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10-11 a さいきんの王国革命戦記

 ネオアトランティスがアリスの元へと到着したのは、オリヴァたちが王と合流してから5時間ほど後だった。

 ネオアトランティスが到着した時、アリスはジュリアスたちといかに革命軍に被害を出さないように活用し戦局を有利に進めるかの談義中だった。

 日はすでに傾いていたため、この日の野戦の可能性は廃され、夜襲に対する備えと明日の戦いの進め方についてが話し合われていた。

 ミスタークィーンが本物かどうかは埒が開かないまま棚上げされていた。

 ミスタークィーンは捕縛されたりはしていなかったのだが、自陣に戻る様子も無く、アリスの後ろに付き従って事あれば王城に戻るように囁いている。

 いつものアリスなら一発ぶっ飛ばしてるくらいのしつこさだったが、アリスは完全に無視を決め込んだ。

 アリスとしても、どうやら本物らしいこのミスタークィーンが自分の身も顧みずあまりにも嘆願するものだから、どう扱ったものか困っているようだった。

 そんな折りにネオアトランティスがアリスの元へと到着した。

 「ネオアトランティス!?」アリスは突然アリスの前に降り立ってきたネオアトランティスに驚いて叫んだ。

 暗闇とはいえどアリスが馬で10時間以上かかった道のりを、5時間ちょっとで駆けつけたネオアトランティスは翼で大きく息をしていた。

 「オリヴァ、大変!オリヴァが大変!」ネオアトランティスは真っ先に要件を話し始めた。「脅迫されているのかも?ン?脅迫?脅迫とは?」

 「脅迫っていうのは、誰かを脅していう事を聞かせることよ。」アリスはネオアトランティスにそう教えるとミスタークィーンを振り返った。「ミスタークィーン!あんたも何か脅されているの?」

 「答えられません!!」ここぞとばかりにミスタークィーンがうれしそうに即答した。

 くっそ。

 王の奴、何をたくらんでる?

 アリスに伝えてくれ!ネオアトランティスよ!王が今回の事を企んだのだ!

 「王が、たくらんでいる。この国の転覆。オリヴァが、王を捕らえた。」

 「本当!?」アリスはネオアトランティスを見た。「オリヴァが父上を捕らえたっていうのは本当なの!?」

 王が黒幕ってところはスルーされたか。王がオリヴァを操って王を捕らえさせたんだ!

 「そう!!王、オリヴァ、陰謀、巻き込まれた!王!」

 ええぃ、肝心なところで。もっと流暢に説明せんかい、この知的生命体!

 アリスが驚きの顔でネオアトランティスを見つめるアリス。

 「うそでしょ。」

 「ほんとほんと!オリヴァ、王危ない!急げっ!」ネオアトランティスが騒ぐ。

 「アリス殿下!お願いです。王都へとお急ぎください!」ミスタークィーンもここぞとばかりに前に進み出てきた。「ネオアトランティスの言っていることは本当でございます。我々の計画通りに事が進んでしまっています。このままでは王の命が危ない!」

 アリスはジュリアスを見、ミスタークィーンを見て言った。

 「・・・分かったわ。」アリスはジュリアスを見て言った。「馬を一頭貸して。行く。」

 「アリス、王都までの道中に革命軍が陣取っているんだぞ?一人であの軍勢を抜けていくつもりか!?」

 「ええ。」

 「騎兵を50付ける。」ジュリアスは言った。「馬にはまだ余裕がある。こっちは心配するな。」

 「ジュリアス殿下。もし馬が余っているのでしたら、我々にお貸し願えないでしょうか。私に贖罪のチャンスを頂きたい。」ミスタークィーンがジュリアスに頭を下げた。「我々の集まりには商人が多くおります。馬ならばそれなりに乗ることは出来ましょう。」

 「お前たちに武器は扱えぬだろう。」

 「おとりとなったり、攪乱したりくらいはできるかと存じます。」

 「・・・・・・。」ジュリアスはかなり悩んだ様子だったが答えた。「信じるぞ?」

 「命に代えましても!」ミスタークィーンは頭を下げて誓った。そして、珍しく少し興奮して続けた。「父娘がこのような終わりであって良いはずがないのです。突然の別れなど、絶対に許しませぬ!!」

