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10-11 c さいきんの王国革命戦記

 一方、王と合流し城へと向かったオリヴァたち。

 こっちは膠着状態となっていた。


 あの後、王とオリヴァたちは抜け道から城に入ることに成功した。

 革命軍は王とエウリュスたちに引き連れられて、いつも国政会議が行われている広いホールへと到着した。

 広間には他の近衛騎士たちが控えていた。総勢36名だ。

 近衛騎士達は全員この茶番の協力者だったらしい。

 王は数名の近衛騎士に支えられながら、部屋の奥の玉座にゆっくりと腰を下ろした。

 他の近衛騎士たちは王の周りで待機に入った。

 オリヴァと彼女の連れてきた兵士たちも王座と入り口の間、普段アリスたちが国政会議の時に立っているあたりの床に思い思いに座り込んだ。

 もちろん、50人以上の人間が王を連れて城内を歩いていたわけだから目立たないはずが無い。

 王が「何事も無い」と言ったところで、その状況は唯一人城に残っていた公爵であるミンドート公の元へと報告されていた。

 やがて、広間の外が騒がしくなり始めた。

 革命軍の兵が立ち上がり扉に向かって剣を構えた。

 「陛下はご無事か!」外から大声が聞こえた。

 「健在だ!」革命軍の一人が大声で答えた。「だが、お前たちが扉を開けたら、その限りではない。」

 扉の外の喧噪が止まった。

 そして、しばらくしの沈黙の後、再び扉の外から大声がした。

 「要求があれば聞く。話し合おうではないか。」

 「我々は、アリス殿下を擁立し新しいファブリカ王国を望む革命軍である!」オリヴァの連れてきた兵士の一人が外に向かって大声を張り上げた。「我々の目的は現狂王の処刑とその後のアリス殿下の即位なり!貴殿らに我々の望むものは与えられぬ!要求があるとすれば王の処刑台である!」

 「お前たちがヴェガ王を殺せば、その時がお前たちの最期だぞ!」扉の外から声が上がった。

 「明日の朝までは殺さない。」革命軍の兵士が言った。「国民たちが目を覚ましてから、処刑を断行する。」

 「そんなことをして、無事で済むと思うのか。」

 「明日の朝には我々の仲間によって狂王の処刑とアリス殿下の即位の報が町中に流れる手筈となっている。」兵士が言った。「その時に、狂王を誅した我々をお前たち貴族が殺していようものなら、国民が黙っていないぞ!」

 そんなことまで準備していたのか。自分の耳には入ってきてない。もしかしてブラフだろうか?

 扉の外からざわめきが聞こえた。

 「そんなことはさせぬ!」再び外から大声が聞こえた。ミンドート公の声だった。「その噂が流れる前に陛下を助け出し、お前たちを殺して、国家転覆を試みる逆賊は死んだと広めてくれよう。」

 「できるものならやって見せよ。王は人質として我々の手の中にある。さらに、近衛騎士達もこちらの味方にあるのだ。」

 扉の外に再び沈黙が流れた。

 「諸君らが、ヴェガ王を殺害せしめれば、アリス殿下はお前たちを逆族と認めようぞ!」ミンドート公の声が響いた。「親を殺されし子がその殺害犯になびくと思うなよ!」

 ミンドート公の言葉を聞いた革命軍たちに動揺が広がった。

 今度は広間のほうが沈黙に陥った。

 今まで受け答えをしていた革命軍の兵士がオリヴァを振り返った。目が泳いでいる。

 「心配するな。」そう答えたのはオリヴァではなく王だった。「アリスは感情で民衆の正義と信念を無にする子ではない。予の罪状をミンドート公に並べ立てるが良い。」

 革命軍の兵士は頷いて扉のほうを向いた。

 「狂王は、ワルキアのごとき貴族共を野放しにし、此度の凶行をも防ぐことはしなかった。さらにはアリス殿下の王位を剥奪し、軟禁することでこの国に騒乱を大きくする始末。多くの国民が苛斂され、二つの村で暴虐の限りがつくされた。さらには王のせいで王都の周辺で戦争さえ起こっている。」兵士は声高に言った。「そのような王を誅すことは正義である。そして、アリス殿下は正義と共にある。我々は王を誅し、アリス殿下をお救いするのだ!」

 アリスならどうするだろうか。

 もしこの場に駆け込んできたアリスが父王の亡骸を見たとしたら。

 王が言うように、アリスは皆のために自分の感情を殺すのだろうか。

 「ふむ。上出来だ。」兵士の宣言を聞いた王は満足そうに呟いた。

 ホントに何がしたいんだよこいつは。

 手の込んだ自殺なら、一人で勝手にやってくれ。

 ていうか、これ、どうしたら良いのだ?

