10-12b さいきんの王国革命戦記
いい。
もういい。
滅茶苦茶にしてやる!
アリスがぶっ倒れれば王もそれどこじゃなくなるに違いない。
アリスのパラメーターを開く。
病気を復活させてやる。
アリスをまた閉じ込めてやる。
もう王位なんて関係ない。
こんなアホな事でアリスが悲しい思いをするなんて馬鹿げてる。
コンソールを開いてパラメーターを片っ端から下げていく。
オリヴァ、お前もだ。
エウリュス、お前もだ。
もう、皆で気絶しろ。
アリスの病気がうつると解かれば大パニックだ。
【パラメーター操作】で片っ端からパラメーターを全力で下げる。体内細胞の数を増やせるだけ増やす。
倒れろ!
倒れてしまえ!
まだか。
パラメーターを上げ直して、再び下げる。
倒れろ!
倒れろ!
おかしい。何で誰も倒れない?
何でだ!?
以前の感じだったら倒れていたはずだ。
アリスが成長したせいで耐性がついたのだろうか?
どのパラメーターを上げ下げしても一向に気絶に持ち込める感じがしない。
くそう!
アリスのパラメーターをガチャガチャと上げ下げしまくる。
倒れろ!
倒れろよっ!
だめだ、何故だ?
何故なんだ!!
脳裏に蘇ったのは、アリスがまだ塔に籠っていた頃の記憶だった。
『解析が終了しました。 アルトの薬:【トリガー崩壊(固有)】【身体保護(固有)】を取得可能です。』
『アルトの薬』ってなんだよ!【解析】が何一つ解析してねぇ!
【トリガー崩壊】と【身体保護】を選択して取得を考える。
【身体保護】の方だけ色が変わり、突如見慣れぬポップアップが現れた。
『【トリガー崩壊(固有)】の前提条件を満たしていません。』
取得可能ちゃうやんけ!
さっきの『取得可能です』の表示は何だったのか。
てか、【身体保護】だけ取ってしまったぞ?これセットで持って無くて大丈夫なスキルか?
慌ててスキルリストから効果を確認する。
おお!説明が読める!
『自身の活動による宿主へのダメージを無効化する。』
アルトォォォ!!
貴様のせいかぁああ!!
「もうどうでもいいっ!」
アリスが咆哮した。
突然のアリスの叫びに部屋中の注目がアリスに集まった。
「王も領民も関係ない!!全員ぶっ飛ばして言う事聞かせてやる!それが私の革命よ!!」
獣の解決策じゃねぇかっ!
思考放棄してんじゃねえよ!
なに開き直って・・・
あ。
しまったあああああっ!
知力下げっぱなしだああぁぁぁ!!
「良かろう!ならば予を止めて見せよ!」王はアリスにそう言うと近衛騎士たちに命令を下した。「この国の未来のための革命を邪魔する王女をとらえよ!」
なああああっ!
王も獣の解決策に乗っかったぁ!
近衛騎士たちがおろおろと盾を構えた。
エウリュスを含めた皆、ひどくうろたえている。
「市民たちよ!」王が王の威厳をもって革命軍に命じた。「お前たちは国を変える場に立ち会うことを許された。その意志を明確にせよ。お前たちは、この国に何を求めるか!自らの生活に何を求めるか!革命を成したいか!アリス王女を王として求めるか!!」
革命軍の兵士たちが互いを見合いながら剣を抜いた。
「王を拘束する!手伝いなさい。」今度はアリスが広間の扉の外で今までの頓珍漢な状況にあっけにとられていた城の兵士たちに大声で命令した。「近衛騎士も革命軍も、陛下を抹殺せんとする裏切者よ!」
「衛兵諸君!」アリスに対抗するように王が堂々たる声を上げた。「王の命によって命じる!そこに待機せよ!これは予と市民とアリスの戦いである!諸君らはこの歴史の一ページを見届けよ!」
アリスは王を指さして叫んだ。
「あいつも裏切者よ!」
無茶苦茶だぁ!
城の守備兵たちはものすごく困っている様子。
守備兵たちは皆、貴族ではない。騎士は貴族だが、近衛騎士以外の騎士たちは戦場へ駆り出されている。
一方の革命軍も平民だ。積極的に戦いたいとは考えていない。
革命軍も城の守備兵も互いに相手と目配せしながら躊躇している。
さらに城の兵士たちに檄を飛ばすべき立場のミンドート公が王がアリスに語っていた言葉を理解してしまったようだ。彼は今、心の底からどうしようか迷っている。
そうこうしている間に近衛騎士たちが盾を掲げてアリスの周りを取り囲んだ。
革命軍たちが城の兵士たちと近衛騎士の間に壁を作り、騎士たちが邪魔をされないように位置どった。
アリスは城の兵士からかすめ取ってきた短剣を構えた。
「抜剣!」エウリュスが叫んだ。
アリスに向けて盾で壁を作っている近衛騎士たちが一斉に抜剣した。
やめろ!
馬鹿エウリュス!
アリスが止まったら王は処刑されるんだぞ!
お前ら、王の近衛騎士じゃないのかよ!
本当はみんな解ってるんだろ?
だから、アリスを待ってたんだろ?
革命に勝つとか負けるとかじゃないんだよ!
そうじゃないんだよ!
自分はただ、皆に幸せに生きて欲しいんだよ!!
アリスにも、みんなにも、王にも。
アリスだってそうなんだよ!!
王が死んだらどうなるんだよ!
残されたアリスの気持ちも考えろよ。
託すとかじゃないんだよ・・・
国とか、責任とかじゃなくてさ、笑って生きてくれよ。
王よ、お前は王以前にアリスの父親なんだろ?
アリスの事をもっと考えてやってくれよ・・・。
「け、怪我させてはならんぞ?」
そのレベルの話じゃねーよ!!