 「ごめん、大事な時に。」アリスは興奮気味のミスタークィーンは無視してジュリアスに頭を下げた。「少しの間だけ馬を借りるわ。」

 「返さないでいい。使いつぶせ。」ジュリアスは答えた。「その代わり生きて陛下の元へ。」


 そして、日の沈む少し前、夕焼け鮮やかな空の下。

 アリスと、ミスタークィーンとアープたち素人騎士25騎、ジュリアスの選抜した50騎、そして、その後をこっそり野犬部隊60匹。

 総勢80足らずと60匹がペケペケ率いる800の軍勢に向かって走り出した。

 「ミスタークィーン!無理はしないで!」馬を駆りながらアリスは言った。「あんたは後でいろいろとっちめるから死んじゃダメよ!」

 「有難きお言葉。」馬上のミスタークィーンは答えた。「されど私には果たさねばならぬデューティがございます。アイ・ゴウン・マイウェイとさせていただきます。」

 「はっ!調子出てきたじゃない。」アリスは笑った。「みんなも無理しないで!私は意地でも突破するから。」

 「命に代えても、この軍勢を切り開いてみせます。」アープが言った。

 「だから無理すんなっつってんの!」アリスが思わずアープを叱った。

 「アリス殿下。」ミスタークィーンが言った。「私には娘がおりました。」

 「なによ?唐突に。」

 「娘は病気で死にました。良くある話です。」ミスタークィーンは続けた。

 「・・・。」アリスが突然のミスタークィーンの告白に眉をひそめた。

 「まさか再び会う事が出来ないとは露ほども思わず、娘とはケンカ別れでした。ケンカしたまま別れるなどいつもの事でしたが、私はそのことを未だに後悔しております。」ミスタークィーンは言った。「せめて、互いに最期だと分かったうえで別れたかった。私は娘が居てくれてどれだけ幸せだったかを伝えたかった。」

 アリスは何も返事を返さない。

 「アリス様。」ミスタークィーンは言った。「私はあなたと共に歩めて本当に幸せでございました。私はあなたが後悔のない道を進むよう願っております。」

 「あんた、唐突に何なの?」

 アリスが怪訝そうにミスタークィーンを振り返った瞬間、アリスたちに気がついた800の革命軍から大声が上がった。

 「王女だ!」

 「王女が尻尾を巻いて逃げたぞ!!」

 「王女を殺せ!あれさえ殺してしまえば、ハリー共に正義を語る余地はない!邪魔する阿呆共々も皆殺しにしろ!」たぶんペケペケの声だ。「お前たちの好きに処理してかまわん!!」

 ペケペケ率いる800の部隊がアリスたちの行く手を遮るかのごとく乱雑に動き始めた。

 「アリス殿下を守れ!我々の希望の光だ!」ミスタークィーンが声を上げた。商人上がりの騎兵たちが時の声を上げ、それに続いて、ジュリアスからの50騎とアープたち十数騎が声を上げた。

 自分も野犬軍を少しでも盾にしようと、彼らにアリスと革命軍の間に割り込むように命じた。すまない。ここで死んでくれ。

 「王女を守れ!」ミスタークィーンがアリスの前を守ろうと馬の速度を上げた。

 が。アリスがそれ以上に馬の速度を上げた。

 アリスは自らの力で血路を切り開くつもりのようだ。


 アレ?


 今、アリスが狙われている。


 狙われている?

 何でそう思った?

 いや、絶対に狙われている。

 間違いない。

 どこから?

 あそこか!

 革命軍から少し離れた茂みの陰でアリスを狙っていた【感染】者に急ぎ意識を移す。

 そこには今まさにアリスに弓引かんとする兵士が居た。

 パラメータを開き、一気にDEXを下げる。

 矢はあらぬ方向に飛んでいった。

 あぶねえ!

 アリスを狙っていたのが【感染】者だったから解かったのか?

 【感染】者ってこんな使い方もあるのか。

 こいつは農民ではなくペケペケの雇った人間だろうか?とりあえず【嘔吐】で少しの間無力化する。

 アリスに戻ると、目の前には革命軍の厚い壁が立ちふさがっていた。彼らは鍬や鋤ではなく、見た感じ安物なれど武器と鎧を装備していた。

 アリスはこれをどうかわすつもりだ?

 まさか、中央突破なんてしないよな。

 野犬の配置を考え始める。

 「あんたたちは離脱なさい!」アリスが後ろについて来ている味方に振り返ることも無く声をかけた。「少しだけおとりになって敵を引きはがしてくれるだけでOKよ!」

 そう言ってアリスは、あああああ!!

 正面から突入しやがったぁあああ!

 おバカっ!!

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