 本当に抱える頭がないのは不便だ。


 部屋の扉の前の大廊下ではミンドート公も頭を抱えていた。

 「奴らはなんのつもりなのだ?」

 「王女殿下の王位を剥奪して軟禁したのがやり過ぎだったのでしょう。」ミンドート公の隣に居た貴族が言った。

 「あの小娘は軟禁なんぞされとったか?」

 「一応、謹慎という事だったはずですが。」

 「ノワル中を駆けまわっておったし、私とも何度か会談したぞ?」

 「さぁ?」貴族は言った。「最近は、王女殿下の護衛にしろ見張りにしろ、誰も真面目にやりませんからね。」

 ちょっと待て。

 それはそれで聞き捨てならん。

 「しかし、かなり困った。」ミンドート公は嘆くように言った。「王を助ける手段がない。」

 「いっそ、王の事は諦めて、反逆者の処断に注力するのはいかがでしょうか?」貴族が強硬策を提案した。「もはや、面子の問題なのかもしれません。」

 「今は無理だ。王家の面子のために市民を手にかければ王都そのものが蜂起しかねん。」ミンドート公が言った。「奴らが『国民が黙っていない』というのは言うに的を射てるのだ。それほどまでに今の王家の威信は地に落ちてしまった。」

 「確かに、アリス殿下を解放するとうそぶいて乗り込んできた者たちを処刑すれば、今度は我々がやり玉にあがるかもしれませんな。」

 「アキア小麦の件にしろ、この間のヌマーデンの件にしろ、ノワルの件にしろ、あの王女の人気は最近凄まじいからな。」

 「王都の市民たちの間に限れば、アミール殿下の入り込む余地はございません。」

 そんなことになってたのか。

 アリス、最近頑張ったからな。

 自らドブ攫いしたり、アキアで農業したり、一人果敢に暴動を押しとどめたり。

 ようやく直接アリスと関わらなかった人たちにもアリスの頑張りが認められた。

 ちょっと嬉しい。

 「市民共はあの王女の外面しか知らんからな。」ミンドート公は言った。

 あんだけアリスが頑張ったってのにその見解はちょっとあんまりじゃ・・・いや、うーん、くそう。心からは反論できん。

 「アリス殿下に革命軍とやらを説得してもらうしかないか。」ミンドート公が眉間にしわを寄せた。

 「それは妙案にございます。アリス殿下の口から逆賊に従う意志は無いと宣言すればあるいは何とかなるかもしれません。」

 「夜更けに悪いが、アリス殿下にこちらに来て貰おう。」

 ミンドート公はそう言うとアリスの搭に伝令を飛ばした。

 しばらく時間が経ってから、伝令は一人で戻って来た。

 「また、どこかほっつき歩いてて捕まらんのか!」伝令がアリスを連れてこなかったのを見て状況を察したミンドート公が伝令が口を開くより前に叫んだ。「こんな夜中にか!?あいつ、王女だぞ!?」

 ホント、返す言葉が無い。

 「ほっつき歩いているのはその通りですが、居場所は判明しております。」伝令が言った。

 彼は、ウィンゼルによって解放されたカルパニアたちから、アリスの向かった先を聞いていた。

 「場所が分かってるなら、何故連れてこん!」ミンドート公が伝令を叱りつけた。

 「それが、王国軍を助けると言ってノワルの警邏を引き連れて戦場に行ってしまったそうなのです。」

 「な!?」ミンドート公は驚きの悲鳴を上げて立ち上がった。「兵でもない女子一人が戦場に行って何ができるというのか!?」

 敵騎兵の小隊を半壊させて、局面をひっくり返してましたな。

 「アリス王女は無事なのか!?」ミンドート公は取り乱して伝令の両肩をつかんで揺すった。

 「わ、わかりません。」

 「ば、馬鹿な。」ミンドート公が崩れ落ちた。「あの小娘は毎回毎回毎回毎回・・・」

 マジ、ごめんなさい。

 「まずは、急ぎ王女の確保を。広間の連中の警戒は薄くしてもかまわん。」ミンドート公は貴族に命じた。「万一、あの小娘が戦場で野垂れ死にでもしようものなら、それこそ状況がどう転がるか分かったもんではない。」

 確かに、この状況でアリスが死にようものなら、オリヴァたち革命軍の存在は一体何なんだ?って事になる。

 「アリス殿下・・・無茶をしてくれるなよ・・・。」ミンドート公は誰にともなく呟いた。


 そんなこんながあって、城の中は膠着状態に陥っているわけだ。

 ミンドート公たちは王を人質に取られて手が出せない。

 というか、それ以前に、近衛騎士たちが向こう側についてしまったので敵わないのだ。それこそ、煙で燻り殺すとか、扉を外から固めてしまって餓死に追いやるとかしないと勝てないそうな。

 何の進展も無いまま、時間だけが経過した。


 そして、宵闇深まり、街が静まり返えった頃、ようやくアリスが到着した。


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