10-10 c さいきんの王国革命戦記
「オリヴァたちが国王陛下を処刑すべく、王城へと向かっているのです!」ミスタークィーンはとんでもないことを口にした。
「な、何を言っているの!?」今度はアリスが戸惑った。「あんた、自分の言ってる事の意味わかってる?」
アリスはジュリアスのほうを確かめるように見やった。
ジュリアスは困ったように首を横に振った。ジュリアスも、ミスタークィーンの突然の告白に驚きを隠せていないようだった。
「詳しいことは申せませんが、」ミスタークィーンは地面に顔面をつけたままで続けた。「オリヴァと一部腕に覚えのあるもの50人が王城に侵入し、現王を捕らえに向かっております。」
「この後に及んで未だ詳しいことは言えないとか申すか!!」アリスがミスタークィーンの頭をぐりぐりする。
「申し訳ございません!申し訳ございません!」必死に叫ぶミスタークィーン。「しかし、しかし・・・。」
「ばかばかしい。たかが50人で何が出来ようというのか。」今度はジュリアスが言った。「城にすら入れぬはずだ。」
「オリヴァは殿下の搭をくぐって城に向かうつもりでございます。」ミスタークィーンは嘆くように言った。「ああ、殿下が搭にいらっしゃれば、このバカげた行いを止めることができたかもしれないのに・・・。」
「カルパニアを巻き込んだのか!?」ジュリアスが怒声を上げた。
「いいえ。カルパニア様は、ジュリアス様の命によりアリス殿下を足止めしているつもりでおります。わたくしが名を語ったのです。カルパニア様は清廉潔白にございます。カルパニア様は私に騙されたのでございます。」ミスタークィーンは依然頭を踏みつけられたままで言った。
ジュリアスはミスタークィーンがカルパニアをかばうような物言いをしたので一気に毒気が抜かれた様子だ。
「私の名前を語ったことは、まだ謝っていないようだが?」一方、毒気の溜まりっぱなしの大魔王アリスはミスタークィーンを踏む足に力を入れた
「も、申し訳ありません。」
それにしても、土下座踏むの似合うな。
「カルパニアがオリヴァを引き入れると?」ジュリアスが心配そうな表情でミスタークィーンに訊ねた。
実は、今、この非常事態、搭には守りの兵が付いていない。
「いいえ、カルパニア様はこの計画には全く関与しておりません。誓って申し上げます。」ミスタークィーンは言った。「しかして、オリヴァとカルパニア様は顔見知りにございます。きっと戸を開けてくださることと存じます。」
「貴様!ニアに何かするつもりかっ!」ジュリアスが再び激昂して怒鳴った。
「カルパニア様にもグラディス様にも絶対に危害は加えません。オリヴァ達を通した事も咎められぬよう手配済みでございます。」と、ミスタークィーン。「我々の目的は王です。」
「貴族街まで入ったって、50人で何ができるって言うの?」今度はアリスが言った。「城の門を突破できるとも思えないし、近衛兵だけでも30人以上いるのよ。オリヴァが王に近づける訳がないじゃない。」
「城内に手引きをする者がいるのです。」ミスタークィーンは答えた。
「ばかな!」ジュリアスが驚いて声を上げた。
誰だ?
心当たりがない。
「あなた達は一体何がしたいの?」アリスが尋ねた。
「王を滅し、アリス殿下を擁立します。」と、ミスタークィーン
「王の交代はきちんと成されるべきよ。そんな簒奪みたいなこと絶対にさせない。」と、アリス。立場と台詞がかみ合っていない。
「時代の変わり目です。王と共にこの王国に溜まってしまった膿を排出する必要があるのです。」
「その考えをあなたに吹き込んだのは誰?」アリスが訊ねた。「一介の商人が考えることではないわ。」
「・・・申し訳ありません。申せませぬ。」ミスタークィーンは答えた。「この国のためです。」
そう言ったミスタークィーンがどんな表情をしているかは、土下座したままアリスに踏まれているせいで解らなかった。
「じゃあ、あなたを信じるわけにはいかない。」
「信じて頂かなくてもかまいません。しかし、王都にはお戻りください。」ミスタークィーンは顔面を地面に擦りつけたまま必死に懇願した。「お父上と今一度お話を!」
なんなんだ?アリスが行かないといけない何かがあるのか?
