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10-10 a さいきんの王国革命戦記

 「完敗だ。」ジュリアスがうなだれた。

 「騎兵の数では並びました。左翼での戦いは作戦通りに行きましたし、バゾリ候を下がらせたのですから良しとしましょう。」軍師がジュリアスを元気づけた。

 「バゾリは布陣を敷き直すために引いたのだ。」

 「歩兵ですね。」軍師が訊ねた。

 「そうだ。バゾリは横に長い戦線を敷くつもりだ。さすがに、3倍の歩兵差は対応が出来ない。」

 そうか。

 今日は歩兵の真ん中を抜かれたせいでこちらの歩兵の消耗が大きい。

 バゾリは歩兵だけでこっちの軍の歩兵を包囲できるということか。

 「今から騎兵を出して、相手側が広い戦線を作れないように両翼を牽制する手もありますが・・・。」

 「それこそ騎兵を叩いてくれというようなものだ。」

 ん?まてよ。

 相手が横長に陣を張りづらくするだけなら野犬部隊でもできるな?

 もう60匹ちょいしかおらんが、かき回すだけなら何とかできるかもしれない。

 「いよいよ革命軍とやらをあてにしないといけな。」と、ジュリアス。

 「会戦はもう無理かもしれないですね。」

 「革命軍が来るまで彼らを如何に足止めをすることを考えないといけない。」

 「今日中に仕掛けてくるでしょうか?」

 「おそらく。仕掛けてくるだろう。」ジュリアスはすこしだけ眉をひそめた。「革命軍とやらの到着までに我々とのケリをつけておきたいはずだ。」

 足止めは自分に任せろ!

 陣を張らせなければ、バゾリは攻めては来れないってことだよな。

 細く長い陣を敷こうとするのであれば、両サイドに来る兵士もそこまで多くないはずだ。少ない犬たちでも何とかなる。

 革命軍がちゃんと進んでいてくれたのならば、夕方くらいに到着する距離に居るはずだ。

 それまで、バゾリに陣を敷かせなければ良い。

 「しかし、突撃隊に抜かれた時はもうだめかと思ったが、良く盛り返してくれた。」ジュリアスは言った。

 「アリス殿下が助けてくれたのです。」軍師は答えた。

 「アリスだって!?」ジュリアスは目を丸くして叫んだ。「アリスが来てるのか!?今、アリスはどこにいる??」

 ジュリアスは軍師に案内させてアリスのもとに駆けつけた。

 アリスは騎兵をなぎ倒してきた丸太を枕にすやすやと眠っていた。

 さっきまで縛っていた金髪がほどかれてふんわりと広がっていた。

 いかん。可愛すぎる。

 てか、この戦場の兵士たちの中で無防備過ぎなんじゃ。

 いちおう、アープたちが周りで見張ってはいるが、彼らも膝を抱えて眠っていた。

 「まじか・・・。」ジュリアスが頭を抱えながら言った。

 「ベルマリア公?」軍師がジュリアスの様子を見て首をかしげた。

 「まいったな。これで、我々はアリス派だ。」ジュリアスは重々しく言った。「どこかでアミール殿下と対決をせねばならなくなったかもしれん。」

 公爵たちの会議でも似たようなこと話してたな。

 「アリス殿下と協力状態にあったとしても、アミール殿下と敵対状態にあるという訳ではないでしょう。」軍師が反論する。

 「実際がそうであっても、周りがそう扱わない。バゾリたちは自らをアミール派と吹聴している。」ジュリアスは言った。「仮にここで私たちが勝ったとしよう。そうすると、正義アリス派が悪アミール派を倒した事になるんだ。」

 「反乱軍とアミール様の間に強い繋がりがあるとは思えません。アミール様を本当の意味で擁立しているのは紫薔薇公なのではないかと存じますが?」

 「問題はそこではない。王女アリスが狼藉を働いているアミール派閥を倒したと世間が認識したとすれば、アミールは何もしていないのに悪となり失脚する。そして、アミール派を倒し騒乱を収めたアリスが王になるだろう。」ジュリアスは答えた。「そうなれば、アミール派の貴族たちが絶対に黙っていない。場合によってはアミール殿下と殿下を擁立する貴族たちが断罪されかねない。幾らロッシフォール公であっても後継人として黙ってはいる訳にはいかない。」

 「もともと王位はアリス殿下が継ぐ流れだったのですから、文句も何もないでしょうに。」

 「今は二人ともに継承権がないのだ。」ジュリアスは軍師に説明した。「私かアピス以外の王位はどのみち簒奪になる。どうせ簒奪になるのならば、アミールが王になっても良いのだ。」

 「そうなのですか?つまり、もし、この戦いに勝てたとしてもエラスティアのアミール派が、そして、紫薔薇公が宣戦してくるかもしれないと?」

 「多分な。彼らはアミールの名誉を守らねばならん。」ジュリアスはため息をついた。「アキアとミンドートはアリスにつくだろう。というか、ここでアリスに助けられたことで、私やモブート公もアリスにつかざるを得ん。モブート領なぞ割れるだろうな。」

 「本当にそこまでなりますかね?」

 「普通ならばなるだろうな。」ジュリアスはため息をついた。「もしロッシフォール公がアリスを王女としたいと考えているならば、あるいは何とかしてくれるかもしれない。それが一縷の希望だ。」

 それじゃあ、絶対そうなるんじゃないか。

 アミールたちは一体どこにいるんだろう?

 【管理】では『ロッシフォールの近くの個体』みたいなソートは出来ない。

 ひたすらエラスティアに居る誰かに視点を移し続けて、たまたまロッシフォールと居る奴を探し出すしかない。

 だが、今はそれどころじゃない。

 犬を配置したり、蜂を連れてきたりとかせにゃならん。

 「一つ、いい作戦があるのですが、」軍師が言った。

 「聞かないぞ!」

 「ジュリアス殿下に継承権があるのなら、殿下がそのまま王になれば良いのではないですか。」軍師は無視して言った。

 「・・・・そうなんだよなぁ。」

 そう、ため息をついたジュリアスの気持ちを他所に、アリスは戦場のど真ん中で健やかに寝息をたてるのであった。




 ジュリアスの心配をよそに、その日、戦闘が起こることは無かった。

 野犬軍の出番もなかった。

 バゾリは、ジュリアスの懸念していたような長い布陣を取らなかった。

 バゾリには望みの布陣が敷けない二つの理由があった。

 反王家軍の兵たちが徹夜を挟んでの二連戦についに耐えられなくなったこと。

 もう一つ。戦っている間に革命軍が到着する可能性があったこと。

 反王家軍は斥候を放っていて、革命軍がどのあたりにいるかをずっと認識していたらしい。

 バゾリは革命軍の位置と膠着してしまった戦線を踏まえて、今日の撤退を指示していたようだ。

 彼らは革命軍に戦闘中に急襲されるリスクを抱えながら王国軍を潰してしまうことを狙うか、革命軍の動向が判明してから動くかの二択を迫られた。そして悩んだ結果、後者を取った。

 兵士たちにも休息が必要と考えたらしい。

 昨日の夜、頑張っておいてよかった。

 反王家軍は王国軍の様子を見ながら、交代で少しずつ休みを取り始めた。

 王国軍も夜襲のある可能性も考え、昼のうちから兵士を交代で休憩をさせるようにした。


 そして、1時間ほど後。

 反王家軍に流れていた情報通り、革命軍が到着した。

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