおりました。」エラス侯は頭を下げた。「ただいまトマヤを向かわせてあります。」
「そう、手回しが良くて嬉しいわ。」橙薔薇公はユリシスの見つかった場所になぞ興味が無い様子で呟いた
「王都を攻めるとなれば一大事です。ユリシス殿下はこちらの思惑通りに動いてくれるのでしょうか。」エラス侯の心配の種はユリシスが今後思惑通りに動くかどうかのようだ。
「大丈夫よ、トマヤが上手くやってくれるわ。」橙薔薇公は何一つ不安など無い様子で答えた。
現在、自分は、エラス侯から橙薔薇公の思惑や立ち位置もだいたい把握している。
橙薔薇公はユリシスを使ってアリスに対し戦争を仕掛けさせようとしている。そして、その戦争のどさくさに紛れて、アミールを国王に担ぎ上げるつもりらしい。
もちろん、アミールはこの事を何一つ知らない。
【感染】はまだできていないがユリシスの所在も追えている。エラスティア各地での【感染】活動がうまくいっているおかげだ。
トマヤとロッシフォールについては行方を追えていない。
ただ、トマヤに関しては住処も知っているし、ユリシスを追っていれば面会の場を押さえられる。エラス侯経由でユリシスたちの居場所も、どこで彼らがトマヤと出会う約束をしたかも把握できるので焦る必要はない。明日エブゼンの辺りで面会をするらしいのでそこで彼らの動きを把握すればよい。
ロッシフォールについては、どうやら橙薔薇の書状を持ってエラス周辺やモブートの辺境の貴族たちを訪ねているようだ。いざという時エラス侯のために兵を出してくれるようにお願いして回っているということだけ分かっている。
「今ね、この間の反乱や馬鹿な改革のせいで、どこもお金や兵士が動員できないんでしょ?」
この間会議でちょうどその話をしとったな。
さすがに、よく調べている。
・・・いや、待てよ?
それこそアミールからロッシフォール経由で筒抜けなんじゃないのか?それどころかアミールがエラス侯に直で報告をしてる可能性すらある。
「だから、ユリシスはアリスとかなり良い勝負できるとと思うのよね。」橙薔薇公は優雅に自分の顔を扇で仰ぎながら言った。「それでもアリスが勝っちゃうかもしれないけど、何度も内乱招いちゃうような王様なんてダメよねぇ。そこでアミールの出番と言う訳。上手くできた話じゃない?兄にやられてボロボロの妹を簡単に料理する。そそるわぁ。」
エラス侯は何も言わなかったが少しだけ眉をひそめたのが分った。彼はそこまでユリシスのことを楽観していないらしい。
「大丈夫よ。彼らにも評判があるわ。メザートの傭兵団と言ったって依頼主を裏切ったりはしないでしょ。」橙薔薇公はエラス侯を安心させるかのように言った。「それにトマヤがきちんと情報操作しているもの。」
「と、言いますと?」
「ユリシスはアリスがネルを殺したって思ってるの。」橙薔薇公がとんでもないことを口走った。「アリスが陰謀で王座を簒奪したって思ってる。だから、彼の王都への侵攻には正義があるのよ。」
「そのままユリシスが王位についてしまうなんてことは無いですか?」
「馬鹿なの?貴方は。」橙薔薇公は言った。「そんなんどっちだっていいじゃない。あの兄妹が王国に戦乱を招いた。それだけで十分なのよ。最後に倒す相手が変わるだけだわ。兄妹共々、潰し合ってもらいましょ?」
なるほど、アリスにユリシスをぶつけて、ユリシスが勝てばユリシスを討ち、アリスが勝っても内乱の責任を取らせてアリスを討つつもりのようだ。
エラス侯の不安そうな顔をよそに、橙薔薇公は機嫌良さそうに笑いながら続けた。
「彼らが王都に攻め上がる時にアミール派の兵士たちを集めて出陣できるようにしておかなくちゃダメね。ロッシフォールは順調に兵を集められているのかしら?」




