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10-10 d さいきんの王国革命戦記

 扉の向こうにはエウリュスが立っていた。

 黒幕はエウリュスだった。

 エウリュスはオリヴァたちを操って、クーデターを起こすつもりなのだろうか?

 そうだとしたら、完全に騙された。

 エウリュスは貴族に対しては従順なただの馬鹿だと思っていた。

 だから、彼に対しては何一つ注意を払っていなかった。

 よもや、アキアで見た王やアリスへの異常なまでの信仰は、彼の企てを隠すためのブラフだったのかもしれない。

 王がエウリュスをアキアに行くアリスに同行させたのも、もしかしたら、王都から厄介払いするためだったのではなかろうか?

 戦場はとりあえず放置だ。

 ジュリアスの陣地ではアリスとミスタークィーンが相変わらず揉めているし、バゾリたちにも動きがない。

 今は自分にできることをやらないといけない。

 オリヴァに王を殺させるわけにはいかない。

 オリヴァ自身もそうしたくは無いように見えた。

 王都に居る戦力は、ネオアトランティス、ウィンゼル、そしてネズミ軍だ。ゴリーズもめっちゃ居るが、絵面的にこいつらはできる限り使わん。

 ウィンゼルにはグラディスたちを助けさせよう。ロープを噛み切るか、それが出来なければ誰かウィンゼルの事を知ってる人間を搭に誘導しよう。

 ネオアトランティスはアリスに飛ばす。ミスタークィーンの言うようにアリスは王城に来るべきな気がする。

 ネオアトランティスにカゴから脱走してアリスの元へ向かうように【操作】で促す。

 カゴをくちばしで器用に開けたネオアトランティスはアリスの部屋の扉も開け、塔の一階の開いていた扉から飛び立って行った。

 ネオアトランティスは間に合うだろうか?

 エウリュスと近衛騎士隊が反逆を企てていたとして、ミスタークィーンとオリヴァは脅されて無理やり加担させられているかのように思える。

 オリヴァとミスタークィーンの言葉や行動の節々に、彼らがこの騒動を願っていないことが垣間見える。

 オリヴァとエウリュスについてはいつでも何とでもできる。問題ない。

 彼らには【感染】済みだから【嘔吐】させることは可能だし、細胞数がそれなりの数だから気絶もさせられるはずだ。【パラメーター操作】の効きも良い。

 問題は、残りの50人の革命軍と二人の近衛騎士だ。

 オリヴァ以外の革命軍には運悪く【感染】者が一人もいない。近衛騎士についてもそうだった。

 でも一応、彼らについても、こちらが本気でやろうと思えば無力化することは可能だ。

 城にはノロイ率いるネズミ軍団が控えている。

 少なくない。王都全体には【操作】可能なネズミ軍は実のところ8000匹くらいいる。

 レベルは26とアキアの時からひとつしか上がっていないが、【管理】の使い方が解かったおかげで、ネズミに限らず【感染】者が甚大に増えているのだ。

 リストに合計数が出てくれないので正確な数字を把握できてはいないが、王都周辺で2万を越える【感染】者が居ると思われる。

 今この王都で一番強いのは自分だと言っても過言ではあるまい。

 自分の気まぐれで、王都を大パニックに陥れることだって可能だ。

 正直笑えない。

 オリヴァから様子を覗きながら、ネズミたちをエウリュスたちクーデター部隊が向かっている方向の下水網に誘導する。

 場合によっては非情な手段で止めることも厭わない。

 だが、今すぐではない。

 まだ、全容が見えていない。

 何故、エウリュスはこんな事をした?

 何かしらの恨みつらみや損得があるのかもしれないが、だったら何故、わざわざミスタークィーンとオリヴァを巻き込んだんだ?

 その先にアリスがあるからだ。

 この推測は間違いない。ミスタークィーンはわざわざアリスの名前を出して農民たちを扇動した。エウリュスはアリスを巻き込みたかったのだ。

 なぜだ?

 まさか、アキアで散々アリスにコケにされたから?

 ・・・。

 いやいやいや!

 あってたまるかそんな話。

 エウリュスは何らかの理由があって、アリスをこの騒ぎに巻き込んだ。

 アリスを巻き込んでエウリュスになんの得がある?

 いや、逆に、アリスがこの件に巻き込まれて得なのはエウリュスなのか?

 エウリュスのさらに向こうに誰かが居るのでは無いだろうか。

 王が倒され、アリスが革命軍によって王に祀り上げられる。

 その状況が都合の良いのは誰だ?

 アリスか!

 んなわけあるか!!

 アリスの他に誰かいるんじゃないか?

