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11-4b さいきんの国王ダイアリー


「姉様、夜分にすみません。」

 アミールの学校入学前夜、珍しくアミールがアリスの元を訪ねてきた。

「学校について教えて頂きたいのです。」彼は学校での作法や、どのようなことに気をつけたら良いかのアドバイスをもらいに来たらしい。「私の従者たちは王都の学校について詳しいものは居なくて、明日、私が何かしら皆様に迷惑をかけてしまわないかと心配で・・・。」

 なんと、良い子!

 『学園パニックコメディー2ndの開催だ!』と、こっそりワクワクしていたけれど、よくよく考えたらアミールいい子だから、面白トラブルなんか発生しなそうだ。

「うーん。私、どっちかってと皆に迷惑かけるほうだから、ロッシフォールに聞いたほうがいいかも。彼、迷惑かけられるほうだし。」

 自覚してんのかよ。

「ロッシフォールはただいま長期の休暇中でして・・・。」アミールは申し訳なさそうに言った。

 エラスでこそこそ動いとる。きちんとは追えてないんだよね。

「え?そうなの?」アリスは眉間にしわを寄せた。「あいつ、仕事ほったらかして・・・。」

 あいつ、もう引退してるし、さすがにその文句は自分本位過ぎじゃないですかね?

「私一人なので、なにか間違いをしでかさないかと不安なのです。」

 まだ15歳くらいだっけか?一人で王都を出回ることの少なかったアミールだ。昔野盗に襲撃を受けたこともあるみたいな話だったし、エラスティア公爵とはいえど王城の外で一人で活動するのはなにかと不安なのだろう。

 アリスの時はオリヴァが居たからな。アリスも前日は色々と相談でき・・・

 してねえし!

 アリスの登校前日ってマハル脅して髪切らせてただけじゃねえか。

 いまさらだが、アリスには不安とか躊躇とかいう感情はないのだろうか?

 アミールよ。

 こいつは参考にならんぞ。完全な人選ミスだ。ジュリアスに相談に行くべきだった。

「姉様も色々とトラブルに巻き込まれたとうかがいました。やはり、王族が行くと何か起こるのでしょうか?」

 大丈夫だ。

 それは例外案件だ。アリス固有の問題だ。

 それで、心配してたのか。

「私と違って身分隠していくわけじゃないから、問題なんて起こらないわよ。」

 身分隠してた事なんてたいした問題じゃなくなかった?

 だいたいがあなた個人の問題でしたよ?

 アミールが何を聞いたかは分からないが、アリスの引き起こしたようなトラブルなんてアミールが起こしようはずがない。

「じゃあ、明日、私もいっしょに行ったげる。」

 途端に漂うトラブル臭。

「そんな、姉様の公務に負担をかけるわけにはいきません。」

「良いのよ。アピスと話したいこともあったし。」アリスは立ち上がると呼び鈴の紐を引いてグラディスを呼んだ。

 完全に行く気のようだ。

 まあ、なんかあってもアミールにも【感染】成功できたし、自分も何かしら手を打つ事もできる。




 さて、当日。

 アミールの編入したクラスの窓際に座っていた【感染】者、ガヤック君は紹介された転校生がまさかのエラスティア公だったので口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。

 カヤック君はこの学校では最も身分の高い家柄だと自負していた。なんてったって、4公が一人、モブート公爵の息子だ。

 このガヤック君、モブート公の事なかれ感を何一つ受け継いでいないワンパク君だった。

 彼は公爵の息子という地位を存分にアピールした。彼は常に偉そうだったし、モブート以外の派閥の存在も許さなかった。彼を敬わない人間は生徒でも先生でも平気で叱り飛ばした。

 モブート公爵の次男である彼の座を脅かしそうなのは、せいぜい侯爵の息子であるクラスメイトのハリス君と下のクラスのその弟のミシェル君くらいだった。彼らにしたって長兄ではない。それに単純な家柄で言ってしまえば、侯爵と公爵の間には家柄の格にどうあがいても埋められない大きな差があるのだ。

 だが、先生たちに関して言うと彼の思い通りにはいっていなかった。

 なんてったって、ミンドート公の長女で王位継承権すら有ったことのあるアピス=ミンドートが先生の中に居る。そのアピスの先導で、家柄の劣っている先生たちもガヤック君に偉そうに指導をしてくることが彼の今の大きな悩みだった。

 いずれ爵位を貰ったら、先生たちには何かしらお仕置きが必要だと彼はクラスメイトに吹聴していた。


 さっきまでは。


 先生に紹介されて入ってきた転校生がエラスティア公ご本人だったので、その瞬間、ガヤック君の今までのパワハラウキウキ学校ライフは音を立てて崩壊した。

 公爵の息子とかいうレベルじゃない。王子で公爵ご本人だ。

 どうやって転校生をからかうかとか、自分との立場の差を教え込もうかとか、いろいろシミュレーションして楽しんでいた脳内計画は水の泡と化し、それどころか今までのガヤック君の校内でのヒエラルキーはすべて崩れ落ちてしまったようだった。

 ガヤック君は完全な思考停止状態で銅像のように硬化し、目線だけが席に向かうアミールを追い続けた。

 ガヤック君と同じように、他のクラスメイトのほとんどがアミールの事をじっと見つめていた。

 ガヤック君は授業もそっちのけで、口をポカンと開けたまま教室の中央の席に座ったアミールを眺め続けた。

 不躾な行動なのは間違いはないが、気持ちがまったく追いつかないようなのでしかたがない。

 そんな訳で、最後尾の窓際の席からずっとアミールの事を見つめ続けていたガヤック君が、窓の外に虫のように張り付いて中を覗いている国王に気が付いてさらに思考を真っ白にするのは授業も中頃になってからだった。

 国王はアピス先生に首根っこを掴まれて連れていかれてしまったが、ガヤック君の焦点は定まらないまま誰も居なくなった裏庭を眺めていた。

 まるで目を開けたまま気絶しているようだった。

 きっと今日は一日中ずっとこんな感じなんだろうな。

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