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11-4c さいきんの国王ダイアリー

 さて、アミールの初日は終わり、アリスはアミールの待つ教員室に戻って来た

 戻って来たというのは授業が終わったのでやって来たという意味ではない。

 授業が終わった後、アリスは一回教員室にやって来ていた。だが、アミールがクラスで人気者になれるようにと、成長したローズヒップを捕まえて来たものだから全力で追い出されたのだ。

 「あれ持ってけば、一目も二目もおかれたのに。」ローズヒップを遠くに放してきたアリスは不服そうに言った。

 アミールは声も出さずに真っ青な顔で首を何度も横に振った。

 結局、今日一日をアミールはつつがなく終えた。

 クラスメートに虐められることも無かった。さすがにエラスティア公という事で距離はおかれているようだが、それでも何人ものクラスメートが挨拶に訪れいろいろと話もした。

 トラブルも無ければ、やんちゃなことをしようもなかったので、アミールの服はアリスのドレスのように泥がはねていたり、ほこりまみれだったり、ちょっと破れたりなんて事はなく、綺麗なままだった。

 念のためジュリアスの兵士たちが学校の周りを固めていたが、アミールはアリスのように彼らに迷惑をかけなかった。

「心配することなんて何もなかったでしょ?」アピスに渡された布巾で体中の泥を落としながらアリスは言った。

「はい。」アミールはアリスがスカートをめくって膝の辺りを拭きだしたので目をそらしながら返事をした。

「何をしたらそうなるんですか?」アピスが呆れた様子で足の泥を落としているアリスを見た。

 ローズヒップを追いかけて走り回ったり、昔通った抜け道がまだ通れるか試そうとして体がつっかえて兵士たちに引っ張り出してもらったり、アミールの護衛でついてきたヘラクレスといっしょに体育の授業に乱入してたりしたらかな。

 ほんとロクでもねぇ大人だ。

「アミールさんを見習ってくださいまし!」アピスはご立腹だ。

 頼む、アピス。アリスのお母さんやってくれ。グラディスだけじゃ足りん。


 アピスとヘラクレスとアリスはアミールから学校の感想をいろいろ聞いた後、この先登校を続けて行くかを訊ねた。

「学業の場としてはちょっと物足りません。」

「違うのよアミール。」アリスはお姉さんぶって言った。「学校は考え方の違いを認識するところなんだから、分かっているところは寝てればいいのよ。」

「アリス陛下。寝るのはダメです。」アピスが速攻否定する。

「アミール閣下、いくら王で姉でもダメなところは真似してはいけません。」ヘラクレスが辛らつにアピスの発言を後押しした。

「えー、時間もったいないじゃん。」アリスは不満そうに口を尖らせた。

「アミールさん。」アピスはアリスの不平は完全に無視してアミールに向き直った。

 アピスのアミールへの呼称は『さん』なのね。

 アピスの事だから礼節のほうを重んじるかと思ったけど、彼女は教師としての立場を優先させるべきと考えたようだ。

「エラスティア公が授業中寝ているのはいけません。周りに示しがつきません。」アピスらしいことを言う。すげー寝てた王様が隣に居るけど。「アミール様の場合、学業としては勉強会がメインになるでしょう。」

「勉強会?」

「それぞれテーマを持ち込んで、互いに切磋琢磨し、高度な知識を身につける場所です。」

「それは、是非参加してみたいです。」

「それには、まずは生徒たちと一緒に授業を受け、きちんと実力があることを示してください。勉強会の出席者が納得しません。公爵だからという理由で参加されたと思われれば、せっかく実力があってもそのような扱いを受けかねません。」

 アピス、きちんと考えてるなあ。

「もし、今のクラスの授業がつまらなければ、皆に迷惑を駆けない程度で人間観察をなさい。」アピスは言った。「アミールさんが分かることを、クラスのどれだけの人が分かっているのか。分からないのは誰か。それは何故か。彼らはそれを知る必要はあるのか。それを理解させるにはにはどうしたら良いか。貴方は人を導く立場にあります。きっとここで学ぶことは多いはずです。」

「はい!」

 アミールには自分がエラスティア公で偉いという考え方は無い。先生であるアピスの指導を心の底から受け入れ、嬉しそうに返事をした。

「アピスずるい。」アリスが口を尖らせてアピスを睨んだ。

「?」

「その、人間観察とかいうの私にも教えて欲しかった。」

「いや、そんなこと言われましても・・・。」

「そういうの知ってたら授業中もっと楽しかったのに。」

「そもそも、アリスさんが勉強会でやってたことですわよ?」アピスが困ったように言った。

「そうだっけか?」

 そうだっけか?

 アミールとアピスの面談はもう少し続くようだったが、体を綺麗に拭き終えたアリスが真っ先に飽きた。

 学校にはアミールが心配だったから来ただけなので、アリスの中ではもはや用事は済んでいるんだろう。

「なんかアミールは良い感じそうだし、ケーキ屋はしごして帰るわ。」

「あ、シュプレーゼ行くのなら、ブラウニー取り置きしてもらっても良いですか?」あろうことか国王にお使いを頼むヘラクレス。「ヘラクレスって言えば分かります。」

 シュプレーゼってのは王都のケーキ屋さんのことだ。

 王城に帰る道すがらにはないんだが。

「ん。了解~。」

 あなたがこれだからヘラクレスがつけあがるんじゃないか?

 アリスはヘラクレスに手を振るとトテトテと駆け出した。

 ほんと、気軽に城下に買い物に行くのやめぇや。


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