 アリスが王になることが都合の良い誰かが。いや、アリスが王を倒すことが都合の良い誰かが。

 アリスはミスタークィーンとの言い合いの中で『簒奪』という言葉を使っていた。

 アリスに簒奪者となって欲しい誰かが居るのではないのだろうか。

 ・・・居るな。

 エウリュスたちはギリギリまで泳がせよう。

 何かがつかめるかもしれない。

 場合によってはそこでまとめて仕留める。

 オリヴァとエウリュスは貴族街の一番外れに建っている大きめの屋敷に到着した。

 一人の老婆が現れてエウリュスたちを屋敷に迎え入れた。

 屋敷は殺風景で、建物のいくつかの部屋に灯りはつけられていたものの、老婆以外が居る気配を感じなかった。

 エウリュスたちは屋敷の奥の部屋に案内され、壁にかけられた一つの大きな絵画の元へとたどり着いた。

 一人の女性が剣を掲げている絵だった。なんとなくアリスに似ている。

 エウリュスと一緒に来ていた近衛騎士たちが胸に手を当てて絵に向かって黙礼をささげた。

 その後、エウリュスは絵画を両手で持って右にスライドさせた。すると、人が一人通れるくらいの通路が出現した。

 城への隠し通路だ。

 エウリュスが最初に隠し通路に入って行った。その後を近衛騎士たちが続く。そして、オリヴァたちが後を追った。

 彼らの行動を見ていると、エウリュスがオリヴァを脅しているという図式が成り立っていないように見える。

 エウリュスはオリヴァたち革命軍が裏切ったり逃げたりすることを恐れていないようだ。

 むしろ、近衛騎士たちの動きはどうぞ逃げて欲しいと言わんばかりにさえ見えた。

 隠し通路の先は下り階段になっており、降りて行くと小さな部屋があった。

 入り口と反対側の壁に先に続く通路が続いているが、その先は真っ暗で何も見えない。

 薄暗い部屋の中で彼らは松明に火を点け始めたため、少しだけ時間ができた。

 どのみちここからだと城までは30分はかかるだろう。道がまっすぐでなければもっとかかる。

 今のうちに少しアリスたちを覗くことにした。


 視点を移すと、アリスは城に行くように懇願するミスタークィーンを無視して、ジュリアスとこの先の会戦の展開について話し合っていた。

 まだ、日が沈むまではたっぷり時間がある。

 いつ戦闘が始まってもおかしくない状況なのだ。

 実のところバゾリは今日はもう戦闘を仕掛ける気はないのだが、そんなことアリスたちに判ろうはずがない。

 アリスたちが地面の小石を兵に見立てて兵の動きを視覚化しながら話し合っていたところに、伝令が駆けつけてきた。

 「ジュリアス様、報告にございます。」

 「どうした。」

 「平民軍の別動隊が到着。東側、我々の左後ろを狙うあたりに、布陣しようとしています。」

 「王都への退路か。めんどくさい位置に陣を取られたものだ。」ジュリアスは言った。「バゾリたちの動きはどうだ?どういう応対をしている?」

 「それが・・・反乱軍は一切動きを見せません。」伝令が答えた。

 「なんだと!?」ジュリアスが驚きの声を上げた。「布陣をまったく変えていないのか??」

 「はっ。」伝令が頭を下げて肯定した。

 バゾリ軍は東側にエンヴァイ達800の軍勢が布陣したにもかかわらず、一切布陣を変えなかった。

 それは、すなわち・・・

 「・・・平民軍は反乱軍と通じているというのか?」ジュリアスが眉をひそめて呟いた。

 「ミスタークィーン!」アリスがミスタークィーンを呼びつけた。「のニセモノ!」

 まだ、言っとるんか。

 「どういうこと?革命軍の過激派とやらは貴族が憎いんじゃなかったの?」

 「そ、そのはずでございます。エンヴァイがラヴノスの居る反王家軍に組するとは思えませぬ。」ミスタークィーンは答えた。言葉の節々に彼自身も驚いているのが感じ取れた。

 何があったんだ?

 早速、確認だ。

 ふっふっふ。

 実はこの間のミスタークィーンとの言い合いの時に、エンヴァイには【感染】成功していたりする。

 珍しく絶妙なタイミングでの【感染】成功だ。

 運が向いてきたというより、【感染】力が上がってきたのだろう。

 さっそく、リストからエンヴァイを選択して移動す・・・あれ?エンヴァイの名がリストにない!?

 え?もしかして、死んだ!?

 誰かエンヴァイ軍に【感染】者は居ないだろうか?

 【管理】の位置ソートを使用し、エンヴァイ軍が陣取ったあたりに居る【感染】者を絞り込んでいく・・・居た!

 早速、ピックアップされた人間の一人に視点を合わせてみる。

 エンヴァイ軍は一人の男の指揮の元、ちょうど布陣を敷き終えた所だった。

 その指揮を執っていたのは・・・。

 「我々は王女とジュリアスを倒さなくてはならない!!」ギョロ目の男がエンヴァイ軍に対して檄を飛ばしていた。

 ペケペケだぁああああ!!

 「王都に居る王はエンヴァイ様が片づけてくれる。数は少ないとて、機を選べば我々にも勝機がある。恨みつらみを思い出せ!我々がこの腐りきってしまった国に引導を渡そう!いにしえのファブリカの英雄のように我々が新たな国を興してもよいはずだ!」ペケペケは大袈裟に声を上げると、こぶしを高く掲げた。「腐りきってしまった王家に天誅を!我々が次の国の王者となるのだっ!!」

 「「「「おおおっ!!!!」」」」

 くそっ!

 革命軍の別動隊が完ぺきにアリスの敵という事が確定した。

 それどころか反王家軍の味方だ。いや、味方ではなくとも反王家軍に利するようにペケペケが誘導するはずだ。

 エンヴァイめ、散々アリスの事を陥れようと動いた結果、トマヤ達に良いように使われたのか。

 そもそも、彼がラヴノスと小麦取引をしていたのもペケペケかトマヤの手引きがあったからなのかもしれない。

 戦場は戦場で、アリスにとって良くない方向に動いていたのだった。

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