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10-11 b さいきんの王国革命戦記

 アリスは単騎、敵の軍勢のど真ん中を突っ切ろうと特攻をかました。敵軍を前に一切スピードを下げなかった。むしろ上げた。

 800人相手だぞ!?

 無理だろ!

 アリスは丸太ではなく、以前ヘラクレスとの決闘の時に使用した刃に持ち手がついただけの武器を装着していた。

 アリスの左手の甲から刃がにょっきりと生えているように見える。どっちかというと正義の側の武器じゃない気がする。

 野犬を走らせて前に割り込ませようとするが、いかんせんアリスの馬のほうが速い。

 ついに群がるようにアリスに向かって来た敵軍にアリスが接敵してしまった。

 と思ったら、あっという間に3人の手から得物が落ちた。

 すれ違いざまに相手の腕を斬って行くのだ。

 しかし、この人の厚みでは馬は簡単には突き抜けられない。アリスの馬は徐々にスピードを落としていく。

 アリスの馬はしばらく進んだあと、よりによって軍勢の真ん中で停止した。

 「ちっ!馬が無理かっ!」

 馬じゃなくても無理だよっ!

 アリスは舌打ちしながら、攻撃してきた左右の敵兵の手首を切り払った。

 野犬たち!頼む!!

 「殿下を守れ!」後方でアープが叫んだのが聞こえた。

 味方達も遅れてアリスのもとに追いすがろうとしているが、敵兵に阻まれてアリスの近くまでなかなかたどり付けない。

 孤立したアリスだったが、アリスの武技は敵を一切寄せ付けなかった。それはまさに鬼神のようだった。

 しかも、アリスからは攻撃しない。

 相手が振りかぶったのを見てから、次々と、その振り上げた腕の腱を狩って行く。

 殺さずかよ・・・。

 これほどなのか。アリスって。

 それでも、群がる兵士全ての攻撃を凌げるわけではない。

 いくつもの血がアリスの肌に滲んだ。

 そして、ついに馬がやられた。

 馬の転倒に巻き込まれないよう、アリスは地面に自ら転がると、立膝をついた。

 まずい!

 アリスっ!

 アリスが転がったちょうどその先に居た兵士が待っていたとばかりに、アリスに向かって剣を振り降ろした


 振り降ろされた剣が左目に突き刺さった。


 ネオアトランティス!