「陛下!覚悟!」アリスが叫んで近衛騎士に向かって跳んだ。
アリスも仕留めに行ってないよな?
アリスは直接王に達するのは無理と判断したのか右に跳んで、近衛騎士の一人をハイキックで卒倒させた。
近くに居たエウリュスが素早く盾を持って駆けつけ、包囲網の穴を埋める。
広間からどよめきが起こった。
王が目を丸くする。
「気を抜くなといったではないかっ。」エウリュスが声を張り上げる。「殿下を王女と思うな!我々よりも遥かに上の域の達人と理解せよ!」
騎士たちが慌てて盾を構えて密着したため、今度は左側に向かって一人仕留めようとしていたアリスは壁のように並んだ盾の一つをやけくそに蹴飛ばして包囲の中央へと戻った。
盾を蹴られた兵士が隣の兵士を巻き込んで後ろに倒れたが、近くの近衛騎士たちが慌てて包囲を修復した。
アリスを囲んでいる近衛騎士たちの盾の壁が密接し、より強固になる。
【感染】だ。
こうなったら、王に直接【感染】するしかない。
今さら何ができるかは分からない。
でも、諸悪の根源はこいつなんだ。
【パラメーター操作】で何かできるかもしれない。このくらいのおいぼれなら【操作】できるかもしれない。気絶させることももしかしたらできるかもしれない。
可能性はゼロじゃない。このバカげた争いを止めるんだ。
広間に1000匹のネズミが湧き上がるように現れた。
ワンバイト&スウェーだ。一噛み入れて逃げてくれ!
【管理】で1000匹のうち20匹くらいのネズミたちを【操作】して王を狙わせる。
あまりに多いと王を殺してしまうかもしれないし、王と間違えて他の人間を襲うやつが出てくる。【管理】なんてそんなものだ。
他のネズミは床を走り回って、みんなを攪乱させてくれれば良い。
走り回るネズミたちによって床が灰色に染まる。
広間のそこかしこから驚きの悲鳴が上がった。
「ネズミ!?」
「何事か!」
「陛下!!」近衛騎士たちが湧き出してきた大量のネズミに王の無事を確かめた。
「落ち着け、殿下の思うつぼだ!」エウリュスが近衛騎士たちに檄を飛ばした。「ネズミなど捨て置け!」
もちろん、この隙をアリスが見逃すわけがない。アリスはこの一瞬で、完全にアリスから目を離した騎士を二人沈めた。
しかし、包囲を崩すまでには至らない。
王はネズミにたかられても、ビクリとすることも無く玉座に座り続けた。
「陛下!」近衛騎士の一人が叫んだ。
何匹ものネズミが噛みついたが、王は何一つ反応を見せなかった。
『【接触感染】に成功しました。』
引け!すぐさま【管理】でネズミたちに撤退指示を出す。
王を殺してしまっては意味がない。
急ぎ王視点を移し、パラメーターを開く。
何かできることがあるはずだ。
・・・。
・・・・・・。
ウソだろ・・・。
お前、どうして立ってられるんだよ・・・?。
王のパラメータは真っ赤だった。
アリスが気絶している時と同じだ。
VITはもちろんDEXもINTも全てが赤く点滅し、スライドできない状態だった。
白血球が襲ってくる気配もない。
そこかしこにどの生き物の体内でもあまり見かけたことのない形の異形の物体が漂っている。
【嘔吐】も効かない。
たぶん、吐き気を発揮できるほど臓器が機能していない。
体中が痛い。
なのにネズミに噛まれた所は痛くない。
目はほとんど見えていない。音は聞こえるが片耳だけだ。音と色と人物の大きさでかろうじて誰かを判別できる程度だ。
ここまで自力で歩いてきたというのが信じられない。
自分なら、この体で椅子から立ち上がるのも嫌だ。
王は座っているのですら、意識を保っていることですら、困難な状態だった。
今、王は持てる力のすべてをこの場に存在していることだけに費やしていた。一瞬でも気を抜けば倒れるだろう。
信じたくないが、王は根性だけで今を生きているのだ。
こんな事をするために。
そこまでしてこんな事を、アリスを苦しめるような事をしたいのか?
何なんだよ・・・。
どうやったって王は助からない。
もし、アリスがここで王を助けることができても、彼はすぐ死ぬだろう。
もはや、彼に対してできることは何も無い。
王はここで処刑されるために、それだけのために、この世にしがみついているのだ。
これは彼にとって、そうまでしてもやり遂げなければならないことなのだ。
アリスの父親が、それともファブリカ国の王としてなのだろうか。ネルヴァリウスその人がこうまでして何を成したいかを見てみたいと思った。
エウリュスが盲目に王に従っている理由が今さらながらに少しだけ理解できた気がする。
「距離を詰めろ!」エウリュスが的確に指示を出す。「盾を低く構えすぎるな。頭を持っていかれるぞ!足元も気をつけろ!」
近衛騎士たちは徐々に包囲を狭めていく。
いつもは無双なアリスが、ここまで手が出せないのは初めて見た。
アリスはフェイントや威嚇ともとれる動きをしながら、ぐるぐると回って隙を窺うが見出すことができない。
盾はなおもその包囲をじりじりと狭めていき、ついにアリスは狭く囲まれた盾の間で腕を振りかぶる事すらできなくなった。
近衛騎士はさらに包囲を狭めてアリスを盾で挟みこんだ。
盾の隙間で動けないアリスの両腕が近衛騎士たちによってつかまれた。
「くそっ!放せっ!」アリスは叫んだが、もう、暴れることすら叶わない。
アリスは騎士たちによって押し倒され、後ろ手に両腕を押さえられながら3人がかりで床に組み伏せられた。