「解ったわ!からくりが見えた!」アリスが唐突に声を上げた。
アリスはようやくミスタークィーンの後頭部に乗せていた足をどけた。
「顔を上げなさい。」
ミスタークィーンはようやく土まみれの顔を上げてすがるようにアリスを見上げた。
「上手くやったつもりのようだけど、私は騙されないわよ。」
アリスはそう言うとしゃがみこんでミスタークィーンの顔を覗き込んだ。
「本当です。このままではオリヴァがお父上を殺してしまう。そうなる前に、せめてお顔だけでも!」ミスタークィーンは必死の眼差しでアリスに懇願を続ける。
「あんた、ミスタークィーンじゃないわね?」アリスは確信に満ちた顔でミスタークィーンに言った。「あんたニセモノでしょ?」
な、何だって!?
「本物のミスタークィーンはどこ?」
「私が本物にございま・・・」
「嘘!」アリスは断言した。「あなたが本物のミスタークィーンなわけがない!!」
ば、ばかな!?
ミスタークィーンに視点を移すとちゃんとこいつに行くぞ!?
「私の目はごまかせないわ!」アリスはミスタークィーンにドーンと指を突き付けた。「絶対にあなたはニセモノよ!!」
ミスタークィーンは目を見開いてアリスを見上げてた。
「だって、あなた、今までの話の中で一度も変なカタカナ言葉を使ってない!!」
そういや、この子、探偵やらせるとポンコツだった。
「・・・・・・。」
ドヤ顔でミスタークィーンを見下ろすアリスをあきれた顔で口を開けてしばらく見た後、ミスタークィーンは再び土下座した
「後生です。陛下の元へお向かい下さいませ!!
「ちょ、なんか答えなさいよ!」アリスはミスタークィーンにスルーされて声を荒げた。「私は騙されないわよ!」
戦場はアリスのせいで話が進まなくなってきた感があるので、今度はオリヴァに視点を合わせる。
オリヴァは本当にミスタークィーンが言っているような事を進めているのだろうか?
オリヴァの視界が入ってきた。
ここは、よく見おぼえがある。
残念だ。
視界に入ってきたのはアリスの塔の一階だった。
搭には、15人ほどの兵士がいた。いや、本当に兵士かは分からないが、武装をした人間たちだ。
畑のほうに向けてアリスが作った扉が開かれていて、外にもちらちらと人影が見える。搭の外側にも結構な数の兵士が待機しているようだ。きっと残りの35人なのだろう。
搭の中の何人かはアリスたちがいつも座っている椅子に腰かけてくつろいでいた。
そして、オリヴァの目の前にはカルパニアとグラディスが後ろ手に縛られて床に座らされていた。
「オリヴァ様」グラディスが言った。「こんな事をされてはアリス様が悲しみます。」
「どういうつもり?」カルパニアもオリヴァを睨んだ。「何をする気なの?」
「・・・・・・。」オリヴァは答えた。「私もこんな事をすべきかどうか、判断できません。」
「それなら・・・。」
「しかし、アリス様のためにも、今はこうするよりないのです。」グラディスが何かを言おうとするのを遮るようにオリヴァが告げた。その声は何故か辛そうだった。
思いもよらないオリヴァの反応にカルパニアとグラディスが顔を見合わせた。
「アリス様はいずこに?」オリヴァが訊ねた。
「この状況で友達を売るような真似するわけ無いでしょ?」カルパニアは言った。「グラディスも教えちゃだめよ!」
「・・・・・・。」グラディスが困ったようにオリヴァとカルパニアを交互に見た。
「ああ、」嘆くような声をオリヴァが出した。そして、カルパニアとグラディスに向けて哀願するかのごとく言った。「もし、もしアリス様が戻って来たら、伝えてください。」
今にも泣き出しそうなオリヴァは震える声で伝言を伝えた。
「どうか私たちを助けて欲しい、と。」
「オリヴァ様??」グラディスが心配そうにオリヴァを見つめた。
「あんた、そんな悲しそうな顔するんだったらこんな事止めなさいよ!バカなの?」カルパニアが叫んだ。「アリスだってこんなのいやに決まってる!あんただっていやなんでしょ!?」
カルパニアが大声でそう叫んだ直後、搭の貴族街側の扉がノックされた。
「城への迎えが来てしまったようです。」オリヴァが静かに言った。
ミスタークィーンの言ってた、オリヴァたちを手引きするって奴だろうか。
「オリヴァ!まだか?もう無理だ。これ以上は待てない。」扉の外から声が聞こえた。「城へ急ぐ!扉を開けよ!」
おい。この声・・・。
嘘だろ?
オリヴァは足取り重く扉へと向かうと、ゆっくりと扉を開けた。
そこには二人の近衛騎士を従えたエウリュスが立っていた。