 飛び出してきたネオアトランティスがアリスの前に立ちふさがったのだ。

 そして、左目を貫かれた。

 ネオアトランティスは左目に剣を受けた勢いで弾き飛ばされ、地面に叩きつけられた。

 アリスは素早くネオアトランティスに剣を突き刺した兵士のひじの辺りを貫いた。

 男の手は完全に力を失い、だらりと垂れ下がり、剣を落とした。

 「ネオ!」

 「クケェッ!!」

 ネオアトランティスが、地面に身を起こして、自分は大丈夫だとばかりに羽を広げて、アリスに行けとジェスチャーした。

 ネオアトランティスが踏まれないように野犬を駆けつけさせて周りを守る。

 アリスがネオアトランティスに気を取られたのを見て、敵兵たちが一斉にアリスに向けて襲い掛かった

 「今だ!かかれ!!」

 アリスは、沈み込むように低くしゃがむと低い姿勢のまま左手の刃を円を描くように振り払った。

 何かの手ごたえを少しだけ感じた。

 途端に、前方の敵兵たちが小さな悲鳴を上げながら崩れるように倒れた。

 アリスは今の一閃で二人の敵の膝の関節の隙間から剣を刺し入れ、彼らの膝の裏の腱を切断したのだ。

 続く踏み出しで、崩れ落ちる敵兵の間を駆け抜けるアリス。

 敵の一人がやみくもにアリスの服の端をつかもうとしたが、その瞬間に彼の親指は宙を飛んだ。

 自分もリストから周辺の【感染】兵士に乗り移り、次々と【パラメーター操作】と【嘔吐】を仕掛けていく。

 「頭領!!」アープと何人かのジュリアスの騎士たちがアリスに無理やり追いついてきた。体中傷だらけだ。

 「血路を開け!!」アリスに追いついた騎士たちが叫び前に飛び出していった。

 「アリス殿下を守れ!我々で食い止めるんだ!殿下の元へ行かせるな!命を晒せ!!」後方からは商人たちを鼓舞するミスタークィーンの大声が聞こえる。

 アープたちの強引な突撃により、アリスと敵の間に少しマージンが出来た。

 「ネオ!」アリスがネオアトランティスのほうを振り返るが返事がない。

 大丈夫だ。ネオアトランティスの意識はある。【操作】でネオアトランティスに逃げろと指示を出す。

 と、

 アリスの横にジュリアスの配下の騎兵が止まった。

 「アリス殿下、私達が道を作ります。」彼は馬から降りるとアリスに自分の馬を渡した。「先に進んでください。」

 彼には見覚えがあった。彼は昔アリスの搭を警護していた兵士だ。

 「でも、あなたの馬は・・・。」

 「私は殿下とヘラクレス様の戦いを間近でずっと見ております。こんなところでやられる程弱くはありません。」彼はアリスの言葉を遮って言った。「早く父陛下の元へ!」

 「ランスロット=ウェリディア。感謝する!」アリスは彼の馬にひらりとまたがった。「お願い。生きて。」

 「身に余るお言葉!」彼はアリスが名前を憶えていてくれたので驚きと喜びに満ちた笑顔で頭を下げた。

 「殿下!少しでも向こう側にお届けいたします!」アリスの前方に立ちふさがるように馬を置いていたアープがアリスに向けて叫んだ。

 「分かった。恩に着る。」

 「後方はお任せを!」ランスロットがそう言ってアリスの後方に向けて剣を構えた。

 「無理はしないで!」

 アープと騎兵たちが無理やり馬を前方に進め始めたため、アリスは振り向くことも無くランスロットにそう告げるとアープを追って馬を走らせた。

 アリスとアープに先んじた騎士たちが前方の敵兵たちを蹴散らしていく。

 分厚い敵の軍隊に少しだけ亀裂が入った

 その亀裂を押し広げるようにアリスたちの一団は進んで行く。

 敵は軍の歩兵と違って大きな盾を構えているわけではないし、きちんと隊列を組めているわけでもなかった。

 だが、数が多かった。

 彼らには陣形も何もない。ただ、アリスを通さないためにどんどんと群がってくる。

 アリスの前の騎兵たちは片っ端から敵兵を蹴散らしてというわけにはいかない。

 目の前に一人出てくる度に、その兵を倒せようが倒せまいが馬は歩みを遅くする。馬の足が止まれば、さっきアリスがされたように馬が落とされる。

 先頭の騎兵の馬が止まり騎士が落ちた。

 それを追い越して、二番目の騎兵が前方を馬でこじ開ける。無理やり突っ込んだ騎兵はすぐに囲まれた。

 騎兵たちはここで馬を使いつぶしてでもアリスを軍の向こうへ抜けさせるつもりだ。

 野犬軍!少しでも彼らの両サイドを援護してくれ!!

 人に囲まれた状態で馬を自由に操るのは至難なのだろう。次々と先頭に立った騎士たちが落とされていく。

 しかし、馬が落ちるたびに次の騎士が先頭に飛び出して、5m、10mとアリスたちは前に進んで行く。

 「みんな!無茶はしないで!!」悲鳴を上げるかのようにアリスが叫んだ。

 「あと少し!」残っていた二人の騎士が同時に突貫を始めた。

 「頭領。参ります。」アープが振り向くことなくアリスに声をかけた。

 アリスの進行を邪魔するかのように前を塞いでいたアープの馬が一気に速度を上げた。

 アープの馬は二人の騎士がこじ開けた隙間を縫うように大きく前に進み、幾人かをはねた。アープの馬は前のめりに倒れ、アープ自身も前方に投げ出された。しかし、彼は投げ出されながらも、なお転がるようにして剣を振り回し、アリスへの血路を切り開いた。

 「生きてっ!」アリスは叫んだ。

 アープの横をアリスの馬が駆け抜ける。

 目の前にはあと数人しか居ない!

 アリスは敵兵の間をすり抜させるかのように馬を加速させる。

 抜けた!

 ついに軍勢を抜けた!

 そう思った瞬間、

 敵兵の一人が横から飛び出してきた。

 彼は走っている馬に向けて剣を構えたまま捨て身の体当たりを敢行しかけてきた。

 思わぬ不意打ちと、向けられた刃から身を守るため、馬が急ブレーキをかけて後ろ立ちで仁王立ちになった。

 鞍上のアリスが大きくバランスを崩す。

 アリスに間を突破されようとしていた敵兵たちが、バランスを崩したアリスに狙いを定めた。

 前足を高く上げていなないている馬の鞍上で後ろへ投げ出されようとしているアリスには、迫りくる敵兵が上下逆さまに見えた。

 ここで落馬したらまずい。

 たとえ助かっても、馬が無くなる。

 野犬!急いで!

 間に合わない!?

 誰かっ!

 アリスが馬を跨いでいた脚に力を入れて馬の背を締め付けた。

 続いて、アリスは手綱を手放すと、いななき立っている馬の背に背中から反り返るように垂れ下がったまま、脚の力だけで身体を支えた。

 そして、左から襲い来た敵の剣を刃ではじき飛ばし、その慣性を利用して身体をひねり反対側を向くと、今度は右から振り下ろされようとしていた剣の腹を何も持っていない右手で払い飛ばした。

 ゆっくりと処理された一つ一つのアリスの行動はすべて一瞬の出来事だった。

 後ろ足で立ち上がっていた馬が再び前足を地につける。

 その反動を利用してアリスは体勢を起こし、右手で手綱をつかんだ。

 だが、無事立て直したと思った瞬間。

 アリスの視界に、正面から突撃してくる敵影が映った。

 さっき横から飛び出してきた兵士だ。

 ペケペケだった。

 「落ちろっ!小娘!」

 ペケペケの刃はアリスの馬の首を正面からまっすぐに狙っていた。

 その位置はアリスからじゃ届かない!

 瞬間、アリスの左手が一閃した。

 アリスは左手の武器を放り投げたのだ。

 武器は宙を飛び、半回転してペケペケの右手に突き刺さった。

 「ぐあぁっ!」悲鳴と共にペケペケは武器を落とした。

 アリスは自分の前に立ちふさがった敵が何者であるかすらを認識することも無く、馬に鞭を入れた。

 もう前に脅威は居ない。

 アリスの馬は駆け出し、戦場を後にした。

 ペケペケは膝をついたまま頭を上げると、悔しそうに走り去るアリスの後ろ姿をじっと睨み続けた。

 次こそは。

 そう背中が語っていた。


 でも、ダメだね。


 お前はここで死ね。


 大きく口を開けた野犬がペケペケの後ろから飛びかかり、その首ねっこを噛みちぎった。


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